一人旅したんだというと、時々聞かれることがある。

「一人で旅しても、寂しくない?」


全然寂しくなかった。かつては。

毎日が好奇心と驚きと喜びに興奮しっぱなし。

誰がいようがいまいが、あんま関係なかった。

結局感じるのは自分なのだから。

・・そりゃー誰か気心知れた人が一緒にいたらより面白くもなるかもしれないけど。

放浪的海外旅行なんて日程合わせて来られる人の方が珍しいだろう。

仕方がないし、大きい問題じゃない。

むしろ完全に一人の方が、完璧な非日常感が満喫できる。


もちろん付き合ってた人と行ったこともある。

見知らぬ外国をふらふら歩いて知らなかったものに出会うなんていうスリリングな体験を教えてあげるのは、俺にとっても楽しいことだった。

……そもそも旅の最中に出会ったこともあるしね。

もちろんそれはそれで楽しかった。


・・・いつの頃からだろう、誰かいた方がいいなと思い始めたのは。

感じるのは自分なんだけど、それを共有してくれる人がいないと儚(はかな)いものに
思えるようになった。

ボクシング引退したら世界一周に旅立とう、その時付き合ってた子を連れて行こう、
…そしたらさすがに相手の親にも挨拶と許可を得なくてはなるまい、ちゃんと結婚して
一生責任持とう。

最高の、とは言えないかもしれないが、唯一無二の新婚旅行だ。


・・・とかなんとか思ってたら、まさかの彼女いない時に引退になった俺は、単独世界一周するはめに・・。(泣……いてなんかいないぞ)

仕方ない、寂しいけど一人で世界一周だ。・・まぁいいこともあるだろうしね。



ベネズエラ、ロライマ。

恐竜時代より昔に断崖絶壁に隔たれたその秘境は、今も独自の生態系を残す。


<固有種の植物>

そこに出ている六日間のトレッキングツアーに申し込んだ。

現地ガイド、荷物を運ぶポーター、そして我々ゲスト。

ゲストは俺の他、スペイン人カップル、イギリス人とエクアドル人のカップル、ブラジル人夫婦。

俺だけ一人!泣笑

すげービミョーな空気。


俺に気を使ってスペイン語でなく英語で話してくれてたりもしたが、そこまでベラベラ喋られても分からないし。笑

ブラジル人夫婦はポルトガル語しかほぼ喋れない。

……てのもあり。

必然的に、俺一人。


夕食を済ませ、少しその場にいたが、それぞれのテントに戻って行った。

ロライマの絶壁の上は空気が澄んでいて、夜になるとまさに空一面が星の輝きで埋め尽くされていた。

輝くのは空ばかりではない。

地上には無数の蛍が、光の舞踏会を開催していた。

空も大地も、漆黒の闇とそれを照らす光で、コントラストを描き輝いていた。


こんな景色が地球にはあるんだなぁとしみじみ感じる美しさの中。

・・やっぱり誰かと来たかったなと、心から思った。


俺だけの、一人用のテントに入る。


寝転がって、ぼんやりもの思う。


……「幸福は、自分の心が決める」。

…うん、そうなんだろうな…。

けど無理矢理自分は幸せだぁって決めたら、それって幸福なのか??


……思索は思うままに、コロコロと続く。

そんなことをゆっくりできるのも、旅だからだ。


・・そもそも幸福って、何だろう?

・・・俺の今までの幸福は、間違いなくボクシングにあった。

ボクシングが全ての中心にあった。

けどこれからは?

ボクシングをやめた以上、ずっと幸福でない状態が続くのか?


仮に俺に嫁に来てくれる人が現れたとして。

…ごくごく平凡な家庭を築く。

そしたら俺は幸福なのか?

どうなんだ?



・・・さらに昔の旅のことも、思い出した。


試合後、短期ながらアジアを旅してた時。

あるバックパッカーが言った。

「酒でも飲まなけりゃやってられないですよ」


……そんなんなら旅、やめちまえばいいのに。


旅そのものが目的でやってるんじゃないのか?

旅が楽しくて仕方ないから、色んな代償を払いつつも、やってるんじゃないのか?


……旅も、馴れちゃうんだ。


メシは、腹減ってから適量を食べるべきだ。

さもなくば美味くも何ともないばかりでなく、様々な弊害を伴う。


俺が苦しい苦しいボクシングの試合を終えて、束の間の安らぎである旅。

・・それを、酒でも飲まなきゃやってられんと。

そんなんなら、やめちまえよ。

心底そう思った。


…しかし今なら、少し理解できる。

結局人は、馴れちゃうんだ。

贅沢な悩みだと言われようが何だろうが、楽しくないものは楽しいとは感じられない。


バイキング料理行けばいい。

もう食えないとなろうが、それはアフリカの難民からすれば贅沢な悩みだ。

まだ食えるのに適度なところで止めるなんて贅沢だし、食い過ぎて気持ち悪いなんてのもまた、贅沢な悩みだ。

腹一杯になって美味くもなんとも感じれなくなっても、それも贅沢な悩みだ。


…でも、先程のバックパッカーの彼は実際にそうだった。

夢のような旅をしていながら、すでにもう満腹だった。

それ自体に彼の幸せは、もはやなかった。



・・・・もう一つ、昔の旅のことを思い出した。


かなり前に書いたけど。

まさに楽園というのがふさわしい南の島。

そこにたった一日二日いただけで、最高に気分がいい。

ずっとここにいられたら、どんなに幸せか。

そんな風に感じる、南の島。

そこに住んでいるある日本人女性が言った。

「人生、チュラチュラよ。無理して頑張ってもいいことない。自分に出来ることを無理なくゆっくりやって生きて行けばいいのよ」

俺とほぼ正反対の考えを持った女の人。

・・俺は、不可能に全力を尽くして挑戦したから、ある程度のとこまではいけた。


数年後。


楽園のようなその南の島で、彼女は自らの命を絶った。


・・・あんなに、最高の、環境で・・・・・。


・・・。

多くの人は、自分の幸せを、周りの環境のせいにする。

誰がどうだから、周りの環境がどうだから…。


その時、頭の中で何かが爆発した。

それは、かつてないほどの強烈な爆発だった。

<続く>



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