ものすげー試合だった。


正直言うと、楽勝とまではいかないまでも、勝ちは堅いと思ってた。


2R、早々に相手ダウン。

もう終わったかなと。

楽勝だったかと。

「あのパンチ力はずるい!(笑)」と言う声。

俺もずるいとさえ思う。

当たれば終わりだから。

6R辺り、またダウン。

今度こそ終わったか。


しかしこの前後から、驚異的と言っていい粘りを相手の淵上選手が見せる。

当たれば終わりのはずの幸治のパンチが当たっても、倒れない。

首がもげるんじゃないかぐらいに顎上がったりはしてたけど、ダウンは拒否する。

顔色も最初とは全く変わってきた。

さあ、そろそろ終わらせようか。


・・・いいパンチ入ってるのに、倒れない。

「ああいうの、危ないよな」と。

俺等見てて相手を心配してた。

ああいう倒れない選手が、危ない。

ダメージは確実に溜まってるから。


ああいうふにゃにゃ系の打たれ強いボクサーって、いる。

全体的にくにゃくにゃした感じなんだけど、倒れない。

暖簾をパンチしてもふにゃっとなっちゃって、手応えがないイメージ。

鉄の顎って感じじゃなくて、当たってもふにゃっとして手応えない感じ。


それでも倒れるのは時間の問題かと思ってたが。

ポイントも取ってたし。


幸治、打ち疲れ。

まともに喰らったダメージも手伝った。

目が飛んでた。

試合中なのに、ボケーっとガードが下りちゃう。

最後の方はその状態のまま相手の連打もらったりした。

正直、見てて怖かった。


けど、相手も間違いなく効いてた。

打ち返すと今にも倒れそう。


でも、最後は本当に効いちゃってて。

まとめられたところストップ。


まずい倒れ方だった。

いったんは担架出たが、セコンドに支えられながらもなんとか自分の足でコーナーに戻り、椅子に腰掛ける。

かなり休んでから立ち上がるとよろけて、また再び座らされた。

その後なんとか自分の足でリングを降りた。


控え室行ったが、ドクターチェックは無事終えて、ひと安心。

重篤なことにならなくて、良かった。



仮に、どっちも他人だったなら。

ものすごくいい試合だっただろう。

世界戦を除く年間最高試合かもしれない。

けど、身内だし、負けちゃったからね。

残念な気持ちと、事故にはならず良かったという負の安心。