
もし、このポスターだけを観て
この映画を想像しろと言われたら
どんな映画を思い浮かべるか?
怯えて抱き合う男と女
それを見下ろす恐ろしい顔の女・・
ほとんどのひとは
ホラー映画を
想像すると思う。
とてもじゃないが
名匠、ビリーワイルダー監督による
アカデミー賞11部門にノミネートされた傑作映画とは思えない。
しかし
このポスター、とても出来がいいと思う。
つまり内容を的確に表現していると思う。
つまりこれはホラー映画です。
間違いなく、とっても、とっても怖い映画です。
おまけに
化け物が2匹・・失礼2人もでます。
まず一人目の化け物。
グロリア・スワンソン。
落ちぶれた女優が、
落ちぶれたことがわからないで
生き続けている。
つまり
死んだことに気がつかずに
動き続ける
ゾンビである。
そのゾンビ女優、スワンソンの前に
ピチピチの若き肉、ホールデンがきた。
もう欲望と好色を剥き出しにしながら
この若い男のエキスを
チュウチュウと吸い取るスワンソン!!
そのいやらしさに
やめてくれと思いながら観ていると
そのうちに
哀れになっていく。
世間と隔絶された世界に住み
自らの幻影の中で暮らす女。
その虚構の世界は
僕たちが想像などできないような
華麗で完璧の世界だ。
それは
自ら作った巨大で虚構の遊園地のなかで
化け物と化したマイケルジャクソンの姿と重なる。
彼らに現実世界のルールを当てはめようとしてはだめだ。
人間の本質を皮肉たっぷりに描かせたら
ビリーワイルダーに敵う監督などいない。
その皮肉な視線が
自分たちの住む映画の世界に向けられると
その世界に住む人々は
化け物と蝋人形に見えるのだ。
その蝋人形たちのなかには
あのバスター・キートンもいる。
昔
日本最高の皮肉屋、筒井康隆の小説で
某国営放送の地下室に閉じ込められていた
往年のスターたちが
解き放たれて
人々を襲う・・というのがあったが
つまり
芸能の世界に生きる人たちは
俗世から見ればただの化け物なのだ。
そして
さらにこの映画が恐ろしいのは
その化け物を、
化け物のままで飼っている男がいるのだ。
この映画で
召使マックス役を好演したエリッヒ・フォン・シュトロハイム。
もうひとりの、本当の化け物である。
エリッヒ・フォン・シュトロハイム。
1920年代を代表する映画監督であり
強烈な個性を持つ俳優でもある。
異常な程の才能に恵まれながら、
自然主義的作風や、完全主義の製作態度でリアリスト過ぎたシュトロハイムの芸術は、
当時のハリウッド映画の枠に収まるものではなかった。
その異常とも言える執念は様々なエピソードに残されている。
ウィキさんより
彼のことを書き始めると、
物凄く長くなるので割愛するが
この映画中で彼自身が上映する
ノーマ主演の映画は、
実際に、シュトロハイムが撮影中に、スワンソンと衝突し撮影中止になり
結果的にシュトロハイム最後の監督作品となった「Queen Kelly」である。
なんちゅう、恐ろしい皮肉・・。
虚と実を絡めながら
この映画は
虚構の世界に生きる哀れをあぶりだす。
実際に
この映画の主演女優のキャスティングは難航した。
それは当然で
ビリーワイルダーは
スワンソン級の
かっての大物女優ばかりにオファーしたのだ。
こんな自分のことを
化け物のように皮肉られた作品に
誰が出るものか
スワンソンが引き受けたのも
彼女自身がその当時
お金持ちと結婚していて
いまの生活に満足していたからこそ引き受けたらしい。
さらに
実際にスワンソンにインタビューしたことのある
淀川さんによると
スワンソンというひとは
細かいことに頓着しない
さっぱとした性格だったらしい。
過去の作品を褒めても
全然喜ばない
「あら、そう」と受け流すよなひとだったようだ。
このふたりの化け物の
現実を
頭の隅に入れて
この映画を見ると
その作品で
ビリーワイルダーが込めた
人間に対する恐ろしい皮肉が見えてきます。
そして
この作品のラストで
ビリーワイルダーの作品の内部に
常に
隠されている
皮肉という刃物が
ギラギラと姿を表します。
このラストシーンは、
ビリーワイルダーと
チャールズ・ブラケットという
名脚本家コンビが作り出した
ハリウッドに生きる人間を切り裂く
嘲笑の刃です。