397 「ホワイト・ドック」元飼い主のいったあのセリフに憤死しそうになった僕 | ササポンのブログ

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いぜんに
「裸のキッス」の評を
書いたときに
サミュエル・フラー、あなどれない
このおっさん、
とんでもない・・と書いた
このおっさんのすごさ
なんだろう

それは
簡単にいえば
カテゴライズされない監督。

社会派
B級映画の巨匠
フランスのシネフィル系監督の憧れ

いろんな言われ方があるが
そんな
カテゴリーには収まらない
完全に凌駕した、
完全なる映画監督

映画監督には、
職人と作家がいる

それぞれに巨匠はいる

でも
このふたつの腕を持った映画監督は
サミュエルフラーと、あの監督しかいない

両方の要素を持っている監督はいる
しかし
両方で超一流なのは
フラーおっさんと、あの監督だけだと
僕は確信した

もうひとりは
最後に書きます





この映画、
ジャケットや説明文に偽りはない

低予算のB級映画

そのなかでも、
常識的な映画ファンからはほとんど無視されるジャンル
動物パニックものだ

さらに
低予算なので、
襲い掛かってくるのは、白い犬1匹

同じ、甦る映画遺産シリーズで出ている
燃える昆虫軍団のほうが
よっぽどスケールがでかい。

つまりは
ぼんやりと見ていると
「なんだ・・この程度か・・」と思うかもしれない

だから
もしぼんやりと、なんとなく
映画を見たい方は、
この映画、やめたほうがいい。

さらに
やめたほうがいいのは
このサミュエルフラーが、
ゴダールなんかに褒め称えられた、
アート監督だと思っている人

僕は、
フラーの映画に知的なアートを感じたことはない

なんせ
時間も1時間30分だ
どう考えても
アート映画の長さではない

じゃ
どんな映画かと聞かれれば
「僕が思う、本物の映画」




この映画で
僕が一番、戦慄したのは
元の飼い主登場のシーンだ

こんなおいしいキャラをあっさり出して
すぐに引っ込める

しかし
そのインパクトは最凶だ
特に
この野郎が
言ったあのひとこと
ジュリーが「あなたがホワイトドックを作ったのね?」の
答えていった、あの一言
もうそれだけで
この野郎のゲス精神が見事に、鮮やかに
表現される

僕は
これから
映画の名セリフを聞かれたら
このセリフを言うだろう

この男の風貌や格好も最高だ
凡庸と善人の中に巣くう差別のマグマ
この男に育てられている娘ふたり(ひとりはフラーの実の娘)の
将来を思うと、
絶望感は増幅する

この映画に希望などない
明るい未来などない

なぜなら
これは
人間のなかの差別を描いているから

登場人物たちが戦うのが
差別だから



このホワイトドックは
もうインプットされた、差別マシーンだ

従順、無垢の犬に対して
最も効果的な方法で
差別を刻印する

その方法も
シンプルがゆえに
恐ろしく効果的だ。
差別の脳みそは
こんな下劣な方法を考え付く
これだけでも
もう
吐き気がする

こんな差別マシーンにたいして
黒人調教師、キーズは
人間的な使命感というよりは
調教師の意地で
挑んでいく

犬好きでなくても
観客は
なんとか治してくれと思う

これだけでも
この映画は大成功だ

こんな短い時間で
こんな低予算で
これほど強烈に差別の恐ろしさと根深さを
感じさせてくれる映画はない

それも極めて映画的に
わかりやすくだ

このわかりやすさが
フラーの強さだ

表現として
下に見られようとかまわない
下品と見られてもかまわない
映画なんだから
わかりやすくやればいい

なんだか
似ている。

あの監督に

楽しくて
悲しくて
ばかばかしくて
ウキウキして

壮絶で
素早くて
粋で
血の匂いがして

そして
美しい映画を撮る、監督

岡本喜八に