漢陽都城とは
昔むかし(600年位前)、ソウルが漢陽と呼ばれていた時代に、農閑期の農民を総動員して作られた街をぐるっと囲む18.627kmにおよぶ城郭のこと。城壁よりも、そこの出入口として建てられた南大門や東大門が有名ですね。私も最初はそんなこと、まったく知りませんでした。
城郭は結構な部分が壊れてなくなっているので、気づかないことも多いようです。写真は光照門という門で、右側がスッパリありません。
この壁のことを知ったのは、ソウルを旅行中、観光案内所に置いてあったリーフレットを何気なく手に取ったからでした。
「知らなかったよ、ここを歩いて巡りたいなぁ…」
これが翌年、私がソウル一周城郭歩きを始めたきっかけでした。
城郭トレイルとは?
パンフレットによると区間を6つに分けて、1区間だいたい1~3時間で歩けるようになっているようです。
そしてどこにもそれぞれ門があったり、見える景色がきれいだったりと、みどころがあります。
仁王山へGo!
さて、私が初めて挑戦したのは仁王山という山のあるコースです。ただでさえ情報が少ないのに、唯一たよりにしていた前年もらったリーフレット(既に廃盤になっていた)を前日なくしてしまったのが痛い…。
しかたなく他の地図を見て「だいたい、この辺かな?」と見当をつけた地下鉄母岳ジェ駅を降りて、仁王山を目指してみました。降りる駅を間違えたか…。行き止まったり、私有地に迷い込んだりしながら、仁王寺という山寺になんとかたどりつきます。
道を尋ねようと中を覗くと、チマチョゴリを着た女性がいました。何かの儀式の最中だったのでしょうか?さらにもっと上に行け、と言われて登ることにしました。よりによって足に負担のかかるリーボックのイージートーンを履いてきてしまったのが悔やまれます。
しばらく行くと、どう見ても登山客ではない地元のおじいさんとおばあさんが並んで休んでいます。また行き止まり?。尋ねてみると、慣れない英語で「あっちだよ」と指差しました。岩場です。本当に大丈夫?
めざせ断崖の城壁

「そーそー」
一応、人が通れるようにはなってるので、よじ登って行くと、そこは断崖絶壁!大きな岩がドーンとそびえていました。
誰もいないのかと思ったら、片側に女性がいて、山に向かって正座し、たったひとりで一心不乱にお経を読んでいます。道を尋ねたかったですが、そういう場面ではなさそうです。仁王山は信仰の対象でもある神聖な山でした。
とにかく人が歩いた跡を探すと、今度は山道を下る角度になります。すると突然、目の前に壁が!
おー、あった!続いてる、続いてる!この壁は新しく修復されたもののようです。
徒より詣でよ
この仁王山コースは出入り自由区域ですが、要所要所に監視をしている兵士がいて、頂上から街を撮影することはできません。
山道ではない比較的平坦なコースもありますが、仁王山、北岳山のコースは勾配がきつい区間です。ちなみに二日間黙々と歩き続けて、日本人とは誰も出会いませんでした(地味な観光ですしね)。
汗だくになって握りしめた、かなりアバウトな地図(しかも中国語)がこれです↓
コースはそれほど混んでおらず、比較的ゆったりと自分のペースで歩けました。
2007年に開放された区間
北岳山の区間(彰義門~恵化門区間)は2006年まで立ち入り禁止でした。
以前ここで、大統領を狙って進入した北朝鮮の部隊と銃撃戦が起こり、それが40年間立ち入り禁止になっていた理由だそうです。
南北どちら側からでも入山できますが、それぞれ彰義門案内所、マルバウィ案内所という検問所みたいなところで、身分証明書を見せて簡単な申請書を書かないといけません。
途中、銃撃戦の流れ弾が何発が当たったという木が残されていました。銃を持った見張りの兵士がところどころに立っていて、『撮影禁止』とあちこちに書いてあります。そして城壁の外側には有刺鉄線が張られています。
きついアップダウンが強いられるコースですが、そのぶん見晴らしがとてもいい。写真が撮れないのが残念です。
下の写真はマルバウィ案内所を出たところにある監視施設。威嚇のためか、戦車の頭の部分が見えています。
ただひたすら歩き続けるだけなのに、体の中をいろんなものが出たり入ったりします。水も4リットル位飲んで、デトックスした気分に。ホテルに帰ってから振り返ると、なぜか一週間くらいいたような感覚が…。
そして二度目のトレイルへ
年が変わって2015年10月27日。
冒頭でも書きましたが、トレイルコースは全部で6区間。しかもそのうち3箇所は山登りに近く、二日かけても制覇することは困難です。そこでついムキになり、二度目の城郭トレイルへ。
今回のコースは崇礼門区間、南山区間、興仁之門区間です。
崇礼門は2008年に放火で焼けてしまった南大門のことで、今では復元されています。崇礼門区間は最も城壁が原型を留めていない区間で、どこに壁があったのか、わからないところが多いのです。
壁がないから地図をたよりに「だいたいこのあたりかな?」と見当をつけて歩くのですが、道に迷ったり、関係ない場所に行ったりと、そういう意味での難所です。いいことと言えば、道が平坦だということくらいです。
南山区間が一番好きかも

2015年現在、全体の70%が整備されているそうです。
前回は初夏でしたから、景色を楽しむ余裕があまりありませんでした。今回は秋だったこともあり、紅葉が美しく、こういう季節は歩いていても楽しいですね。
私はこの緑が多くて歩きやすい南山区間が一番好きです。↓の写真の右に見えるのは新羅ホテルです。
この壁づたいの道にそってずっと歩くと途中で壁が途切れて、「あれ?どこにつながっているんだろう?」と迷います。
実は壁の続きは、バンヤンツリークラブというホテルの敷地内にあります。だから「おじゃまします」という感じでホテルの玄関を横切って進むことになってしまいました。
ここは高級リゾートホテルで、ゴルフの打ちっぱなしとテニスコートがあるのですが、その真横が壁なのです。あまり知られていないと思うのですが、行くと「え、ここ?」と結構ビックリします。
その後続けて興仁之門区間も歩きましたが、疲れていたこともありあまり印象に残っていません。
城郭トレイル完結編
2016年4月8日いよいよ三度目のトレイルへ。
また年が明けて、今回が三度目の城郭トレイルです。今度は東大門からスタートします。ここには漢陽都城博物館があるので、まず始めに立ち寄ってみることにしました。
ここは博物館というか、小さな資料館と言った方がいいですね。まず資料を頂いてから歩き始めます。
地元の方も結構歩いています。
今回は春でしたから、桜もきれいに咲いていました。私はそこからさらに足を延ばしてずっと山道を登っていきました。
こうして城郭を巡るトレイルは終了です。
こんなものずきな城郭巡りを3年がかりでする人はあまりいないかもしれませんが、ちょっと珍しいソウルの楽しみ方として参考にしていただければと思います。
多くの人々が時間と労力をかけて積み上げた石を間近に見ながらソウルを歩くと、600年前の昔と現在のコントラストが感じられる時間になると思います。