(まだ読んでない方は「しぇんしぇの話」から読むことをお勧めします!)

高校生の頃日本一周中、アクシデント続き台風も直撃、夜中に旅館探しに悪戦苦闘しているお巡りさんに、俺は言った。

「あの、俺、ここまでずっと野宿で来てるんで。ここの納屋でも駐車場でも一晩寝かせてもらえたらそれで十分なので…。」

それは、俺の本心だった。

が、お巡りさんからは意外な言葉が返ってきた。

「馬鹿野郎!俺が暖かい布団の中でゆっくり眠るのに、お前だけ台風の中納屋で寝かせられるか!」と。

嫌々残業してくれてるわけではないんだな、心から心配してくれてるんだなと伝わり、以降は何も言わなくなった。

……やがて、一軒泊めてくれる民宿が見つかり。

そこまでパトカーの先導で行き。

無事着いた。


とにかくお礼を言うしかなかった。

長い時間と手間がかかっていた。

負い目のようなものを感じていた。


「あのすみません、本当にありがとうございました…」

「ええからええから」。


と、その言葉が終わるか終わらないかのうちに。


胸ポケットから財布を取り出し。


「これは俺からの餞別や」と。

二千円。


この日この時、このお巡りさんが言った名ゼリフは、25年経った今でも俺の中で全く色褪せることはない。


「ええか、このお金はな、俺には返さんでええ。その代わり自分が大きくなって、今の自分みたいな困ってる人間がいたら、その人に返してやれ」。


衝撃だった。

こんなにカッコいい人間に、出会ったことがなかった。

当時、ボクシングを始めてた。

強さこそが男としての唯一の価値で、絶対の正義だった。

けれど、それだけじゃないんだなと早いうちに気付かせてくれたのは、間違いなくあの時のお巡りさんのおかげだ。

……あの時頂いた二千円は俺にとって、それをはるかに超えた大きな価値を持った。

……俺は、あの時頂いた二千円を、できるだけたくさんの人に利子を付けて返したいと思っている。

それがしぇんしぇに対する恩返しだと考えてる。


……。

感動で、心が震えた。

あの日あの時、間違いなく俺の心に1つ何かそれまでなかったもの、価値観が植え付けられた。



様々な人が、様々なものを受け取って、様々な次の世代に伝えていく。

それが、この世界の流れなんだろう。

悪いものはほっとけばいい。

本当に良いものを、下の世代に伝えていきたい。



しぇんしぇに頂いた二千円は、まだまだ返し終わっていない。

〈完〉


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都内、桜。日本の心。


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