さて、試合後恒例ともなっている、長文日記だぁ!



今回、ほぼいい感じに仕上げられた。

いつもの風邪に似た症状もあるにはあったが、一ヶ月前には終わってたしね。

あえて言うなら、そろそろ体幹トレーニングの成果が出てきたのか、
前よりは身体がぶれなくなったかな。

全体として前よりはバランスが良くなったというか。

マスを多めに取り入れたのも良かったのかもしれない。

疲れもしっかり抜けてた。土曜でなく水曜だったので、妙なところに日曜日が
ぽつんと入ったのが、逆に良い方向に作用したように感じる。


油断。こいつもなかった。

俺独自の方法だが、しっかりとマイナスの方向にイメージトレーニングできてた。

逆境で強いタイプだからさ、俺は。


最後まで、大きな問題なく、当日を迎えられた。

俺に関わってくれた全ての人に、もう一度感謝だ。



リングイン。
いつもより音量が小さい気がしたな。終わりの方だったのかな?
相変わらずの入場。俺の花舞台。

リング上から、ちらほら知った顔が見える。
俺はやりますよ。

立ち上がり。
ここを一番用心していた。
ここで一気にきたりするんじゃないかと。
勝負かけるならここが一番相手にとっていい気がしたから。
逆に、4R以降になれば、キャリアの差が出てくるだろう。
俺の方が有利だ。

だからといって最初守勢に回ると、相手を調子付かせることになる。
それも良くない。
めちゃめちゃに勝負はしなくていい、でも最初から調子付かせちゃいけない。
その上で後半KOを狙う。
さらに願わくば、相手の得意と思われる前半でKOする。
それが今回の課題であり目標。
ここでえっちらおっちら勝ってるようじゃ上を目指せない。
ここはスコーンと圧勝したい。

・・・ただ、あまりええカッコしい根性を出してると足元をすくわれる。
何が何でも勝つ。その上でレベルの違いを見せて勝つ。
その辺が恒例ともなった試合当日メッセージにも書いた内容。

1R開始。
慎重にプレッシャーをかけていく。
相手はクロスを狙ってるし、そのタイミングもいい。
パンチもそこそこある。
めちゃくちゃあるってわけじゃないが、まともに喰らったら倒されるパンチだ。

が。

今回、俺はほぼベストコンディションに仕上げられた。
身体がキレていた。
相手のスピードは、俺についてこれてなかった。
ジャブに反応しきれていない。
ドンドンついていこうと思った。

でも、クロスは危ないタイミングで飛んでくる。
迂闊にジャブばかりは出していられない。

パンチは見えていた。
想像の範囲。
よし、よし。
これならいける。

1R終了。

心拍数はそれほど上がっていない。おそらく25/10secほどだ。

ジャブは当てていたが、もうちょい明確なポイントが欲しい。

インターバルでラスト中野さんに「打ち終わり狙ってるから気をつけろ」と言われたの覚えてる。

2R。
若干攻勢を強めたか。
が、あくまで焦ってはいけないと思った。
じっくりいけばいい。

相手も同じ身長、ということはこのクラスでは小さい方だ。
わりかし簡単に懐入らせてくれる。
相手も接近戦は得意なわけなんだが。
ずるずると下がってたらペース持っていかれる。
ペースは渡しちゃいけない。

動きに若干のぎこちなさは感じた。
そりゃ俺のキャリア4分の1で、おそらく初めての海外試合で一つ上のタイトルに挑戦って
なれば、そりゃ硬くならない方が珍しい。
うん、うん、分かるよ。
そこら辺はフィリピン自主キャンプで実感もある。
有利な点は最大限生かして、ドンドンいこう。

2R、ほぼ同じペースで終了。

繊大さん「どうだ相手パンチあるか?」

俺「あるけどめちゃくちゃあるってわけじゃないです。11勝7KOって感じの」

そう。11勝7KOって感じだった。

すごいアバウトと言うか、普通の人には分かり難い感覚だけど。

11勝10KOとかのボクサーは、ホントめちゃくちゃパンチあったりする。

ガードしてもドガーンと重みを感じたりね。

パンチにも質があって、重いのとキレるのと、あと硬いとか、ホント人それぞれ違う。

で、11勝3KOとか4KOとかだと、喰ってもそれほど痛くなかったりして。

5KO6KOだと普通に痛い感じで。

7KO8KOだといてててて!って感じで。

ホントアバウトな感覚だけど。

11勝7KOって感じのパンチだった。

それを言ったが、伝わってたかどうか。

「それじゃ次もうちょっと攻めてみようか」

あと覚えてるのが、

「1,2Rポイント取ってますよね?」

「うん、大丈夫だ」

って会話。


そして3R。

ちょっと詰めますよ。

明確にポイント取るんだ。

スピードは勝ってる。

相手の動きも見えてる。

相手の顔に、若干焦りの色も見える。

ドンドンいこう。


腹も打っていこう。

12Rは長丁場だ。

ボディを打ってスタミナを削る作業が、後半になって有効になってくる。

俺はそれを実感として知っている。


・・・覚えてない。

リングに這っていた。

「ワーン、ツー」

カウントが、数えられていた。

レフェリーは俺に向かって数えている。

ダウンだ。

・・でも、大したことはない。

タイミングでコツンともらっちゃったんだ。

セコンドが慌てて大声で何か叫んでる。

「大丈夫大丈夫」

ゼスチャーで俺は応えた。


こう思ったのを、ハッキリ覚えている。

が、後で書くが、後から考えるに、全然大丈夫じゃなかった・・・・!


開始。

つめてきたらカウンターかましてやる。

くるならこい!


・・・・・・・ここら辺から、記憶が曖昧になる・・・・。


盛り返した記憶もある。

ポイントは取られたが、やってやるって思った。

きたらカウンターぶち込むぞって思ってた。


ラッシュされた記憶もある。

相手は俺と身長体型だけでなく、チャンスに詰めたり、気が強かったりという共通点もある。

俺とかなり似たタイプだった。

が、向こう見ずにラッシュしてスタミナ切れてた試合もあった。

おしおし、もっとこいもっとこい。

スタミナを使え。

俺は倒れんぞ。


3R終了。

「喰らったの右ですよね?」

聞いた記憶がある。

「ああ、右だ」


その後に右のアッパーも気をつけろ、そう、アッパー狙ってるからってのも思い出したな。


せっかくいい感じで進んでいた試合の流れが、一気に変わっちまった。

で、だ。

次が勝負ラウンド。

そういう勝負ラウンドってのは、一試合に大抵ある。

このラウンドが非常に重要ってなるラウンド。

本当にあるんだこれが。

この試合でいうと、この次の4ラウンド。

ここだ。

ここでまた盛り返すか、それとも相手が主導権を握るか。

ここで試合の流れは大きく決定付けられる。

重要なラウンドだ。

絶対に取るぞ。

まだダメージは完全には取れてないだろうから、無理は禁物だ。

が、ここで取らなきゃ絶対にダメだ。

ここが勝負所だ。


4R。
調子付かせないよう、前に出てプレッシャーかけながら様子を見る。


・・・・・・・細かい記憶はやっぱりない・・・・。

・・まぁ、取ったんだよな・・・?

相当集中したからな。


この、「勝負所を見極める感覚」と、「そこで発揮される集中力」。

これが、俺の強みだ。

大した身体能力を持っていない俺がトップレベルで勝ち続けるためには、自分の持つ
全ての力を最大限に活用す必要がある。

俺の場合、戦略的な発想やこういう勝負所での集中力等、身体能力で劣る分それ以外の
部分でカバーしているところがある。


4R、無事終了。

よし。足も完全に戻るだろう。

次はマジでいったるぞ。


朦朧とした記憶の中で、明確な映像が浮かぶ。

右が入った。

相手が効いた。

ここだ!

試合、終了。


・・・・断片的な記憶だが、何とか思い出せる。

俺の応援来てくれてるお客さんの座ってる、南側東側北側に向かって挨拶代わりに
拳を突き出した。

いつもなら人の顔まで見えてたりするが、どの方向を向いてたのかも定かではなかった。


インタビューの様子が普段と違ったと言われたが。

うん、インタビュー自体の記憶がかなりない。

あの辺は集中力が切れたのか、試合中の3R以降よりもさらに記憶が飛んじゃってる。

聞いてた人の話を聞いて思い出したのが、「こんな試合じゃ・・」という反省の弁。

そう思ったしね。


控え室。

報道陣に、俺が質問してた。


・・・!

そうそう、思い出したけど、「俺、勝ちましたよね?」って質問してたな(笑)

それも二、三回。


ボクシングあまり知らない人にとっちゃ衝撃の真実かもしれないけれど。

ボクシングの頭部打撃のダウンってのは脳震盪だからさ。

脳震盪ってことは部分的に記憶なくなるから。


・・・・そうすると、「じゃあ最後まで本能だけで闘っていたんだね!?」って話になるけど。

それをやったばかりの生身のボクサーとしての実感を言うと、それもちょっと違う。

もうちょっといつも通り。


・・・うわーーー、早くビデオチェックしてえ!


多分、いつも通りとほぼ変わらない動きをしてる。

ボクシングの動き自体が大部分、反射だったりするからさ。

反射ってのは、目の前を何か通った時に無意識に目を瞑ったりするあれね。

大脳で判断してからの命令でなく、神経からの即断。

元々それが大半であるボクシングにとって、大脳の指令はあまり関係ないというか。


・・・うーん、これは物知っててかつボクサーである俺ならではの推論になってますね!!


普通の人に一番近い状態を例えるなら、やはり泥酔状態になるかな。

ちょっと違うけど。

泥酔したからって完全に無意識で本能だけで動いてるかって言うと、やっぱり本人の意思も
あるじゃんか。

その時は本人の意思で確実に動いているんだけど、後から記憶が断片的というか。

まぁ、乱暴な例えを使うならそんな感じ。


記者さんも質問した選手に逆に試合のこと質問されて、困っただろうなぁ・・・。


「佐々木、ほとんど記憶もうつろで、逆に記者に質問する始末」とか書かれちゃったらどないしましょ。


結構記者と話してたのも長かったらしい。

で、この後からだな。

控え室撤収した辺り。

試合後数十分経って。

そっからの記憶はほぼいつも通り。

脳震盪ってのは怖いですねーー。

・・・ま、ボクサーにとっちゃ日常の一部ではあるんだけど。


ダウン自体、2005年3月の木村戦以来実に6年ぶり。

半分かそれ以上はタイトルかかる試合を戦い抜いてきて、6年間もダウンなかったんだね。

意外とダウン多くはないな。


ま、反省すべきところは反省して。

身体のキレとか、自分に合格点を与えられるところは与えて。

一休みしたら。

またすぐに復帰します。

なぜなら。

次の試合まで、そんなに時間がないかもしれないからね。