前回 目次 登場人物 あらすじ
デイビットとコリンが乗ったフォレスターは、FBIの車列を追って、空港のへ到着した。
FBIの車列が止まらずに滑走路の方向へ走っていったのを確認しすると、駐車場へ移動し、フォレスターを止めた。
二人は降りて、周囲に気付かれないように、施設内へ入った。

利用客はFBIがやって来たことを知らず、何事も無かったかのように行き来していた。
二人は利用者をかき分けるように、滑走路へ小走りで向かった。

「二人とも、もう知ったのか?情報が早いね」
突然、ジュリアンが、二人に近付いてきた。

「ジュリアン!どうしてここへ?!」
コリンとデイビットは驚いた。

「私の友人に、空港の職員をしている女性がいるんだ。彼女から、FBIの指名手配犯が逃亡先で逮捕されて、ここの空港でFBIが指名手配犯を引き取りに来るって情報を貰って、飛んできたんだ。彼女は、指名手配犯は元警察関係者だとしか知らないそうだ。私にとって、その情報だけで十分だよ。100パーセント、一匹狼の刑事だ。君達に知らせるには、きちんとこの目で奴を見ないとね。それで、ここへ来たという訳だ」

「俺達は、帰宅途中で、空港へ向かうFBIの車列を見かけて、ここまで追っかけてきたんだ」

コリンの話に、今度はジュリアンがビックリした。
「偶然だったかのか?!」

「ジュリアン、滑走路の中へ入れるのか?」

「それは無理だ。でも、友達からよく見える場所を教えて貰ったばかりなんだよ。丁度良かった。君達も一緒に行こう」
ジュリアンが二人を空港の職員専用の通路へと案内した。

三人は通路を通り、最上階にある会議室に辿り着いた。

「今日は誰も使わないと友達から聞いたし、警備員には話を通してあるから、私達がここを使っても、心配は無用だよ」

ジュリアンは、友人から聞いた会議室の暗証番号を迷わず押し、ドアを開けた。
広々とした会議室の中に三人は入ると、窓際へ向かった。

「あれだね」

一台のジャンボジェット機が、一番外れの滑走路に止まっていた。
コリン達がその飛行機を見付けた時、他の乗客はタラップを降り、バスに乗っているところであった。
タラップの側でFBIの車が数台止まっており、FBI捜査官達が車の側で待機していた。

「乗客を乗せたバスが発車したな。いよいよ、奴のお出ましだ」

コリンはジッと外を見詰めた。
FBI捜査官達はタラップを登り始めた。
突然、一番外れの滑走路の照明が殆ど落ちてしまい、僅かな光で飛行機を見るしかなくなった。

「これじゃ見えないよ」
コリンは不満を吐いた。

「FBIはよほど、奴が逮捕されたことを隠したがっているのだな」
デイビットは推測した。

「奴の逮捕を知って、秘密結社が又、居場所を移動されては大変だからだろうね。でも、情報なんて、直ぐに漏れるよ。秘密結社に心寄せている警官は、多いからね。警官が知る前には、空港職員から私に瞬時に漏れたしね」

ジュリアンは笑った。

「奴の顔がよく見えないや。猛さんから教わった『明眼の法(めいがんのほう)』を、やれば良かったよ」

「ニンジャが目を鍛えるものだね。夜に、蝋燭の火を灯し、それをジッと見る。次に、蝋燭を紙で覆って行灯を作り、その紙に針で穴を幾つか開けて、その穴から火を見て、穴の数えたり、行灯から距離を離して、目を慣らすという方法だと、本に書いてあったね」

「他にも、暗い部屋から明るい部屋へ行き来して、どんな状況にも対応出来るように目を鍛える方法もあるとも、猛さんは言っていたよ」

「我々はこれを使って、暗闇に対応するしかないね」
ジュリアンは、双眼鏡を取り出すと、コリンに渡した。

「これは天体観測用のものだから、よく外の様子が見えるよ」

「有難う」と礼を言うと、双眼鏡を使って、飛行機のタラップを覗いた。
飛行機の中に入っていたFBI捜査官達が出てきた。
コリンは双眼鏡の倍率を上げた。
背広姿のFBI捜査官達に混じって、一人の男が出てきた。

濃茶色と白髪が入り混じったの天然パーマの髪を伸びるに任せていたせいかまとまりがなく、逮捕時に暴れたらしく、シャツも肩のところが破けており、汚れていた。
肝心の顔は長身のFBI捜査官達に囲まれ、一瞬しか見えなかった。

「一匹狼の刑事だ。も~、背の高い捜査官のせいで顔がはっきりと見えないよ」
コリンはぼやいた。

「奴の身長は170センチだ。屈強のFBI捜査官に囲まれると隠れるのだ。フォレストの野郎、あえて高身長の捜査官を配備したな。捜査官達が奴を囲めば、空港にいる人間の目に触れる事は無い」

デイビットは分析した。

「奴だと分かれば、それで良いよ。早速、ブライアンに連絡するね」

ジュリアンは、スマートフォンを取り出すと、ブライアンに一匹狼の刑事がFBIに逮捕されたことを伝えた。

ブライアンは、直ちに懇意にしているベンジャミン捜査官に連絡を入れた。

友人である前に、FBI捜査官であるベンジャミンはブライアンの問いをはぐらかした。

「私のところには、まだ情報は入ってきていないね」

「ほう、今はホテルにいないんだろう。捜査本部だろ?」

「何だ。調べてから、私に確認したのか。私からはこれ以上は言えなんだ。今回は、警察にも限られた人間しか知らされていない。奴の移送先も、警察署から離れた場所だ。警察内部には、まだ秘密結社の人間がいるかも知れないという、主任の判断だ」

「賢明な判断だ。で、主任はそこにいるんだろ。私が直接聞く」
ブライアンは直ちにホテルを出て、愛車ベンツS HYBRIDで捜査本部へと向かった。


捜査本部に到着したブライアンは、フォルスト捜査官に会うと、直球で問うた。

「一匹狼の刑事を逮捕したそうだな」

「その通りだ。ベンジャミン捜査官から聞いたのか?」

「彼は何も話してはくれなかった。この情報は、ジュリアンから貰った。で、奴の潜伏していた場所は?」

「ハバナだ」

「前妻の親戚が、ハバナで警官をしている。離婚後も、二人は共通の趣味である伝書鳩を通じて交流を続けていた。奴は親戚を頼り、彼も奴をハバナ郊外に匿っていた。だが、FBIとハバナの警察が協力して丹念な捜査の結果、匿われた場所を突き止め、逮捕に至った」

「我が国とキューバが、国交回復したお陰だな」

「全くだ。向こうも好意的に捜査協力をしてくれた。一匹狼の刑事は、無事に米国へ送還された。これから、事情聴取だ」

「夜なのにか。流石、素早く行動する」

「当たり前だ。一刻も早く、秘密結社の居所を吐かせないと、又君達が現場を荒らしかねないからな。FBIが情報を掴むまで、派手に動かないで貰いたい」

フォレスト捜査官は、チクッとブライアンに釘を刺した。

FBIは、警察署から車で30分離れた小さなオフィスビルに、特別の取調室を設置した。

一匹狼の刑事の供述が、秘密結社のスパイに漏らさないためであり、彼の取り調べを担当するのはFBI捜査官であり、警察はごく数名しか参加出来なかった。
このビルは、警察が麻薬捜査の時におとり捜査で時々使うもので、防音や防犯設備は万全であった。

一匹狼の刑事は特別の取り調べ室へと連行後、FBIと警察による尋問が行われた。
彼は、シェインが黙って潜伏先を変えて、その事で怒りを覚えていたのにも関わらず、FBIに対して黙秘を続けた。

秘密結社への忠誠心を今でも持ち続けていた。

彼は、秘密結社の同志になりたくて、ウェルバーに近付いた。しかし、常に一人で行動する為、協調性が無いとの理由で、秘密結社の創始者・ウェルバーには正式な同志として認められていなかった。

同じくウェルバーに冷たくされていたシェインと、よしみを結んで、かれこれ10年以上にもなる。

正式な同志にならなくても、秘密結社の為に必死に働いた。クーデターによって、ルドルフが秘密結社のリーダーに就任した時、シェインの口添えで、彼はようやく秘密結社の同志になることが出来たのだ。

一匹狼の刑事は、シェインに怒りを感じているにせよ、恩人でもある彼を、警察に売る気はさらさら無かった。


取り調べ室の彼の様子は、秘密結社と繋がりのある警官を通じて、シェインの耳に届いていた。

「アイツ、黙秘を続けているのか。俺はアイツを見捨てて、潜伏先を変えたというのに。何て義理固い男だ。しまった。俺のしたことが」 

シェインは、一匹狼の刑事に対する態度を悔いた。

シェインの部屋に、ミーシャとエドワードが集まっていた。

山本は、買い出しに街外れのスーパーへ出掛けていて留守だった。

「どうする?」
ミーシャが問うた。

「決まっている。奪い返すだけだ。どんな手を使ってでも」
シェインは答えた。

「そうしよう。殺し屋達にとって、良い予行演習となる。早速、立案しよう」
エドワードがラッキーストライクの火を灰皿の上で消した。
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