[8月XX日 土曜日 20:00]
『翔さん?オレ。終わったら連絡ください。何時でもオッケーなんで。じゃ。』
ピー、という機械音のあと電話が切れる。
単身の仕事が終わってマネージャーの車の中、松潤からのメッセージを再生して動揺する。
ドクン、ドクン、ドクン・・・
なんだろう。このタイミングで・・・おそらくは間違いなく雅紀の事であろうとは、本能が察知する。
俺から雅紀を奪うと宣言するのか?
雅紀との幸せな時間や、グループとしての順風満帆だった日々が脳裏に浮かぶ。
「モデルズ」なんて言われてるあの二人が収録やコンサートで仲良くしてるのは目にしては来ていたけど、単にファンサービスの一環と思っていた。
(いや、正直、時には秘かに妬いてたこともあったんだけど。)
15周年、というこのタイミングで、俺達は・・・一体どうなってしまうのか・・・
「くっそ・・・!」
プライベートでたとえどんなことがあろうとも、それを決して表に出してはならない、という仕事に就いている自分たちの身を、今更ながら呪うような気持ちで・・・
それでも前に進むために、見えない道に足を踏み出すように・・・
深く息を吸って目を閉じ、細く長く、身体の中から黒い感情をすべて出し切るように吐き出す・・・
松潤から何を聞こうとも、それが雅紀の幸せに繋がるのなら・・・
統べて受け入れて、俺のキモチは心の奥底にしまい込んで・・・
雅紀(アイツ)が心を曇らせずに済むように、俺はなんでもないよと笑っていよう、と自分に言い聞かせる・・・
携帯を握りしめる右手を押さえ込む左手も震え、
呼吸困難になりそうに胸の内側が張り詰めて、
鼻の奥がギュッとなって、
視界を滲ませ、熱い滴りが目頭から鼻を伝う。
「・・・っく、」
おでこに携帯ごと両手を充て、込み上げる息を殺して、平静を取り戻そうと固く目を閉じる。
「櫻井さん?どうかしました?大丈夫です?」
マネージャーの声に、心配を掛けまいと3列目のシートから声を張る。
「いやっ、ゴメン、大丈夫。ちょっと飴が喉に引っかかっちゃって。あー、俺、今から松本と会うことになるかも。ちょい電話します。」
気持ちを奮い立たせて携帯の通話ボタンをタップする。
...to be continued