317 「羊たちの沈黙」  俗にも聖にも陥らずに静かに愉快に | ササポンのブログ

ササポンのブログ

映画、音楽、アニメにドラマ
そしてサントラなブログ
ひとを観ていないものを観ます

ハンニバルレクターシリーズ第二弾

この映画が公開されたときは
こんなシリーズの名前など
なかった。

それどころか
公開前は
それほど話題になっていなかった

アメリカでは
トマスハリスは
ベストセラー作家であり
デビュー作の
「ブラックサンデー」の映画もヒットした

しかし
日本では
「ブラックサンデー」はお蔵入り
「レッドドラゴン」は公開されただけでもラッキー状態
僕は横浜の映画館で
2人の観客と一緒にみた

しかし
この
「羊たちの沈黙」は
大ヒットした


この映画は
巨大な影響を
特に
TVドラマに与えた

この映画によって
TVドラマ
ふたつのジャンルが生まれたのだ
ひとつは
「プロファイリング」もの
もうひとつは
「優秀だけどかなり難あり主人公」もの

「プロファイリング」ものは
「クリミナル・マインド FBI行動分析課」
「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」
「WITHOUT A TRACE/FBI 失踪者を追え!」など
表面的にプロファイリングを謳っていなくても
捜査手順は完全にそれである

「優秀だけどかなり難あり主人公」ものは
「デクスター」
「ミスターモンク」
「Dr.HOUSE」 など

これらのシリーズは
完全にこの映画のヒットによって
生まれたものだ

この映画と
前作の「レッドドラゴン」のどこが違うのか
それは
監督の違いだ

ジョナサン・デミ
ロジャーコーマンのもと
「女囚刑務所・白昼の暴動」でデビュ

なんといっても
彼が
注目されたのはこの映画



とにかくなにが素敵かって
わくわくすること
トーキングヘッズのファンでなくてもわくわくする
映画的な
興奮に満ちた
コンサート映画

この映画を
監督したデミは
この後
「サムシングワイルド」
愛されちゃって、マフィア

これらの
プログラムピクチャー
表面は
デパルマや
マンのような
スタイル重視のアクションのようにみえる
しかし
そこには
確かに人間の感情があった


この映画が
なぜ前作をも成し遂げられなかった
ヒットと評価を得たのか

それはまず
アンソニー・ホプキンスの名演
最強の頭脳と狂気を持ち合わせた
男を
俗にも聖にも陥らずに
静かで愉快に
演じた

この手のサイコ男を
観客に魅力的に魅せるのは
かなり高度テクだ
下品にやるのは論外だし
上品にやりすぎると迫力がないし
第一
嘘くさい
所詮は殺人鬼・・・という部分は残さなくてはならない
そのバランスは
この映画に絶対必要だった

この映画の根底には
レクターと
ヒロインのクラリスの間に
恋愛があるのは
誰の目にもあきらかだ

しかし
もちろん
具体的に凡庸な恋愛シーンなどない
あるのは
恐ろしいほど
歪んだそれゆえに
純真な愛の思いだけだ
とくに
レクターの思いは知性と禁欲の間で
ゆれる





このふたりの
気持ちの揺れに焦点を絞って
演出したデミの腕は
すでに巨匠の風格が漂う

すべてのシーンに漂う緊張は
すべて
人間の感情が作り出すものであり
ガタガタ揺れる画面や
うるさいだけの音楽ではない

これこそが
このきわめてゲテモノな映画なのに
多くの人間に共感を呼び起こした誘因だろう

もちろん
クローネンバーグ映画でおなじみの
ハワード・シュアーのバレーのようなメロディーも
忘れてはいけない