フローリングの床にはカラフルな色見本。
繊細なレースにキラキラビーズ。
その中心でお人形のように立っているのは高崎要、通称カナちゃん。
邪魔にならないように緩く両腕を広げ、腰元で作業する姉に呼びかけた。
「ねぇ、茨ちゃん」
「なぁに、カナちゃん、動かないでね」
手首のピンクッションから待針を数本抜き、スカート部分に細かくフリルを刻んでゆく。
「僕、好きな人が出来たのかもしれない」
「春?春なの?春めいているのね?高校デビューなのね!?」
茨が少しだけテンション高めに針を打ってゆく。
針の位置は正確だ。
「同じ学校の子?」
「そう、男の子」
「何気に問題発言ね」
要がこの春から通っている高校は元々男子校で、2年程前から共学になりはしたものの、未だに女子数は少なく、しかも女生徒の8割は『同性』という単語に期待感を持っている子が多かった。
実際、同性カップル多いしね。
「ジャケットの裾、もう少し長い方がいい?」
「いや、僕はこのくらいが好きだよ」
黒とグレーの細いストライプのジャケットに白のフリルスカート。
足元は約束のニーソックス。
だが、着ている本人は正真正銘の男子高校生である。
姉、茨(19)の趣味により、所謂ゴスロリ服のモデル中。