
いきなり
「子連れ狼」のスチールである。
日本一、いや
当然のごとく
世界一、殺陣の上手なひとであります。
このひとと
ジェットリーの異種剣戟対決を
見てみたかった・・と思うのは
僕・・だけか・・。
若いころは
スターとしても
君臨し
そして
歳を取ってからは
演技派として
ありとあらゆる名作に出た稀有な俳優であります。
器用なひとではない。
派手なひとではない。
なんせ
弟があの勝新太郎である。
どうしたって地味になってしまう。
ただ
勝新にライバル心を燃やして
張り合う・・というところはなかったようだ。
何度も
共演しているし
嬉々として
勝新のモノマネをしていたそうだから
コンプレックスがあったとしても、
それを表に出すようなひとではなかったのだろう。
自ら
殺陣の凄さを世間に知らしめるようなこともしなかった。
不器用ゆえの実直さ・・。
実直ゆえの生真面目さ
生真面目ゆえの頑固さ。
この映画の
若山の役
松田鉄男もそういう役である。
「みっともねえ!?
伯父貴、俺たちやくざはなんでドスの下を潜ってきたんだ、
なんでヨセバにも落ちるんだ
伊達や酔狂でそんな修業を
積んできたわけじゃないんだ。
命をかけて一家に
松杉を植えりゃァ
いつかはてめえにも
花の咲く日がきて
兄貴とも親とも出世出来ると
思やこそだ。
そいつを先代の娘婿だからって
昨日まで五厘下りの弟分が
今日は一文上がりで
親を名乗ったんじゃ
やくざの仁義はどうなるんだ!!」
組のために
ムショ勤めを終えた松田を待っていた
納得できない人事に激怒。
「兄弟ッ、俺の言い分は間違ってるのか!?」
鶴田浩二の演じる兄弟分に問いかける松田。
間違っちゃいねえ・・。
でも
正しいことが通らないのが
世の中というものなんだよ。
ぎょうでぇ
筋の通らぬことばかり・・。
そう歌った鶴田浩二が
自らを救ってくれた先代のために
組をつぶさないために
必死になって
走り回る。
組織にこだわり
組織の継続
やくざとしての
組を存続することを望む
鶴田浩二の演じる
中井信次郎
義を重んじるやくざな人間として
その信じる義に従って行動する松田。
どちらかが
頑固を曲げれば悲劇にはならない。
恐らく
世間の男たちは
頑固を、義を曲げて生きている。
しかし
映画、とりわけ任侠映画では
それが曲げられない・・・。
なぜと言われても
わからねえ・・。
だから
実録モノはわかっても
任侠映画はアメリカ人にはわからない。
現代の日本人にもわからない。
あ~あ
分かってくれとは言わないが
そんなに俺が悪いのか・・・
ララバイ、ララバイ
おやすみよ
ギザギサハートの富三郎・・。
悲しみのラストの向かって
突っ走る
ふたりの男は壮絶である。
それはもう
任侠映画が持つ美しきラストではなく
ただ、もう凄惨な惨殺悲劇が
繰り広げられる・・。
あまりにも
完璧に構築された
意地と頑固の人情悲劇
人の情と書いて人情
それは
人の激情でございます。
不思議でございますねえ。
人と人が寄り集まった組織・・。
そこには
けっして
情はうまれません。
なぜでしようかねえ・・。