「佐々木さんですよね?」今日。都内某場所。

A君としておこう。

知り合いのボクサーである以外は、伏せといて。


A君が練習生の時には俺は日本チャンピオンだったのかな?

まぁそんなかんじで。

向こうは前から佐々木基樹を知ってる、みたいな。


「(ボクシング)やってんだよね?」

「いや・・・実は・・・」

「どうした?」

「前の試合で脳内出血が判明しまして」

「そうか・・・でも命あって元気そうで、良かったよ」

不幸中の幸い。

脳内出血になっても、ピンピンしてて普通に生活してる人もいる。

「ええまぁ・・・  ・・・・で、」

「で?」

「日本じゃルール上無理なんで、海外行ってやろうと思ってまして」

「は?」

「海外でボクシング続けようと思います」

「いや、もうやめとけよ。命に関わるからマジで」

「いやでも、もうやるんで(笑)」

「いやいや、別に口出せる義理じゃないけど、やめた方がいいって。死んじゃうぞ?」

「いや、自分はもうまずいってタイミングが分かったので」

「どういうこと?」

「やられた時、バチーンと脳内で血管切れたのが分かったんですよ。たぶん切れた人は皆
分かってると思います。で、残り少なかったんでそのままやっちゃいましたけど、
そのまま続けると危ないんですよ。もうその感覚が掴めたんで、次はバチーンときたら
すぐやめます。それで絶対大丈夫です」

「いやいや、そんなん全くあてにならないから。やめた方がいいって」

「いや、でも・・・佐々木さんも分かるでしょ?やらなきゃ生きてる意味がないんですよ」

「分からん分からん。やめた方がいいよ」


・・・本当は、俺、分かってた。「生きてる意味がない」って意味。でも、止めたかった。


・・・でも、止められないのも、分かってた。


「連絡先知らないよな?とりあえず連絡先聞いとくよ」

「いや、何かで万が一迷惑かけたら申し訳ないので。佐々木さんと自分は格が違うし」

「いいから教えときなよ。何か助けられることあったら助けるからさ」

「いや、俺はそんな佐々木さんと連絡先交換するレベルじゃないんで・・」



分かる。

分かるんだけどよ。

気持ちはさ。

でも、もし何かあったら、必ず悲しむ人がいるし、迷惑かける人もいる。

自分だけの問題じゃない。

自分だけの命じゃない。


だから、やめろと思う。

やめろと言う。


ただ、分かる。


今の俺だったら、そんな理由があったらやめられるかもしれない。

もう大人だから。

でももし俺が彼の歳だったら、やめられないかもしれない。



若さは、時として無謀だ。



ただ、彼の無事を、祈る・・・。