〈②からの続き〉


同じ南米はペルーにて軍人による旅人殺害事件が起こったのは1998年だった。


早稲田大学探検部のメンバーが、ペルー奥地のアマゾン河支流で軍人に殺された事件だ。


その時もウン十万持ってたんだよな確か。


で、そんな大金持ち歩いてる方が悪いという意見も多かったのを憶えている。

  

 

……ベネズエラの空港。


見せたら終わりと言われている現金は、全て一枚一枚数えてテーブルに並べられた。

日本円にすると全部で三十万円近くあった。


完全に、しくじった。

 


やばいぞこれは。

 


試しに「ベネズエラの警官」でググってみるといい。


物騒なニュース以外には、旅人の被害ブログがこれでもかって位並ぶはずだ。

  

   

…。


「ちょっと待っとけ」と、主任らしきクソ警官が、外へ。


その間見とけと言われた他のやつらが、ガッチリ監視。

  

  

正直俺も、かなりイラつきは隠せない。


が、キレてても仕方ない。


いついかなる時も勝利へのベストウェイを最後まで模索する。


それは俺がボクシングから教わった最重要哲学の一つだ。

 


俺は、得意の作戦に出た。


iPhoneに入れている、チャンピオン写真。


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これを俺は密かに「印籠」と読んでいる。笑


お主ら控えおろう、この紋所が目に入らぬか!


……とまではいかないが、自分のことは相手に大抵一発で憶えてもらえる。


これ俺だよと。


すかさずYouTubeからダウンロードして保存している、世界戦の動画も見せる。


メキシコでやってるから中継がスペイン語で、南米の人には特にウケる。


暗に、俺は日本で有名な人なんだよ、俺に何かあると大変な問題になるよと。


…実際は東洋チャンピオンくらいじゃ全然有名ではないんだけど。笑


チャンピオンが目の前にいると思うと、有名人がいると錯覚してしまうわけですね。


周りの警官に、世界戦の動画も見せる。


…職業柄もあってか、これが軍人・警官に、大ウケ。


主任らしきクソ警官が戻って来る頃には、かなり味方な雰囲気。


そのうちの一人が、クソ主任に俺のことを言う。


クソ主任、見せてみろと。


これですよと。


……。


うーん…。


……。


うーーむ。。


  

…分かった。


行け、と。


よしっ!!

 


このボクサー写真(印籠)がなかったら、どう違ったか。


それは、正直分からない。


同じように行けとなってたかもしれない。


ならなかったかもしれない。


…しかし、後から考えるに。


目的は、完全に現金だった。


バックパックなど目もくれなかった。


さすがに市内の空港の中で警官に殺されるようなことはないだろうが、金は取られていた、…少なくとも取ろうとはされていたはずだ。

 

 

しかしとりあえず。


無事現金巻き上げ検査は、終了した。


以来ベネズエラでは、現金を腰巻に入れることは一度もなかった。


iPadカバーの隙間とか、靴の中敷の下とか、とにかく隠してた。


ちなみに、ベネズエラ出た瞬間。


コロンビアでも警官が検査でバスの中乗り込んで来たんだけど。


コロンビアの警官もそれほど評判良くはないんだけど。


「ブエノスディアス!(おはよう!)」と皆に挨拶して乗り込んで来て、降りる時は「グラシアス!(ありがとう!)」と言って降りて行った。


「お~コラ!金持ってるヤツはいねーのか??」と言わんばかりに目を血走らせて威嚇しながら警官が乗り込んで来るベネズエラから来たら、ものすご~く印象が良かった。


〈完〉