
まだ観ていない映画が
頭の中で
妄想の中で
どんどん広がっていく。
断片だけの情報によって
その妄想はさらに広がっていく。
やがて
その映画を実際に観ると
当然のごとく
妄想の映画とは違っている。
実際の映画が、
その妄想映画より上なら
幸せ。
下なら
不幸。
高校大パニック
石井聰亙という大学生が撮った
17分の8mm映画は
僕の高校時代の思いを縛った
妄想映画。
この映画は
元上板東映支配人 小林紘というひとが
主催した自主映画の上映会で
話題になった。
観客に熱狂的に受け入れられた。
だった
17分の8mm映画である。
出ている役者も、
スタッフも、
もちろん素人である。
しかし
その話題はメジャーな映画会社の耳に入り、
なんと
日活でリメイクされることとなった。
「数学、できんのが、なんで悪いとや!!」と
叫びながら
ライフルで数学教師を撃ち殺した高校生。
そこから
高校全体が
パニックに陥っていく。
恐らくいまなら
新人であろうが
生きのいい当時の石井聰亙に撮らせるだろう。
しかし
当時のメジャー会社の発想の中に
ド素人に35ミリを監督させる・・というのはなかった。
リメイク版は
監督が
沢田幸弘と
石井聰亙が共同で当たった。
しかし
なんの権力も戦略もない石井に
現場での出番はなかった。
出来上がった映画は
悪い意味での
普通の
よくある青春暴力映画になってしまった。
そのうっ憤を晴らすように
石井聰亙たちは
手にした原作料をすべてぶち込んで
「激突!! 博多愚連隊」という8mm大作を撮った。
僕は、
愛知の安城と言う片田舎の高校で
ド素人の17分の8mmで
映画監督になったやつがいる・・という
噂だけは聞いていた。
しかし
当時
その映画を観る手段はなかった。
DVDどころか
ビデオですら
夢また夢の時代。
僕は
まだ観ぬその映画を憧れこがれ、
とうとう頭が焦がれて
高校の校舎の中で
8mmとモデルガンを振り回して
自分の真っ白な制服に、爆竹で着弾の仕掛けを作って
胸に火傷を負ったり
屋上で銃撃戦を撮影して
先生に怒鳴られたりしながら、
とうとう
30分の映画を撮ってしまった。
しかし
当然のことながら
メジャーな映画会社からの誘いはなかった・・。
やがて
数十年後、
名古屋の上映会で
実際の「高校大パニック」を観たが
僕の心にはなにも起こらなかった。
それは
僕の青春というやつでありました。