記念すべき一作目をどうしようかと思ったが、新作公開で、再びあの日が蘇ってきたので、この作品にしました。
昔話です。
愛知県安城市という典型的な小都市に育った僕にとって、名古屋という都会での映画鑑賞は、イベントでした。
とにかくいつも見ている岡崎の映画館と違って、劇場はでかいわ、画面はでかいわ、音はでかいわ、おまけに切符売り場と劇場の入り口の場所が違う(これって凄いことだったんです。昔は)。
いまでも覚えている。「レイダース」をはじめて見た劇場。
名鉄東宝。1034席という東海地区最大規模。印象からいえば、あの渋谷パンティオンよりでかかった。
僕は、ここで初期のスピルバーグの映画をすべてみた。
本当に、スピルバーグの映画がよく似合う映画館だった。
そう。スピルバーグの映画は、イベントだった。
そのなかでも、この「レイダース」は、特に楽しかった。
「ど頭に、クライマックスを持ってこよう」
当時としては、画期的な、この構成が、まず観客の度肝を抜いた。
あのごろごろと転がる石と逃げるインディ。いまから見ればチープな合成。でもいまみても、ドキドキする。石から逃げても、罠が一杯、死ぬわけないと思いながら、手に汗握る。やっと外に出たと思ったら、インディアン。走って走って、逃げて逃げて、飛行機に飛び乗るのを見て、観客はやっと呼吸ができる。
よかった。
あれ、まだ映画は、はじまったばっかり?
この贅沢さよ。
こんなもんじゃないぜ。まだまだ楽しいよ。
スクリーンの後ろからスピルバーグがほくそ笑む。
飛行する飛行機に、地図が重なり、移動する場所に向って線が引かれる。なんという映画的な、表現。
やがて当時の映画の悪の担い手軍団、ナチスが登場。あのナチの高官が、ペンダントの模様が焼きついた掌を見せたときのブラックユーモア。オリジナルの「隠し砦の三悪人」をぱくった・・いやリスペクトしたインディの馬での疾走シーン。
さらに、さらに、見どころたっぷりなこの映画。
この映画のヒットによって、似たような見どころ満載の映画が続々作られたが、到底この映画に敵わなかった。
その理由は、たった一言、スピルバーグの映画力であります。
撮影、演技指導、編集、そして音楽。映画のすべてを熟知した、映画の申し子である彼の映画力以外なにものではない。
彼は、映画で育った最後の映画監督。
この後の映画監督は、すべてビデオで育った映画監督です。
タランティーノもティムバートンも、そうです。
この両者にどんな違いがあるんだろうか?
「名鉄東宝」も「渋谷パンティオン」ももうありません。
でもインディの新作は、歌舞伎町のあのばかでかい映画館で見よう。