つづきいし・・1・・不思議な遠野物語 | 身体と心に優しいヘナの美容師ちえみのブログ

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身体に優しいヘナの美容師をしています。
また、岩手内で唯一のベトナム医道ディエンチャンのディプロマ保持者です。

2010年に書いた作品です。

内容は全てフィクションです。 


…………



また同じ夢を見た。
鳥居のような形の大きな岩の向こうにある
少し小ぶりな岩に、ちょうど鳥居を潜る様に
光が差し込むと、岩が音もなくスルリと2つに分かれて
中からキラキラ輝きながら光の粒子が飛びだし、その真ん中に人型が現れて私を手招きする。
今朝もそこで夢は終わった。

私の名前は黒田はなゑ。
岩手の県南に生まれ、地元の普通高校を卒業して、東京の大学を経て、今は都内の出版社に勤めているごく普通のOLで、俗に言う結婚適齢期にあと少しでオーバーする年齢となり、故郷の両親は早く嫁に行けと言うが、憧れていた出版社に就職できてから、近頃やっと仕事が認められるようになり、今が一番思い通りの仕事ができる様になり、結婚の二文字は両親には申し訳ないが今の私にとってはほぼ鬼門となっている。

そんな私が不思議な夢を見るようになり、今日で10日が過ぎようとしていた。

「おはよう どうしたんだよ、朝から難しい顔して」

同期で入社したフォトグラファーの斎田一人(さいだかずひと)が声をかけて来た。
彼は背が高く、どちらかと言うと強面な印象があり、怖いひとと思われがちだが、

誰よりも山と自然を愛する男で、大学では山岳部員だった。

山男らしく、ゆったりとした優しいところがあり、気取らずに話せる頼りになる友人である。

「またあのでかい岩の夢をみたのかい?」

一人がそう言いながら、右隣のデスクに腰かけ話しかけてきた。

「うん、今日で十日め…なんだか気味が悪くて…」

「だよな、でもさはなちゃん、本当に今まで見たことのない岩なのかい?」

「うん。形はイギリスのストーンヘンジに似てるんだけど…イギリスなんて行ったことないし…」

「手招きするってとこがちょっと不気味だよな」

「でしょう!そこなのよ!でもね、近頃はその先がどうなっていくのかが気になってしょうがないの」

不思議な夢は、まるで違う世界の出来事のように、日を追うごとに前に進み、

ここしばらくはこちらに向い、手招きしているところで先に進んではいない。

「だとしたら、はなちゃんに何かを伝えようとしているんじゃないかな?」

「うーん…そうなのかな?」

「それ以外考えられないだろう!だってさ、何度も同じ夢を繰り返し見ているんだろう、

ついでに夢の内容が物語みたいに前に進むんだろう?」

「やっぱりそうかな…実は私もそんな気がしていたの…だとしたら、私に何かを伝えたいのかな?」

二人してしばし考え込んだあとに

「それはその岩が実際に存在しているかどうか、

先ずはそこから調べて見ることだと思うよ」

私もそれが一番大切な事のような気がしたので、一人の言葉に素直に頷き

「そうだよね…」

と、小さな声で答えた。

そうは言ってはみたものの、どうやって調べたらいいのだろう…

なにせ相手は夢の世界の住人でなんの手がかりもないのである。

たとえ親しい友人の一人でさえ、イメージは沸くかもしれないけれど、

私の夢の中に出て来る岩をみつけるなんて、土台無理な話だと思いながらも、

なぜか夢の中に登場するあの岩は、絶対に実在していて

必ず会えると私は信じている。

「あんまり難しく考えるなよ」

そう言いながら一人は私の肩を軽く叩いた。


その時、左隣のデスクのやはり同期の福ちゃんが書類を抱えながら戻ってきた。

「お二人さん。おはよう」

デスクの上のパソコンを開きながら福ちゃんが言った。

「おはよう福原」

一人が手を上げ、福ちゃんに挨拶している

「おはよう、相変わらず早いのね」

「ああ、ちょっと調べものがあってね」

福ちゃんは毎朝一番に出社し、今朝も既に資料集めを終えたようだ。

彼は常にクールで現実的な考えの持ち主である。

「ところでさ。はなちゃんが見ている例の夢のきっかけって、やっぱりあの本なのかい?」

相変わらず椅子の背もたれに身体を預けたままで一人が声をかけてきた。椅子がギイギイと変な音を出している。

「ええ、思い出してみたんだけど、やっぱりあの本を一人から借りて読み初めた頃と重なるのよ。」

幼い頃から古代の歴史や文明が大好きで、よく図書館から関連した本を借りてきては、

今では尋ねる事のできない過去の時代に思いを馳せるのが好きだった。

それから不思議な出来事や精神世界や占いなどにも興味があり、

終末論で有名になったマヤ文明になぜか強く惹かれてしまい、

ある一冊の本を探していた。

その本は「マヤの占いの書」と言う題名で

マヤの20の神々が織りなす占いの本で既に絶版となっている本である。

あちこち探してみたけれど、ついぞ見つからず、話のついでに一人に話したら、

なんと!持っているというので、その本を借り読み始めた日から不思議な夢をみるようになったのである。

元々は一人が持ち主の本なのだから、本来なら一人が夢を見るのが当たり前なのに、当の本人は夢さえ見ないと言う。

やっと手にしたその本の最初には

…あなたも私達と同じ精神の持ち主ではありませんか?

ずっと前からありきたりのものに溶けこめず、あてのない心の旅を続けてきたのではありませんか?

この本は、あなたの内側に潜む大宇宙に繋がる意識と、心の奥に潜在する叡智を導き出す手助けをしてくれます…

更にその本の最後にはこんな注意書きがしてあった。

…この本にはマヤの精霊達が宿っています。どうぞ大切に扱ってください。…

本を手にしたきっかけを思い出しながら、気持ちを切り替えて仕事を始めようとデスクのパソコンを開いた時だった。

「おい!見ろよ!あの大きな岩!はなちゃんの夢に出てくる岩そっくりじゃないか?」

一人が突然福ちゃんのデスクのパソコンを指差して言った。

そこには、私が今、悩みに悩んでいる、夢の中に現れるあの岩にそっくりな岩がパソコンの画面いっぱいに現れていたのである。

パソコンの画面を見つめたまま動けないでいる私をみて福ちゃんが

「この岩かい?岩手県の遠野市にある続石だよ。」

福ちゃんの説明によると、柳田國男氏の代表作「遠野物語」が発刊されて、今年で丁度100年になると言う事で、我が社が記念のパンフレットの制作の委託を受け、福ちゃんが担当に決まり、来週から取材に遠野へ向かうと言う事だった。

今はその資料集めをしていて、たまたま続石について調べているところだったらしい。

「斎田!確か山岳部出身だったよな!来週一緒に遠野に行ってくれないか」

福ちゃんが一人を遠野行きに誘っているのを見て、私も居ても立っても居られなくなり

かなりズーズーしいお願いだったけれど、福ちゃんにお願いしてみた。

「福山チーフ!私も遠野行きに同行させてください」

これ以上ないほど頭を下げ、なんなら土下座もする構えで訴えたものだから

更に一人も

「こいつの夢の中に何度も出でくる岩にそっくりなんですよ。それに、はなちゃんは、岩手出身者ですから訛りの通訳もお願いできますよ」

と、パソコンの画面を指差しながら福ちゃんに一緒にお願いしてくれた。

そんな二人の勢いに負けたのか、福ちゃんから同行の許可が出た時には思わず一人と抱き合って喜んだ。


やったー!やっとあの岩に逢える。