帰国後。
「よくやった」と見た人から口々に言われたが。
俺はそれに違和感を感じていた。

しばらく考えて、分かった。

一言で言うと、期待値。

期待値の違いだ。

かつて、ランディ・スイコにギリギリの判定で勝った時。

逆転劇の熱戦に、多くの人からいい試合だったとの感想を聞いたが。

ただ一人だけ違った。


本田会長。

「あんな試合してるようじゃダメだぞ」と。

俺は、むしろ嬉しかった。

本田会長の中で佐々木基樹は、東洋タイトルで苦戦してちゃいけないボクサーなんだ。

その期待値が、嬉しかった。


今回の世界戦。
「佐々木は多分惨敗に終わるんだろうなぁ・・・」ってのが大方の予想だったんだろう。

そういう期待値から見れば、健闘したんだろう。

・・・でもね。

俺は、本気で勝利をこの手に収めるつもりでメキシコに行ったんだ。

それがたとえ愚かなことに見られようとも。

誰が何と言おうとも。

だから負けという結果が出た以上、オールオアナッシングのナッシングなんだ。
白か黒かで、黒なんだ。

俺が自分に課していた期待値は、健闘じゃない。勝利だ。

大健闘だろうが俺にとっては何の価値もない。

俺の試合を見た人がどう感じても、それは見た人の自由だ。
同様に、俺の試合を俺自身がどう感じようが、それは俺の自由だ。
違っていていい。合わせる必要はない。

ナイスファイト。
見てる人にとってはそれが一番重要なことかもしれない。
が、俺にとってはそれじゃ意味がないんだ。

それでいい。

別に悪いことじゃないだろ?

俺が欲しかったのはただ一つ、勝利なんだ。