ボクシングやっていた頃は、楽だった。

何も、迷わないから。

何も迷うことなく、大好きなボクシングを思い切りやっていればただそれだけで良かった。

そのための痛みや苦しみなんて、ごくごく小さなものだ。

…例えそれが、一般的には大変な痛みや苦しみだとしても。


絞った身体から、体重をさらに10キロ落とす?

簡単なことだ。

その先に、夢があるなら。


一流ボクサーのパンチを喰らって、痛くないのか?

痛くない。

敗北の痛みすなわち夢を失う痛みに比べたら、痛みの範疇(はんちゅう)に入らない。


東洋とか世界とかで最強の人間と戦う。

怖くないのか?

怖くない。

その先に、夢があるから。


人は、夢があれば、迷わず生きていける。


毎日がつまらなかったり、自殺しちゃう人がいる理由はただ一つ。


夢と、それに対する希望を失うからだ。


……。

確かなものは何もなかったけれど、ただ夢に向かって一直線に突き進んでいれば良かった。そうしていられた。

何も保証はないけれど、そうし続けることが自分にとって正しい道だと、本能的に感じ取っていた。


人生とは、何か?

得ることだ。

自分が心から満足するものを。

自分が心から満足するものとは何だ?

まずは自分が、理想の自分であること。

完全に理想通りでなくともいい、少なくとも納得のいく自分であること。

理想の自分、納得のいく自分とは何か?

それは人それぞれだ。

顔がカッコいいことかもしれないし、外見に気を使うことかもしれない。

内面に気を使うことかもしれないし、頭が良いことかもしれない。

権力を持っていることかもしれないし、金を持っていることかもしれない。

他人に良く思われることかもしれないし、自分自身に良く思われることかもしれない。



そしてそれは、強さかもしれない。


俺にとっては、強さこそが全てだった。


ニーチェはツァラトゥストラに言わせた。

「善(よ)いとは何か?ーー勇敢であることが善いことである!」


極真カラテ設立者の故・大山倍達総裁は言った。

「男なら強くなれ!」

そのシンプルな一言は、今もなお俺をビリビリとシビれさせる。


今、俺は、世界一周の旅に出ている。

そうすれば目的を失った虚無から逃れることができると思ったからだ。

でもその実際はどうだ?

何とつまらないものか!?

目的を失って生きることの、何と味気ないことか!

何と意味のないことか!


….………。


暗くなったキューバはバハマの海岸で、一人そんな思いに耽った夜。

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………。

…………。

……な~んちゃって、ね。

てへ!