Side-S *4
オレンジの灯りにふわりと照らし出されたべッドの上には、赤いバラの大きな花束が置いてあった。
「ぅわ、ナニナニ?!すっげ!えっ?おれに?!」
「前に、白いバラ雅紀に貰って嬉しかったって言ったろ?『バラ返しだ!』なんてな。ハハハハ!」
「くふふふっ!ハンザワ翔さんっすか!フフッ!
や、マジかぁ~?ありがとぉ、しょぉちゃん!ぅわ、すっげぇ・・・重っ!」
ずっしりとした花束をベッドから抱き上げたのと同時に後ろからバラごと抱き締められた。
「や・・・マジでさ。こんな重みじゃ足りねェくらい、俺の気持ちデカイから。
・・・北米の方ではさ、バレンタインはオトコが大切なヒトへ花を贈るんだって。
俺の大切なヒトは、雅紀だから・・・」
右の耳元でそう囁く翔ちゃんのテノールの声が、カラダの芯を秘かに泡立たせる。
抱きしめられたまま頬と首筋にチュッ、チュッ、と音を立てて翔ちゃんの唇が触れる。
優しい感触に、思わず目を閉じる。
すると、抱きしめる翔ちゃんの腕にキュッと力が入って・・・
「・・・これからも・・・一緒にいてください」
「・・・!!」
急に改まって言われて、びっくりして一瞬頭ん中真っ白になる。
え・・・っと、どうしよう、あ、とりあえず花束置いて・・・
翔ちゃんの方に向き直って、照れくさいけど、素直な気持ちをちゃんと伝えようって思って両手を翔ちゃんの首に回して目を合わせる。
「ありがと・・・しょぉちゃん、すげぇ嬉しい。
おれで・・・いいのかな、ずっと一緒に・・・いても・・・?」
「雅紀が、いいんだよ。
お前こそ・・・俺なんかで・・・本当にいいの?」
「うんっ!おれも、しょぉちゃんが、ぃぃの。」
翔ちゃんと、視線が交わる。
それ以上、言葉を交わさなくても・・・二人の気持ちが重なっていることをこの胸の温かさが教えてくれる。
翔ちゃんが熱いまなざしでおれの目と唇を交互に見ながら薄く息を吐くから・・・キスを期待したカラダの芯が勝手に熱くなってきて唇から吐息が浅く零れる。
それを封じるように翔ちゃんの熱い唇がおれの唇をふさぎ、同時に舌で強く求められる。
両頬を翔ちゃんの手に包み込まれて脳の芯が痺れるくらい深く、深く舌を絡め合う。
「・・・んっ・・・ンんっ・・・」
ぅあ・・・流されそう・・・まだ・・・翔ちゃんにチョコあげてないのに・・・
頭の隅で僅かな理性を保つように考えていたら、ふと、唇が離れた。
「雪でカラダ冷えてンからさ、風呂、入ろうぜ?・・・一緒に。」
「あっ・・・!ぅ、うんっ!じゃ、おれ、着替え用意しよっかな、しょぉちゃんも用意するでしょ?」
よしっ、今がチャンスだ!
「あれぇっ?しょぉちゃん、ゴメン、おれ、洗濯する荷物、しょぉちゃんの車ん中に忘れてきちゃった!たぶんトランクだと思うんだけど・・・」
「マジで?取り行く?」
「あっ、うん・・・あのさっ、しょぉちゃん、悪いんだけど、しょぉちゃん取って来てくれない?おれね、あっ、トイレ!そう、トイレ行きたくって!」
ちょっとわざとらしくなっちゃったかなって思ったけど、大丈夫みたい。
翔ちゃん、うまく誘導できちゃった!くふふ。
見つけた瞬間の翔ちゃんの顔、見たかったな。やっぱついて行けばよかったかな?早く戻ってこないかな?くふふふふっ!