王子の鯉の物語 | ささのブログ

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王子に住み始めてはや11年目。同じ場所にこれだけ長い期間住んだのは初めて。十年ひと昔、12年で干支は一巡。引っ越してきてから回りにはいろいろな変化があった。中でも、気に入って、妻とともに定期的に通っていた店がことごとく閉店してしまったのは悲しい。


まずは「坐和民」。落ち着いてゆったり呑めるので、引っ越してきてからの外食の定番だったが、「ブラック企業」としてさんざんに叩かれた頃に閉店。次は「磯丸水産」。目の前で好きな海の幸を焼けるシステムが好きで、ニューヨークからの留学生を連れて行ったりしたが、ここは開店から3年ほどで閉店。そして、ステーキハウスのケネディも最近、親会社の破産により閉店。また、新たなお気に入りの店を開拓しなくては。


マンションのすぐ近くに石神井川が流れている。対岸には、昔、川が蛇 行していたモニュメントである「音無もみじ緑地」というのがあり、池になっている。引っ越してきた頃、この「音無もみじ緑地」と石神井川には決まってある光景が見られた。それは、鯉。確か、もみじ緑地側に1匹、石神井川に緋鯉を含めた2-3匹の鯉が常に同じ場所にいた。


石神井川ともみじ緑地はコンクリートの壁で遮断されていて、普段は行き来することは不可能。だが、両サイドの鯉たちは、常にお互いが一番近いところに居続けた。半年も見続けているうちにそれは、日常の当たり前の光景になっていったが、「どうして彼らは動かないんだ?」という疑問は常に感じていた。


それが起こったのが、引越してきて9ヶ月後か、1年後か、あるいは2年 後か、記憶は定かではない。台風か低気圧による大雨が降った。当然、石神井川の水位も上昇。すると、石神井川ともみじ緑地を隔てているコンクリート壁の上まで水かさが上がり、水が一体化しているのが見えた。


数日後、雨が上がって水かさが戻り、再 び石神井川ともみじ緑地はコンクリート壁で遮断された。だが、いつもの鯉がいない。最初、大雨とともに流されたのか、と思ったがもみじ緑地側の鯉もいない。そこでようやくこれまでなんで石神井川の2-3匹の鯉がずっと同じ場所にとどまっていたのかがわかった。


おそらく、私が引っ越してくる前にあった大雨で川が増水し、同じ家族だった鯉の一匹がもみじ緑地に迷い込み、水かさが減った際に取り残されたのだろう。石神井川の鯉たちは、次の大雨を信じて辛抱強く待ち続けた。そして、待望の大雨でまた家族が一緒になり、その場を離れた。


全ては、いつも同じ場所にいた鯉を見て私が想像した話に過ぎないが、間違っていない気がする。小説家だったら、童話作家だったら、上手に脚色して、感動の話にするところだろうが、残念ながらその才はない。