これまでのお話
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[8月xx日 土曜日 6:15 Side.A]
朝、小鳥の声に意識が浅く戻り、目を閉じたまま左手が翔ちゃんを探してシーツを滑る。
あれ・・・?あれ・・・?
腕を伸ばして大きく弧を描くけど、触れるのはひんやりとしたシーツの感触だけ。
ハッと目を開けてベッドの上、横にいるはずの姿がないことに一気に意識が冴えて飛び起きる。
「しょぉちゃんっ?!」
寝室を飛び出すとリビングのソファーの上、窮屈そうに横になって寝ている翔ちゃんを見つけた。
「・・・しょぉちゃん?」
ドクン、ドクン、胸がうるさい。
胸の真ん中がギュって痛くて、鼻の奥がツンってする。
どうしよう、ゆうべ・・・ダメって言っちゃったから・・・
怒らせちゃったかな・・・?
いつからこんなところにいるんだろう・・・
いつもは起こしても擦り寄って抱き枕にされちゃうくらいベッドに留まっている翔ちゃんなのに・・・
ドクン、ドクン、ドクン・・・
やっぱり、腹筋なんて変な意地張ってないで愛し合ったほうが良かったのかな・・・?
朝だって、頑張って起こせば済んだんだよね・・・
でもせっかく松潤も協力してくれてるのにムダにはできないし・・・
それともやっぱり翔ちゃん、デキないおれなんて必要ないのかな・・・
ただ隣り合って眠るだけなんて、男同士じゃナシ、なのかな・・・
おれがオメデタイだけ?
考えてみたら、求められて断ったのって初めてだったかも・・・。
考えがそこに至り、ゾクリと、足元をすくわれそうになる。
ドクン、ドクン、ドクン・・・
どうしよう、翔ちゃんに限ってそんなはずないって頭では分かってるんだけど・・・
どうしよう、でも翔ちゃんエッチ好きだし、もしかしたらって思うじゃん。
・・・オトコなら妊娠の心配だってないし・・・。
近くにいたおれは生活ペースも似てて都合が良かった・・・?
だいたいおれ達、前はビデオ貸し借りしたりグラビア一緒に見て「せえの」って好みのオンナノコ指差しあったりしてたじゃん。
胸もないのに・・・オトコのおれなんかに翔ちゃんが欲情するなんてさ・・・
おれが翔ちゃん好き好きって言い過ぎて、優しい翔ちゃんは合わせてくれてたのかも?
冷静に考えたらおれってばオトコじゃん・・・
あ、どうしよ。自信なくなってきた・・・
ドクン、ドクン、ドクン・・・
胸に黒いモヤモヤが渦を巻いて息が苦しい。
翔ちゃんの冷たい横顔が脳裏に浮かんで指先が冷えて小刻みに震える。
とにかく、翔ちゃんと話そう。怒ってたら、謝ろう。
ギュウギュウする胸の痛みを堪えながら、翔ちゃんを起こそうと話しかける。
「・・・しょぉちゃん?」
「ん・・・あぁ、雅紀・・・おはよ。」
「うん、おはよう・・・どしたの?こんなとこで・・・風邪ひいちゃうよ?何にもかけないで・・・」
いつもみたいにおはようのキスをしようと思ってソファーに近付いて翔ちゃんの頭側にしゃがみ込んだのに、
「あぁ、いやっ?夜中にさ、喉渇いて起きて・・・そのままなんとなく?」
って言いながら起き上がってしゃがんだおれの逆サイドに座り直されちゃった・・・
ドクン、ドクン、ドクン・・・
いつもだったら・・・その腕がおれのうなじに伸びてきてコッチが気を抜いてる時にだって強引に唇を奪うのに・・・
なんとなくだった不安が、一気に確信に変わり大きな塊に膨れ上がっておれのココロを押し潰す。
「・・・そっか・・・」
やっとの思いで絞り出した声も、あとに言葉が続かない。
「ん・・・あ、俺そろそろ支度するわ。雅紀、適当にしてていいから。」
「あのっ、しょぉちゃん?」
つい呼び止めたけど、なんて言えばいいんだろ。
胸に渦巻くこの気持ちをうまく伝える言葉が見つからないよ。
「・・・なに?どした?」
「えっとさ・・・ゆうべ・・・」
Prrrrr... Prrrrr... Prrrrr...
「・・・電話 鳴ってんぞ」
「あっ、・・・うん・・・」
Prrrrr... Prrrrr... Prrrrr...
「・・・ホラ。」
「あっ、ありがと・・・」
携帯を手渡され、[松本薬局]と文字の浮き出た画面を確認して翔ちゃんを見上げる。
翔ちゃんは、何も言わないまま・・・奥の洗面所の方へ行っちゃった。
「・・・もしもし?マツジュン?おれ・・・ねぇ、マツジュン、どうしよう、おれやり方間違えちゃったかも。」
後半、涙声になっちゃったけどそんなこと気にしてる余裕はなかった。
... to be continued
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