ある顔見知りのボクサーと、少し話した。
・・・才能を持った、間違いなく強い人。
自分の指導者と、合わなくて困っていたと。
・・まぁ、今はとりあえず解決したんだが。
その指導者は俺も知っている人だったが。
実績もある。
今の日本のボクシング指導者の中で、間違いない人の一人だ。
俺もすげーと思ってる。
・・・その人が、なぜ?
そう、技術指導に関して、おそらく間違いない人。
その人が、致命的なミスをおかしていた。
何だと思う??
・・ミス、とまでは決めつけられないな。
今でもそうやって結果出し続けてる人もいるわけで。
何が、問題だったのか。
言おうか。
根本的とも言える部分で、選手と意見が合わなかったのだ。
で、そこで、絶対に自分が正しいと譲らなかったのだ。
…日本は師匠と弟子がいて。
師匠の言うことが間違いないわけで。
弟子の分際で師匠の意見に口を挟んじゃいけないわけで。
そういう縦社会を、日本ではボクシングジムも継承している。
教えてあげてる先生様なんだから、偉いのは当然なのだ。
が。
アメリカのトップ選手は、自分でマネージャーと契約をして、トレーナーを選び契約をする。
トレーナーが気に食わなかったら解雇だ。
トップ選手の中には何人もトレーナーを変えてる選手もいる。
パートナー。
てか雇い主と雇われ人の関係。
もちろん教える教わるってのは変わらないけど。
かなりスタンスが違うんだと思う。
マルコ・アントニオ・バレラのトレーナーとして一躍有名になり、帝拳に来てトレーナーになった田中繊大さん。
日本に来て、たちまち世界チャンピオンをボンボン量産した。
もちろん、素材が揃っていてのことだけど。
伸ばす人間がいなければ、あそこまで帝拳を世界チャンピオンだらけには出来なかったと思う。
そんな繊大さんが、何を教えるかと言うと。
・・・・ほとんど何も教えないんですよ、実際。マジで。
・・・じゃ何するのかと。
選手のやりたいようにやらせる。
明らかにマイナスな時だけアドバイスして。
あとは基本、やりたいようにやらせる。
選手をリズムに乗らせて。
選手のやりたいように。
・・・才能ある人間にはそうさせるのが一番だって分かってたんだ。
・・・メイウェザーが「相手が寝てる時に自分が練習するのが、精神的な余裕に繋がる」とかなんとか言って、深夜に練習してた話したじゃんか。
あれを仮に、誰かが無理矢理止めたら、メイウェザーはもっと強かったのかと。
んなことないんだよ。
やりたいように出来なくてストレス溜まって、たぶん良いことなかったよ。
あれはあれでいいんだよ。
ベストじゃないのは誰でも分かるんだけど、仕方ないんだ。
やるのは本人なわけだから。
・・・ただこれはまた、選手との相性や文化もあって。
例えば協栄時代にお世話になっていたジミンさん。
彼は、絶対に自分の言う通りじゃないと気が済まなかった。
自分のやり方にプライドを持ち、それにこだわっていた。
…ほとんどの人がそうではあるけれど。
そんなジミンさんに教わっていたサーシャ・バクティンは、「ジミンさんとじゃないとボクシングは続けられない」と言っていた。
サーシャは世界こそ取れなかったものの、近年の日本でボクシングを披露したボクサー全ての中でもかなりの上位にくることは間違いないだろう。
世界タイトルマッチを組んでもらえないまま無敗で引退したのは、実にもったいない話だった。
・・また話がずれてきた。笑
色んなケースがあるよということ。
繊大さんが日本に持ち込んだ最大のもの。
それは、選手中心の物の考え方にあると、俺は思う。
・・・もちろんそれだけじゃなくて他にも色んな技術は持っているんだけど。
最大のポイントを一言で説明しろと言われたら、そういうこと。
・・・もちろん、初心者の最初から選手中心、とかじゃないよ?
初心者のうちは繊大さんが教えるまでもないのでそれほど見てないけど。
ある程度自分で試合や練習を組み立てられるようになった経験者、そしてそれが自動的に正しい方向に向かう才能を持った人。
それが、繊大式トレーニングにマッチする。
持っている才能を、下手にいじらずそのまま引き出し、伸ばす。
それが繊大さんのやり方。
・・・それが天才的に優れているから誰も真似出来ないんだけど。
俺がキャリアラストの方で、自分で繊大さんから中野さんに代わってもらったのは、後輩に譲るという名目の他、そういう理由もあった。
天才を教える天才だから。
凡才の俺が、ただ単にやりたいようにやってたって世界には通用しないことは、自分がよく分かっていた。
もっと細かく色んなことを教えてくれ、作戦を立ててくれる人が必要だった。
・・やはり相性ということに落ち着くけど。
それがまたどの時点で、ということも関係なくはない。
やはり最初のうちは、とにかくトレーナーのいうことを聞いておいた方がいい。
伸びない人間の一番多いパターンが、トレーナーの言うこと聞かずに半分我流で練習してるケースだから。
ただ、この繊大式指導法、指導法というよりもはや立ち位置は、俺も大いに活かさせてもらってる。
結局のところ、ボクサーは大体我が強いのさ。
だからボクサーになんてなるわけさ。
そんなボクサーに、絶対俺の言う通りやれなんて言っても、全て聞くわけはないのさ。
人は自分のやり方が好きなんだ。
それは教える側が自分のやり方でやりたいのと全く同じで。
旅前に見てた近藤のブログに、「佐々木さんは自分の意見にもちゃんと耳を傾けて聞いてくれる」と書いてあって、「あぁ、たぶん繊大さんのやり方を取り入れてるからだろうな」と感じたことを覚えている。
選手をとにかく上から指導するだけでなく、時とキャリアと場合によっては、後ろから背中を支えてやる。
そんなトレーナーのあり方も、ありだと思うんだ。
自分のやりたいように、指導する。やらせる。
それはある種簡単だ。何のストレスもない。
けど自分もちゃんと選手の個性、選手のやり方を理解して、道を探して行く。
これが理屈を通り越して効果絶大だったりもするのだ。
アフリカ最南端喜望峰にて、卵を温めるペンギン
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