疲れた。
本当に、疲れた。

今まで40戦以上やってきた中で、タイトルマッチも10回目を
迎える中で、一番疲れた。

戦い方を変えたのと、10回戦でなく12回戦ってのと、ダメージも
残ってるからかな。

いやー、しんどかった。


さて、今回の試合。

当初はすごく嬉しかったが、同時に、世界戦を経験した者に
しかおそらく分からない、モチベーションの伸び悩み。

そりゃー世界タイトルやっちゃったら東洋タイトルで同じ気持ちを
保つことの方が難しいと思うけど。

ただ、これは避けては通れない道。

しかも、一度復帰戦やってすぐにまた挑戦できるなんて、普通じゃ
あり得ない恵まれた話。

つべこべぬかしてる場合じゃない。

負けたら終わりだ。

俺はもう一度世界に挑むために復活した。

やってやろうじゃんか。


対戦相手ランディ・スイコ。

「もうアイツはダメだよ」っていう声から自分をシャットアウト
する作業が大変だった。

ダメならなめちゃうからさ。

まだまだダメじゃないぞって自分に言い聞かせてた。

・・そう言えば今年4月にフィリピン行った時、俺はスイコに会ってる。

現地のジムに乗り込んで武者修行しようと思ったら、たまたまいて。

あれれ普段はフィリピンで練習してるんだなと。

空位の東洋王座決定戦直前。

もちろんまだ俺との試合は決まっちゃいなかったが、スイコが
勝ってくれたら俺が即行挑戦者に名乗りを挙げるつもりだったからね。

知らんぷりしてこっそりとかつじっくりと練習を見させてもらいました。

ちょっとしゃべった。フィリピン人はかなり英語話せる。

「ユーは日本のチャンピオンか?」

「ノーノーノー(「元」東洋チャンピオンなだけ♪)。
 ユーは次決定戦だよな?」

「イエス」

「韓国で?」

「イエス」

「グッドラック!(俺のためにな!(笑))」

「サンキュー」

でもジムのマネージャーが記憶力のいい人で、俺のフルネーム
覚えてぐらいだから、すぐ情報は伝わっただろう。

同じジムの出身選手としては、俺が二回戦ったレブ・サンティリャン
がいる。

ちなみにサンティリャンとスイコ、階級は3つくらいスイコの方が
軽いが、スパーではサンティリャンのことをボコボコにしてたそうだ。


自分の話に戻そう。

調整法は、いつもと同じ。

一ヶ月、じゃないな、試合の5週間ちょい前に、いつもの風邪を
ひいた。

風邪って言ってももはや風邪ではないことは薄々分かってるんだが。

ちょっとその話しちゃう。

試合が近付いてきて練習がハードになってくると、ある朝鼻に
軽い熱感のようなものを感じる。軽い喉の痛みと。
具体的には、鼻からゆっくり息を吐き出すと普段ない熱さを感じる、
つばを飲み込むと普段ない刺激を感じる、等。

ほっとくと鼻水が出てきて、さらには咳も出てきたりして。

もちろんのごとくタンも出る。

熱は平熱より若干上がる程度。37.0℃くらい。

風邪と決定的に違うのは、試合前にトレーニングがハードになると
高い確率でそうなることと、熱も症状もそれほどでなく、普通の生活や
練習さえ普通にできること、そして治りがやたら遅いこと。

身体は全然元気だから、練習を続けようと思えば続けられる。

ただ症状は徐々に悪化する。

一ヶ月くらい咳き込みっぱなしで練習続けた時もあった。

咳が2ヶ月以上止まらなくて、その時は咳喘息という病名がついたが、
ただいつものヤツをこじらせただけ、という印象の方が強い。

医者に行っても、じゃあ咳止め出しときましょう、じゃあ喉の炎症
抑える薬出しときましょう、ってかんじで別にその薬飲んだところで
すぐには治らない。

これには本当に困らされているので、小さな情報でも何でも、
あったら教えて下さい。

boxer*power.email.ne.jp ←*を@に変えたのが直アドです。

診察に来いと言われても、普段は何の症状もないし、上に書いた
ことをオウム返しに言うしかないので。


で今回、近所でなかなか評判の耳鼻科に行って相談。

気管支系が元々弱いのかもしれないという話。

ゼイゼイいうトレーニングが増えると炎症起こすということから。

だから本当はマスクして練習するといいんだけど、そうもいきません
よね、と。

いやいや、この試合前の体調不良をなくすためなら何でもしますよと。

そういえば辰吉丈一郎さんが「この方が苦しくて練習になる」と
マスクして練習してる姿をテレビで見た記憶がある。

それだと思えば一石二鳥だ。

ちょっとうっすら喉が変だって段階で即練習を休んだから、
10日程度で完治した。長引けば長引くほど治りも遅くなる。

そこから四週間、走る時には基本的にマスクしてた。

日差しが強くなってきたこの時期、帽子被らないと日射病等のおそれも
増える。

帽子とマスク。顔を完全に隠して、おもくそ走る俺。

どんだけ怪しい人だ。


試合二週間ちょい前、軽い怪我。

一日だけ練習休んで回復をはかり、また翌日から徐々に動かす。

幸い重症ではなく、5日後にはスパーも再開。


最後まで仕上がらなかったのが、心肺機能。


・・ごめんなさい、ここからちょっと専門的な内容になるので、
20行ほど下の「調子は良かった。」から読んでもらっても大丈夫です。


前にも言ったが、結局スタミナとは心肺機能だというのが俺の結論。

インターバル含め47分間戦い抜く前提のボクシングは、陸上競技
で言えばハーフマラソンに近い。かつ100m走のような瞬発力も
鍛える必要があるわけだが。

心肺機能を計るのに、心拍数を計ることは欠かせないことだ。

心拍数は普段から細かくチェックしてる。

加えて今回ジムメイトの中川から「マフェトン理論」というマラソン
のためのトレーニング理論を教わり、それも若干研究して取り入れた。

簡単に言うと15分程度かけて心拍数を最大にし、運動を終える時も
15分程度かけて心拍数を徐々に落とす。で、その最大心拍数を
(180-年齢)~(170-年齢)の間で保つ、という理論。

180(最大付加)までもっていっちゃうと乳酸が溜まるそうだ。

ただ単に180にもっていけばいいわけじゃないと。

新しい内容が俺のトレーニング知識に加わった。


ちなみに、ウォーミングアップも心拍数を基準にして俺は動いてる。

特に暑くなってきたこの時期、汗はすぐ出るからね。

汗が出たらそれでOKとしてる選手も多いようだけど。

汗が出てるわりに運動量は少ないから、準備運動不足になってる。

夏のこの時期は、心臓にとっては急な負担をかけてしまいがちなんだ。


で、あと重要なのが、心拍数をMAXにした後、3分間の安静後、どこまで
戻っているか。

これが心肺機能がどこまで仕上がっているかの重要なバロメーターになる。

これが今回、最後まで自分の基準値に達しなくて焦ってたんだけど。

試合の9日前、そろそろ練習量落とさなきゃいけないギリギリの時期に
なってようやく自分の基準値に達した。

そう。試合に向けてグワッとコンディション仕上げていくのだ。

疲れもない。

減量の影響も懸念してたが、全くなかった。

さすがに計量の2,3日前は腹減ったが、本当に順調だった。





調子は良かった。

あまり言い過ぎてもろくなことがないのは経験から知ってたので
そんなには言わなかったが、いい仕上がりだった。

体調もOK。

気合も乗ってる。

後は本番が待ち遠しかった。



計量会場。

計量は、余裕の600gアンダー。

スイコは、俺の顔知ってるだろうけど、目を合わせては来ない。

ジョー小泉さんがマスコミのインタビューに答えているのが
耳に入った。

「何で早くスーパーライトにしてやらなかったのかと、マネージャーと
して反省してるぐらいです」というような内容のこと。

そうか。減量きつかったんだな。

そうそう、油断はならないぞ。

最近負けたのは、減量で体調悪かったんだ。

今回こそベストで来る。

絶対に油断するなよ。


スイコは、確認できる限りでダウン経験がない。

若いうちからタイトルマッチに絡み続け、二度の世界戦を経てなお。

ジョー小泉さん曰く「鉄の顎」だそうだ。

加え86%のKO率。

実際にやった長嶋建吾や、見てきた人が口を揃えて言うのは、

「正面からのど突き合いはやめた方がいい」。

そりゃー異常に打たれ強くてパンチも強けりゃ、ど突き合いすりゃ
倒れるのは相手の方だわな。

長嶋や石井がやった通り、足を使っていこう。

パワーは相手の方が上。ならばこちらは、スピードとテクニックで勝負だ。

正面からのど突き合いを避け、距離を自在にコントロールしながら
有効打を重ねていけば、ついてこれないはずだし自然とチャンスも
来るはずだ。

一度でもいい、俺はチャンスを逃さない。

そして12ラウンドの間に、大抵一度はチャンスがやってくる。

逃さないぞ。

俺はギリギリで勝つんじゃない。差を見せ付けて勝つんだ!

世界への切符を手にするのはお前じゃない、俺だ。


・・・・思い出した。

これは重要な反省点の一つだ。

「差を見せ付けて綺麗に勝とう」なんて思ってしまった。

これは俺にとっては、ええカッコしいのスケベ根性だ。

・・正直言うと、本当はね、俺だってそうありたいよ?

涼しい顔して相手を完封して、「ここは目標じゃないから」なんて
すかしていたいよ?

ただ俺の場合はそれじゃダメなんだ。

俺の強さの秘訣は、火事場のクソ力。

その相手その相手に、一生懸命我武者羅ファイトをしなきゃいけないんだ。

いいカッコしようなんて思っちゃいけないんだ。


今回、新しく取り入れたことがいくつかあるが。

その一つが、名付けて「酔拳」。

ジャッキーチェンの映画からヒントを得た。

身体中の筋肉を弛緩させることによって、筋肉を「反射」で動かす。

それによって余計な力が抜け、予備動作が減り、スピードが上がる。

「反射」とは、目の前を何かが通った時に無意識で目をつむってしまったり、
熱いヤカンに触れた時に無意識でスッと手を引いてしまう、あれだ。

大脳からの命令でなく、神経系統だけで動くので、その分速い。

これをボクシングに応用させた。

顔の表情まで緩んでいるので、お楽しみに。

あ、テレビ放送は23日日テレG+で18:30~21:30だそうです。

お楽しみに。

これを本気でボクシングに応用したのは俺が最初でもしかしたら最後だろう。

もちろん冗談でやってるわけじゃない。

人生かけた大一番でそんな馬鹿な真似はできない。

大マジだから。

映像見てもらえば分かると思うけど、これやってる最中の方がやっぱり
強いから。



今回もたくさんの方にお世話になった。

会長、マネージャーをはじめ、繊大さん、トレーナーの方々、
安達先生、伊賀先生、村上先生、金子先生、青井先生、本間さん、
楠先生、・・そして当日の会場や打ち上げを仕切ってくれた兆栄や中丸
をはじめとする友人達。そして当日会場に足を運んで応援してくれた
方々。数え上げたらキリがないくらい。

本当に、ありがとうございます。

俺にできることは、あなた方の期待に応えることただ一つです。

何が何でも、勝とう。

あらためて、そう誓った。



1R開始のゴング。

ジャブが伸びてくる。

誰だ遅いって言ったの。

全然伸びてくるぞ。

やはり遅いと想定してなくて良かった。

いいのも少し当たったか?

よしよし、この調子だ。

まずまずの出だし。快調だ。

2R、俺が足を使うと知って、プレッシャーを強めてくる。

でも、クリーンヒットはもらってない。

あ、この辺でジャブももらったかな。

でもジャブのクリーンヒットなら俺の方がずっと上だ。


スイコの動きは、想定の範囲内だった。

やはりパンチは強い。重いだけじゃなくキレもある。

崩れることのないバランスからスムーズなコンビネーションを
打ってくる。

来ると思ってダッキングしたところを狙ってアッパーなど、目も良く
冷静な判断力も持っている。


が、ホルヘとかと比べたらやはり雲泥の差だ。

それが東洋レベルと世界レベルの差だ。


3R4R、このままのペースでいけばいいなと。

ついてこさせない。くっついたらクリンチしちゃえばいい。

自分の動きを読ませない。決して足を止めない。


・・・あれ。でもここまでグイグイ前に出てくる選手だったか?

追い足が、なくはない。単発だが何発かもらう。


「今のラウンド取られたぞ!」セコンドが言った。



東洋太平洋のジャッジは、日本式と少し違うのがセオリー。

前に出てるとか攻撃してるとかじゃなくて、有効なクリーンヒットを
最重要視する。ジャブでもクリーンヒットすれば、ポイントとして
確実に加算される。ラウンドマストシステムと言って、ラウンド毎に
なるべく10-10ではなくて10-9と差をつけていく。
世界戦に近いジャッジ方式だ。

今回採用した戦略に、ジャブの多用があったのも、この世界戦式の
採点に沿ったものだ。

が・・・・・・・。

4R終了。俺の計算では39-37で取ってる。

しかし・・。


確かフィリピン人ジャッジが39-37でスイコ。

日本人ジャッジが39-37で俺。

もう一人が38-38。

全くのドロー。

東洋太平洋タイトルは、公平を期すためにお互いの国のジャッジが
一名づつ、中立国のジャッジが一名と決められている。

だから判定が2-1に割れるのはよくあることだが・・・。

中立国もドロー。

これは計算外。

ちょっと攻勢点与えすぎたか。

ポイント取っとかないとな。

できれば倒したいけど、なかなか倒れる相手じゃないからな実際。


やっぱりアッパーが上手い。

ガードの隙間から綺麗に突き上げられた。

こっちのパンチも入るが、何しろ効かない。

普通ならラッシュいくところでも、効いてないのが分かるからいけない。


まだ映像見てないからなんとも言えないけど。

やってる本人は、ポイント取ってると思ってた。

相手のパンチはほとんど当てさせてないし、こっちのジャブは
コツコツ当ててるし。

が、見てた人の話を総合すると、プレッシャーかけれて逃げ回ってる
ように見えてたと。俺の手が出てなくて、相手の手数がバンバン出てて
コーナーに追い詰められてたりしてたと。

きっとそうなんだろうな。


俺が一番警戒してたのは、右アッパー。

これが一番強いと聞いていた。

それに注意を払っていたが。

途中で気付いた。

右パンチをいつも捨ててから、左で強打を振るってる。

おそらく右拳を痛めたんじゃないか。

時折強打も振るって来たけど。

基本、右は軽いパンチのみになった。

後は左の、フックとアッパーに気をつけていればいい。


しかしこのフックやアッパーが、なかなかいいタイミングで飛んでくる。

ヤツもベテランらしく、この辺りのタイミングや冷静さは一級品だった。


そして8Rの採点。

なんとスイコのリード!

トレーナー陣は分かってた様子。

スイコに逆転KO勝ちは難しい。

ということは、残り4Rを全て取らなきゃいけない。

3R取ったとしても、ドローなわけだから。


追い込まれた。

絶体絶命。


俺、ここで終るの?

この相手が、俺の限界?

・・・嫌だ。


そういう時、最後のスイッチが入る。

これが、勝負強さだ。

窮鼠猫を噛む。

火事場で、クソ力を出すヤツと腰をぬかすヤツがいる。

俺は、クソ力を出すタイプ。

究極に追い込まれた時、それは爆発する。


9R、正直覚えてない。たぶんリスクを冒してポイント取りに
行ったと思う。


そして迎えた第10ラウンド。

あっというまに残り3ラウンド。

まだスタミナは残ってる。俺はやれる。俺はいける!

全部出し尽くせ!


それ以外は覚えてない。

ここまでに、俺もいいパンチを何発か喰ってる。

ただ、「痛ぇ~~~!!」ってパンチはあったが、「効いちゃった」
ってパンチはなかった。喰らった場所がビリビリしたりはしてたけど。


今思い出そうとしても、やっぱり思い出せない。

おそらくたぶんだけど、最後のパンチは左フックだった気がする。

不倒のスイコ、ダウン。生涯初だろう。

逃がさねえ!

タイムを見た!

・・・ガッカリの残り5秒。まだカウント中。

・・・せめて、試合再開からあと5秒あれば。

勝負事に「れば・たら」は禁物!

それを言うなら、もしもオープンスコアリングシステムじゃなかったら
9R以降も同じような展開に終始して、よっしゃ判定取ったでしょと
思ってたらあらま判定負けでした、で終ってた。

常に頭で考えながら戦略を練る俺にとって、オープンスコアリング
システムは有利に働いた。

なんだけど!

開始すぐ終了ゴング。

一瞬襲い掛かるくらいしかできんかった。


この時のインターバルはよく覚えてる。

「佐々木、次のラウンド決めて来い。負けてるんだからな」

「いいっすか!?俺行きますよ!?行ってやられるリスクあるけれど、
俺行きますよ!いいっすか!?」ほぼ絶叫だった。

「いいぞ!いけ!!」

うおーーーし!

いくぞーーーー!!!!

俺を応援してくれる、西側と南側にアピール。


今、負けてる。

絶対に勝つんだ。絶対に。

このラウンド、何が何でも倒せ。

判定じゃ、世界への道は掴めない。

俺はKOで勝つ。

不倒の男をKOして勝つ!

いくぞ!!


ラッシュ。

レフェリーによっては止めてもいいくらいだったと思う。

しかしストップは入らない。スイコも倒れない。

よろよろしながらもダウンを拒否する。

そして俺が打ち疲れると、まだ打ち返してくる。

だが、中盤のようなパワーはもう残ってない。

そして今まだ効いてる。

ならば打ち合いしても勝てる!

いけ!!


倒せなかった。倒せなかった。

だけど、次が最終ラウンドだ。

とにかく全てを出し尽くせ。

俺が絶対に勝つんだ。

倒し切るんだ!


スイコは、最後のラッシュもしのいだ。

倒れなかった。


判定。

どうだ。

ダメか?

ダメだったら仕方ない。

勝てなかった俺が悪い。

この場で潔く大声で引退を表明しよう。


こんなにドキドキした判定はかつてない。

一人目、1ポイント差でスイコ。フィリピン人ジャッジ。

それはいい。てことは採点割れてる。

ドローは勘弁してくれ。頼む!


二人目、俺。

判定は三人目のジャッジに委ねられた!

三人目、読み上げられたジャッジ名は、日本人ジャッジ。

よし!


「勝者!」


「東洋太平洋」


「スーパーライト級」




「新」


「チャンピオン、佐々木基樹~~!!」


その時に言った事が放映されるかどうかはまだ分からないけど。

もうリング上で言っちゃったことだから言っちゃってもいいかな。


勝ったのは嬉しかったけど、俺は不満だったよ。

東洋レベルでギリギリ判定勝ちしてて、世界に通じるか?

言ってるけど、俺は東洋目指して復帰したわけじゃない。

無謀だろうが何だろうが、それでも俺は世界一の男になりたいんだ。

飽くまでも俺の目標は世界チャンピオンなんだ。

その自分に対し、合格点をあげられるか?

答はノーだ。


俺を応援しに来てくれた人は、口々にいい試合だったと言ってくれた。

身体中が震えただとか、久しぶりに大声出したとか、久しぶりに
泣いちゃっただとか。

俺の勝利に涙してくれる人の存在。

こんなに有り難い存在が、そうそうあるだろうか。

きつい思いをしながらボクシング続けて来て、本当に良かった。

心からそう思う。

だからそういう人が喜んでくれたなら、それはそれで良かった。

ただ、自己採点としては、あくまでまだまだだ。

さらに今回の試合を分析し、次に活かそう。


「応援に来てくれた人の前では、もっとちゃんと嬉しそうにしなきゃ
ダメだよ」誰かがアドバイスしてくれた。

それもそうだなと思ったけど、やはりそうはし切れなかった。

でも、いいよね。

今日の試合に不満を感じる自分がいても。

俺の目標は、不可能と思われるほど高いところにあるんだからさ。