帰りの満員電車の中、身動きもとれないその中でやっとの思いで私はつり革につかまった。




車内は金曜日の夜のせいか、お酒の匂いがいつもよりプンと匂って、あぁ冬も近いなぁと感じていました。



私の席に座ってあ白髪の大柄な男性。混んでるというのに大股開きで、堂々と夕刊のエッチな記事読んでいたと思ったら、バシャバシャとそれをたたんで、メガネをとってハンカチで額の汗を拭くなり、か細い声で独り言「あぁ疲れた本当に疲れた」と言っていた。





周りの誰も気づかないような声で溜め息と共に独り言。





私は寂しくなってしまった。





頑張ってるんだろうな





疲れてるんだろうなー




隣りに立つ女性の靴もヒールが高くてつらそう。



みんなみんな何も言わないで疲れている。




そういえば。私が「聞かせてよ愛の言葉」が連ドラちりとてちんでかかるまえ、本当に仕事がなくて、疲れた人を相手にショットバーの店員というか女性の格好をしてバーにたっていた。
一杯あたり単価が高いお店だったけど、大学生のイケメンの兄ちゃんがバーテンでカウンターに入って、私はフロアまわり、少しでも売り上げ伸ばそうとお客さんの茶色いボトルをあけようと必死にのんで、ご希望とあらば一緒にデュエットまでした。





疲れたおじさんは私の担当。





お兄ちゃん目当ての女のお客さんはお兄ちゃん担当。





計算得意でないあたまでくるくる廻して。茶色いお酒つくってはお客さんと一緒に飲んで、溜め息と一緒に朝まで飲んだ。




あー疲れたから帰るわとお客さんが帰るのは朝も白々と明けるころ。




ボトルなおして、掃除して。グラス洗って表に出るともう7時。




売り上げを表にしてバーテンと表に出て、たばこの煙りのジャケットのまま、無口な二人は駅前のマクドナルドで安いコーヒーを飲んで「またあとでね」と別れる。





そんな暮らしがしばらく続いた。





疲れたおじさんのお客さんは毎晩「疲れたー」といいながら。ゴツい指でロックグラスの茶色いお酒をカラカラ廻していて、そんなに疲れてるんなら早く寝ればよいのに…





そう内心で思っていても毎晩朝まで通ってくれるのだった。




ある日バーテン兄ちゃんが先に帰って私が後片付けしていると、カウンターの例のおじさんが色目を使ってきた。





くるお客さんといえば私が男性であることを知っていたのに、その人は信じなくて私を何度か口説こうとした。





ねー、レミーマルタン2本入れてあげるからさぁ。




これからホテルいかない?と誘ってきた。





私が頭にきたのはそれだけじゃなかったけど。初めて私はお店で「あのー疲れてるからごめんなさい」「それに、私今まで隠していたわけじゃないけど男なのよ」





そういうとびっくりして、レミーマルタン2本いれたまま、翌日からパタリと来なくなった。




今頃疲れたおじさんはどうしているのだろうか。





今でもレミーマルタン飲むたびに思い出す。





嘘をつきとうしたみたいで気分が悪い。




ヤケクソになった私は朝のマクドナルドで安いコーヒーをガブガブのんで、今日限りバーテンをやめた。





会社で疲れてる人。




恋で疲れてる人。





人生に疲れてる人。






人の人生はわからない。




貧乏でも笑って暮らせる人。





何を買ってももの足らない人。





それは自由でその人しかない人生。





だれも背負うことなんて出来ない。





ただ、寄り添えることは出来る。





そんな歌が私は歌いたい。




疲れた人を慰める愛の歌。





これを根っこに歌っていきたい。