前回 、目次 、登場人物 、あらすじ
ブライアンが部屋に入ると、口入れ屋がベットに寝ていた。
彼がブライアンを見て、上半身を起こした。
「無理するな」
「平気さ。さっき、医者から注射を打って貰ったから、大分気分が良いんだ。それに今日、妹の手術が無事に成功した事もあるな。医療の進歩は早えよな。経過が良ければ、3日後には退院するそうだ」
「明日にでも報告しようと思っていたのだが、耳が早い。流石、裏社会を生き抜く口入れ屋だ」
「さっき、妹と電話で話した。声が明るかったよ。ブライアン、お前のお陰だ。心から感謝するぜ。所で、まだ秘密結社の潜伏先を探しているのか?」
「ああ。お前から教えて貰った邸宅へ行ったが、奴等を見た目撃者はいたが、何処へ移ったのかは未だ掴めていないのだ。連中に武器を売った商人に会ったが、奴も分からなかった。スワンスン夫人にも会ってみたものの、彼女は奴等の正体すら知らなかった。それに、私達の行動を、FBIが尾行している気配がある」
ブライアンは首を振った。
「それは残念だ。別ルートで、家を借りているんだろう。裏社会の人間が絡んでいるな」
「今、ジュリアンにも頼んで探して貰っている最中だ。一刻も早く見付けなければならない。時間がかかると、FBIが我々の動きを察してしまう」
「お前さんに秘密結社の居場所について話たが、その時に言いそびれた事があってな。今、それを打ち明けたい。時間を稼ぐ為に、俺がFBIに爆弾を提供するよ」
「爆弾とは何だ?」
「ニックの件だ」
「お前、奴の行方を知っているのか?」
「シェインから聞いた話だ。お前さん達が、ニックがイサオを撃ったのを知る前に、シェイン達はかなり前に真相を既に知っていた。裏を取った訳じゃないから、真偽の程は分からねえけどな」
「何と・・・」
ブライアンは秘密結社の情報網に、驚きを隠せなかった。
「俺はお前さんと同じ頃、ニックがイサオを撃った話を聞いた。それで、慌てて連絡を入れたら、シェインから『心配するな。済んだ話だ』と返ってきた」
「済んだ?」
「俺が突っ込んで聞くと、シェインは『奴は自分で始末をつけた』とだけ言った」
ブライアンは衝撃が走った。
「自分で始末・・・。それで、シェインは、その後ニックをどうしたか言っていなかったか?」
「それも尋ねた。『バレないようにしたから、気にするな』と言って、別の話題に振られた。どうも、アイツはニックについて触れたくない様子だった。無理もない。警察にいた頃、一緒に組んで仕事をしていたからな」
口入れ屋の目に、顔色を失っているブライアンが写った。
「おい、大丈夫か?顔色が真っ青だぞ。お前さん、ニックとこの件以外にも関わりがあったのか?」
「あった。大分昔だが、奴に借りがあった。それを、私はまだ返していなかったのだ・・・」
ブライアンは大きく深呼吸をして、話を続けた。
「ニックの話を、FBIに話してくれ。きっと、FBIは大騒ぎになって、捜査も広がり、私達の行動に目を光らせる事も無くなるだろう」
「そうするよ」
「私はこれで失礼する」
ブライアンは椅子からスッと立ち上がったが、何時も見る精悍さが消えていた。
顔色が青白いまま、ブライアンは部屋を出ようとした。
すると、口入れ屋がブライアンの腕を掴んだ。
「この際だから、打ち明ける。お前さん、今の話を聞いて、かなりショックを受けているが、決して女には話すな」
「女?何の事だ」
ブライアンは、口入れ屋が何の話をしているのか理解出来ないほど、精神的な痛手を被っていた。
「実はな、シェインに頼まれて俺は女をお前の元へ送り込んだ。お前さんから捜査情報を聞き出す為だ。これまで3人送ったが、失敗した。この事は、どうしても話せなかった。もし、言ったら、妹への支援を打ち切られるんじゃないかと思って、ずっと迷っていたんだ」
ブライアンは口入れ屋の話の内容がようやく分かった。
「おい、スパイを送ったのか?!覚えがある。私がこの街へ来た当初、行きつけの高級クラブで、多くの若い女に声をかけられた。その当時は、イサオの意識が戻らなかったので、その気にはならなかった。それは、お前の仕業だったのか」
「許してくれ。スパイを送り込めず、困った俺は、シェインに内緒で山本に頼った。奴は、色んな女達と繋がりがあったからだ。過去に、売春クラブを運営する女将のヒモをしていたと言っていた位だ。山本は俺から話を聞いて、昔の女の娘をお前の所に送った。すると、山本から、成功したと報告があった。女が仕掛けた盗聴器を使って、シェインはお前さんの情報を集めている。それに、お前のパソコンをハッキングしているとも、言っていたぞ。女がパソコンをいじくったそうだ。女に関して、シェインは俺のお陰だと勘違いしたままだ」
口入れ屋は、既にシェインが女を送ったのは山本だと事実を掴んでいたことを知らなかった。
今の話は、ブライアンにとって更なる衝撃の告白であったが、同時に疑問が湧いた。
「昔の女の娘?山本は20代半ばと聞いている。もしかしすると、10代か?私には記憶に無い。歳や、容姿等について聞いていないか?」
「山本が言うには、歳は同い年だ。名前は、マギー。お前さんがグラマーな女が好きだと、俺が山本に教えたので、きっとそのタイプだ」
ブライアンには覚えがあった。
ヴィクトリアと出会う数ヶ月前の出来事であった。
イサオが意識を取り戻して、ブライアンの精神は高揚していた時に、高級クラブで出会った若い女から誘われ、一夜を共にした事があったのだ。
メアリーと名乗っていたが、きっとその女に違いないとブライアンは思った。
「迂闊だった。古典的な手に騙されるとは。恐らく、盗聴器はベットの下だ。直ぐに調べる。打ち明けてくれて感謝する」
「そんな、礼を言われるなんて。お前さんの事を誤解していた。ここまで良くしてくれたのに、ずっと真実を言えなかった事を、改めて謝罪する。そして、コリンに、写真の件では申し訳ないことをしたと伝えて欲しい。今は後悔していると」
「了解した。伝える」
ブライアンは施設を出ると、外は雨足は強くなっていた。
体を雨に濡らしたまま、ベンツS HYBRIDに乗り込んだ。
ブライアンは定宿の高級ホテルの部屋に戻るなり、急いでベットの下を覗いた。
何も見当たらなかった。
『どこに盗聴器をつけた。これも、ジョンに頼まなければなるまい。悔しいが、秘密結社にしてやられた』
ブライアンは、ジョンを呼び出し、ジョンも宿泊しているホテルから急いでブライアンの部屋へ向かった。
ジョンは到着するなり、自作の器械を使い、盗聴器を探索したが、見付からなかった。
ベットの下に限らず、部屋の隅々まで器械をあてて、怪しい電波が出ていないかを調査した。
「念の為に、隠しカメラも調べたけど、出てこなかったよ。私の推理だと、山本という男の嘘を、口入れ屋が信じ込んでいるんじゃないか?」
「口入れ屋は、シェインは俺の情報を集めていると言っていた。部屋に無いとすると、車の中だ」
二人は地下へ降り、駐車場に停めてあったベンツS HYBRIDの中を調べたが、発見出来なかった。
「一体どこだ?」
再び部屋に戻った二人は、ノートパソコンを調べたが、ブライアンのいない隙に使われた形跡は見られなかった。
「毎日パスワードを変えているので、勝手にいじられることはない。外部からハッキングされた可能性はあるから、調べてみよう」
ブライアンは所属している警備会社のIT部門に連絡し、外部からノートパソコンが侵入されて、データを盗まれていないか調べて欲しいと頼んだ。
担当者から折り返し連絡が入り、ブライアンのノートパソコンにハッキングされた形跡がないとの返事があった。
「今、付き合っているというヴィクトリアについて調べないのか?」
ジョンに指摘され、ブライアンは一瞬腹が立ったが、冷静に考えると、その通りだと思った。
ヴィクトリアと出会ったのは、コリンが退院した日だったのを思い出した。
『唯の偶然だ』
ブライアンは、カードケースからヴィクトリアの名刺を取り出した。
ノートパソコンで、彼女が勤務しているという大手化粧品会社のホームページを検索し、閲覧したが、怪しいところは見当たらなかった。
「この会社は老舗だ。有名なデパートで販売されているし、販売員が顧客の所へ訪問して、商品の紹介をするシステムもあるのだ」
ブライアンと一緒に、ホームページを見ているジョンが説明をした。
「よく知ってるな。お前のカミさんが使っているのか?」
「私の妻は、この高級なものは買えないよ。うちの警備会社の社長が使っている。彼女は多忙だから、販売員が朝早くに会社へ商品を届けに来ていた。私は、2回程遭遇した」
「私達の社長が顧客だったのか。世間は広いようで狭い」
念の為に、名刺に書かれている電話番号に掛けてみることにした。
少し手が震えた。
「こちらは、大手化粧品会社・案内係でございます」
英国訛りの女性の声がブライアンの耳に入った。
ブライアンは単刀直入に、ヴィクトリアが在籍しているかと尋ねた。
「はい。おりますが、今は営業に出ております。彼女に何かご用件がおありでしょうか?」
「男性用化粧品の件で、問い合わせをしたかっただけだ」
「彼女に、貴男のメッセージをお伝え致しましょうか」
「いや、いい。後で、また連絡する」
ブライアンは名も名乗らずに、iPhoneを切った。
安堵し、全身の力が抜け、椅子に座り込んだ。
その様子を見たジョンが言った。
「君のその姿を見るのは初めてだ。君も人並みの感情を持っているのだね」
「なんだその言い草は」
ブライアンは不愉快そうに、ジョンを見た。
「私は君とは長い付き合いになるけど、君は何時も感情をコントロールしていた。私の知っている範囲だが、数多くの女性達が君にのぼせることがあっても、君はどこか醒めていたし、恋愛をゲームとして捉えていた。今度の彼女は特別なのだね。私としては今回の君の態度は歓迎だよ。人生の伴侶を得て、添い遂げる大切さをようやく知ったようだね。イサオさんやコリンの影響かね」
「何を言っている。私は、そこまで考えない。恋愛に関しては、今だけを大事にする男だ」
表面上は冷静さを装ったブライアンだが、両耳は照れで真っ赤になっていた。
ジョンはその事を指摘したかったが、ブライアンは頑なに否定して怒るだろうと察し、黙ることにした。
「何か言いたそうだな」
ブライアンは、何か言いたげな表情をしているジョンを睨んだ。
「ニックの事、コリンとデイビットに電話で伝えないのか?」
ジョンは話を逸らした。
「いや、ニックの件は直接二人に会って話す」
ブライアンは、コリンにニックの事を伝える為にアパートへ向かった。
ベンツS HYBRIDに乗り、外へ出ると、既に暗く、大雨は霧雨に変わっていた。
ヘッドライトをハイライトにして、道路を走行した。
それでも、先が思うように見えなかった。
「まるで、私の気持ちを表しているようだな」
ブライアンは、一人事を言った。
とても気が重かった。
「やあ、ブライアン。待っていたよ」
事前に連絡を受けていたコリンが、ブライアンを微笑んで迎えた。
「何だ。直接会って話したい事とは?先ずは、ここへ座れ。コーヒーで良いか?確か、ブラックだったよな?」
デイビットは、ブライアンをリビングに座らせた。
「ああ、そうだ。有難う」
ブライアンは緊張した表情で、席に着き、デイビットがいれたコーヒーを口にした。
デイビットが、ダウンタウンの珈琲専門店で仕入れたキリマンジャロは香ばしく、ブライアンの体を温めた。
そして、ブライアンは口入れ屋から、『ニックは自分で始末をつけた』との話を得たことを打ち明けた。
コリンは、一瞬頭が真っ白になった。
「ロボは・・・?」
絞り出すように、コリンがニックの愛犬・ロボについて尋ねた。
「残念ながら、口入れ屋は、ロボの事は何も知らない」
スパイナーだったデイビットは、冷静に受け止めていた。
「それで、ニックの遺体は何処に?」
「シェインは、そこまで話していないそうだ。アイツらは、ニックがイサオを撃った事実を、我々が知る前に、どうやら掴んだらしいのだ」
「野郎は、独自に情報網があるな。もしかして、ニックが犯行現場にいた証拠の防犯カメラを、俺達よりも先に見ていたかも知れんな」
「お前の予想が当たれば、何でも屋がシェインと通じているということになる。奴は、防犯カメラの記録を金庫に隠していた。それを、私達より前にシェインに見せていた可能性があるのか。しかし、奴は、ニックに浮気という弱みを握られ、ずっと真実に口を閉ざしていた。内通者ではない。そうすると、浮気を隠していたニックと旦那に腹を立てたジョーニーが、怒りに任せてシェインに防犯カメラの映像を見せたと言うことになるが、それの可能性は低い。何故なら、彼女は金庫の暗証番号を知らなかった事と、防犯カメラの映像には何か映っているのか分からなかった事だ」
「何でも屋の店主に、直接聞いてみるか。ジュリアンによれば、離婚が成立して、銃器を扱う店に転職したとか」
「その通りだ。ジョーニーは、離婚の傷を癒やす為、スペイン・フランスの聖地巡礼の旅に出ている。二人の聞き取りは、ジュリアンに任せよう。彼は、二人と長年の友人だ」
「ジュリアンには、真実を話すんでしょ。小学校からの親友だもの。かなりショックを受けるよ」
「これから話す。奴も裏社会で生きている情報屋の親玉だ。多少の覚悟は、心の何処かに秘めている筈だ。話を聞いて、ショックは受けるだろうが、捜査には支障をきたさない。これから、私は直接にジュリアンと会って、話してくる。その前に、コリンにもう一つ話さなければならない事がある」
「何?」
「口入れ屋が、コリンの写真の事について、謝っていた」
「あいつには、特に怒りは無いよ。あの写真を持ってきたのは、山本だからね」
話を終えて席を立つブライアンに、コリンは一つの頼み事をした。
「ブライアン、ジュリアンにお願いして欲しい事があるんだ.」
「ロボの行方か?分かった。それも頼んでおく」
「俺達も秘密結社の居場所が分かったら、シェインを締め上げて吐かせる」
『コリン、自分の忌まわしい過去を知っているシェインの口を、永久に閉ざす事が先なのに。ロボの事を心配しているのか。自分よりも』
デイビットは胸が潰れた。
======
同じ時刻、秘密結社と殺し屋達が潜伏している家では、騒ぎが起きていた。
「イサオの兄・隼が、日本の首相と通じている」と。
続き
ブライアンが部屋に入ると、口入れ屋がベットに寝ていた。
彼がブライアンを見て、上半身を起こした。
「無理するな」
「平気さ。さっき、医者から注射を打って貰ったから、大分気分が良いんだ。それに今日、妹の手術が無事に成功した事もあるな。医療の進歩は早えよな。経過が良ければ、3日後には退院するそうだ」
「明日にでも報告しようと思っていたのだが、耳が早い。流石、裏社会を生き抜く口入れ屋だ」
「さっき、妹と電話で話した。声が明るかったよ。ブライアン、お前のお陰だ。心から感謝するぜ。所で、まだ秘密結社の潜伏先を探しているのか?」
「ああ。お前から教えて貰った邸宅へ行ったが、奴等を見た目撃者はいたが、何処へ移ったのかは未だ掴めていないのだ。連中に武器を売った商人に会ったが、奴も分からなかった。スワンスン夫人にも会ってみたものの、彼女は奴等の正体すら知らなかった。それに、私達の行動を、FBIが尾行している気配がある」
ブライアンは首を振った。
「それは残念だ。別ルートで、家を借りているんだろう。裏社会の人間が絡んでいるな」
「今、ジュリアンにも頼んで探して貰っている最中だ。一刻も早く見付けなければならない。時間がかかると、FBIが我々の動きを察してしまう」
「お前さんに秘密結社の居場所について話たが、その時に言いそびれた事があってな。今、それを打ち明けたい。時間を稼ぐ為に、俺がFBIに爆弾を提供するよ」
「爆弾とは何だ?」
「ニックの件だ」
「お前、奴の行方を知っているのか?」
「シェインから聞いた話だ。お前さん達が、ニックがイサオを撃ったのを知る前に、シェイン達はかなり前に真相を既に知っていた。裏を取った訳じゃないから、真偽の程は分からねえけどな」
「何と・・・」
ブライアンは秘密結社の情報網に、驚きを隠せなかった。
「俺はお前さんと同じ頃、ニックがイサオを撃った話を聞いた。それで、慌てて連絡を入れたら、シェインから『心配するな。済んだ話だ』と返ってきた」
「済んだ?」
「俺が突っ込んで聞くと、シェインは『奴は自分で始末をつけた』とだけ言った」
ブライアンは衝撃が走った。
「自分で始末・・・。それで、シェインは、その後ニックをどうしたか言っていなかったか?」
「それも尋ねた。『バレないようにしたから、気にするな』と言って、別の話題に振られた。どうも、アイツはニックについて触れたくない様子だった。無理もない。警察にいた頃、一緒に組んで仕事をしていたからな」
口入れ屋の目に、顔色を失っているブライアンが写った。
「おい、大丈夫か?顔色が真っ青だぞ。お前さん、ニックとこの件以外にも関わりがあったのか?」
「あった。大分昔だが、奴に借りがあった。それを、私はまだ返していなかったのだ・・・」
ブライアンは大きく深呼吸をして、話を続けた。
「ニックの話を、FBIに話してくれ。きっと、FBIは大騒ぎになって、捜査も広がり、私達の行動に目を光らせる事も無くなるだろう」
「そうするよ」
「私はこれで失礼する」
ブライアンは椅子からスッと立ち上がったが、何時も見る精悍さが消えていた。
顔色が青白いまま、ブライアンは部屋を出ようとした。
すると、口入れ屋がブライアンの腕を掴んだ。
「この際だから、打ち明ける。お前さん、今の話を聞いて、かなりショックを受けているが、決して女には話すな」
「女?何の事だ」
ブライアンは、口入れ屋が何の話をしているのか理解出来ないほど、精神的な痛手を被っていた。
「実はな、シェインに頼まれて俺は女をお前の元へ送り込んだ。お前さんから捜査情報を聞き出す為だ。これまで3人送ったが、失敗した。この事は、どうしても話せなかった。もし、言ったら、妹への支援を打ち切られるんじゃないかと思って、ずっと迷っていたんだ」
ブライアンは口入れ屋の話の内容がようやく分かった。
「おい、スパイを送ったのか?!覚えがある。私がこの街へ来た当初、行きつけの高級クラブで、多くの若い女に声をかけられた。その当時は、イサオの意識が戻らなかったので、その気にはならなかった。それは、お前の仕業だったのか」
「許してくれ。スパイを送り込めず、困った俺は、シェインに内緒で山本に頼った。奴は、色んな女達と繋がりがあったからだ。過去に、売春クラブを運営する女将のヒモをしていたと言っていた位だ。山本は俺から話を聞いて、昔の女の娘をお前の所に送った。すると、山本から、成功したと報告があった。女が仕掛けた盗聴器を使って、シェインはお前さんの情報を集めている。それに、お前のパソコンをハッキングしているとも、言っていたぞ。女がパソコンをいじくったそうだ。女に関して、シェインは俺のお陰だと勘違いしたままだ」
口入れ屋は、既にシェインが女を送ったのは山本だと事実を掴んでいたことを知らなかった。
今の話は、ブライアンにとって更なる衝撃の告白であったが、同時に疑問が湧いた。
「昔の女の娘?山本は20代半ばと聞いている。もしかしすると、10代か?私には記憶に無い。歳や、容姿等について聞いていないか?」
「山本が言うには、歳は同い年だ。名前は、マギー。お前さんがグラマーな女が好きだと、俺が山本に教えたので、きっとそのタイプだ」
ブライアンには覚えがあった。
ヴィクトリアと出会う数ヶ月前の出来事であった。
イサオが意識を取り戻して、ブライアンの精神は高揚していた時に、高級クラブで出会った若い女から誘われ、一夜を共にした事があったのだ。
メアリーと名乗っていたが、きっとその女に違いないとブライアンは思った。
「迂闊だった。古典的な手に騙されるとは。恐らく、盗聴器はベットの下だ。直ぐに調べる。打ち明けてくれて感謝する」
「そんな、礼を言われるなんて。お前さんの事を誤解していた。ここまで良くしてくれたのに、ずっと真実を言えなかった事を、改めて謝罪する。そして、コリンに、写真の件では申し訳ないことをしたと伝えて欲しい。今は後悔していると」
「了解した。伝える」
ブライアンは施設を出ると、外は雨足は強くなっていた。
体を雨に濡らしたまま、ベンツS HYBRIDに乗り込んだ。
ブライアンは定宿の高級ホテルの部屋に戻るなり、急いでベットの下を覗いた。
何も見当たらなかった。
『どこに盗聴器をつけた。これも、ジョンに頼まなければなるまい。悔しいが、秘密結社にしてやられた』
ブライアンは、ジョンを呼び出し、ジョンも宿泊しているホテルから急いでブライアンの部屋へ向かった。
ジョンは到着するなり、自作の器械を使い、盗聴器を探索したが、見付からなかった。
ベットの下に限らず、部屋の隅々まで器械をあてて、怪しい電波が出ていないかを調査した。
「念の為に、隠しカメラも調べたけど、出てこなかったよ。私の推理だと、山本という男の嘘を、口入れ屋が信じ込んでいるんじゃないか?」
「口入れ屋は、シェインは俺の情報を集めていると言っていた。部屋に無いとすると、車の中だ」
二人は地下へ降り、駐車場に停めてあったベンツS HYBRIDの中を調べたが、発見出来なかった。
「一体どこだ?」
再び部屋に戻った二人は、ノートパソコンを調べたが、ブライアンのいない隙に使われた形跡は見られなかった。
「毎日パスワードを変えているので、勝手にいじられることはない。外部からハッキングされた可能性はあるから、調べてみよう」
ブライアンは所属している警備会社のIT部門に連絡し、外部からノートパソコンが侵入されて、データを盗まれていないか調べて欲しいと頼んだ。
担当者から折り返し連絡が入り、ブライアンのノートパソコンにハッキングされた形跡がないとの返事があった。
「今、付き合っているというヴィクトリアについて調べないのか?」
ジョンに指摘され、ブライアンは一瞬腹が立ったが、冷静に考えると、その通りだと思った。
ヴィクトリアと出会ったのは、コリンが退院した日だったのを思い出した。
『唯の偶然だ』
ブライアンは、カードケースからヴィクトリアの名刺を取り出した。
ノートパソコンで、彼女が勤務しているという大手化粧品会社のホームページを検索し、閲覧したが、怪しいところは見当たらなかった。
「この会社は老舗だ。有名なデパートで販売されているし、販売員が顧客の所へ訪問して、商品の紹介をするシステムもあるのだ」
ブライアンと一緒に、ホームページを見ているジョンが説明をした。
「よく知ってるな。お前のカミさんが使っているのか?」
「私の妻は、この高級なものは買えないよ。うちの警備会社の社長が使っている。彼女は多忙だから、販売員が朝早くに会社へ商品を届けに来ていた。私は、2回程遭遇した」
「私達の社長が顧客だったのか。世間は広いようで狭い」
念の為に、名刺に書かれている電話番号に掛けてみることにした。
少し手が震えた。
「こちらは、大手化粧品会社・案内係でございます」
英国訛りの女性の声がブライアンの耳に入った。
ブライアンは単刀直入に、ヴィクトリアが在籍しているかと尋ねた。
「はい。おりますが、今は営業に出ております。彼女に何かご用件がおありでしょうか?」
「男性用化粧品の件で、問い合わせをしたかっただけだ」
「彼女に、貴男のメッセージをお伝え致しましょうか」
「いや、いい。後で、また連絡する」
ブライアンは名も名乗らずに、iPhoneを切った。
安堵し、全身の力が抜け、椅子に座り込んだ。
その様子を見たジョンが言った。
「君のその姿を見るのは初めてだ。君も人並みの感情を持っているのだね」
「なんだその言い草は」
ブライアンは不愉快そうに、ジョンを見た。
「私は君とは長い付き合いになるけど、君は何時も感情をコントロールしていた。私の知っている範囲だが、数多くの女性達が君にのぼせることがあっても、君はどこか醒めていたし、恋愛をゲームとして捉えていた。今度の彼女は特別なのだね。私としては今回の君の態度は歓迎だよ。人生の伴侶を得て、添い遂げる大切さをようやく知ったようだね。イサオさんやコリンの影響かね」
「何を言っている。私は、そこまで考えない。恋愛に関しては、今だけを大事にする男だ」
表面上は冷静さを装ったブライアンだが、両耳は照れで真っ赤になっていた。
ジョンはその事を指摘したかったが、ブライアンは頑なに否定して怒るだろうと察し、黙ることにした。
「何か言いたそうだな」
ブライアンは、何か言いたげな表情をしているジョンを睨んだ。
「ニックの事、コリンとデイビットに電話で伝えないのか?」
ジョンは話を逸らした。
「いや、ニックの件は直接二人に会って話す」
ブライアンは、コリンにニックの事を伝える為にアパートへ向かった。
ベンツS HYBRIDに乗り、外へ出ると、既に暗く、大雨は霧雨に変わっていた。
ヘッドライトをハイライトにして、道路を走行した。
それでも、先が思うように見えなかった。
「まるで、私の気持ちを表しているようだな」
ブライアンは、一人事を言った。
とても気が重かった。
「やあ、ブライアン。待っていたよ」
事前に連絡を受けていたコリンが、ブライアンを微笑んで迎えた。
「何だ。直接会って話したい事とは?先ずは、ここへ座れ。コーヒーで良いか?確か、ブラックだったよな?」
デイビットは、ブライアンをリビングに座らせた。
「ああ、そうだ。有難う」
ブライアンは緊張した表情で、席に着き、デイビットがいれたコーヒーを口にした。
デイビットが、ダウンタウンの珈琲専門店で仕入れたキリマンジャロは香ばしく、ブライアンの体を温めた。
そして、ブライアンは口入れ屋から、『ニックは自分で始末をつけた』との話を得たことを打ち明けた。
コリンは、一瞬頭が真っ白になった。
「ロボは・・・?」
絞り出すように、コリンがニックの愛犬・ロボについて尋ねた。
「残念ながら、口入れ屋は、ロボの事は何も知らない」
スパイナーだったデイビットは、冷静に受け止めていた。
「それで、ニックの遺体は何処に?」
「シェインは、そこまで話していないそうだ。アイツらは、ニックがイサオを撃った事実を、我々が知る前に、どうやら掴んだらしいのだ」
「野郎は、独自に情報網があるな。もしかして、ニックが犯行現場にいた証拠の防犯カメラを、俺達よりも先に見ていたかも知れんな」
「お前の予想が当たれば、何でも屋がシェインと通じているということになる。奴は、防犯カメラの記録を金庫に隠していた。それを、私達より前にシェインに見せていた可能性があるのか。しかし、奴は、ニックに浮気という弱みを握られ、ずっと真実に口を閉ざしていた。内通者ではない。そうすると、浮気を隠していたニックと旦那に腹を立てたジョーニーが、怒りに任せてシェインに防犯カメラの映像を見せたと言うことになるが、それの可能性は低い。何故なら、彼女は金庫の暗証番号を知らなかった事と、防犯カメラの映像には何か映っているのか分からなかった事だ」
「何でも屋の店主に、直接聞いてみるか。ジュリアンによれば、離婚が成立して、銃器を扱う店に転職したとか」
「その通りだ。ジョーニーは、離婚の傷を癒やす為、スペイン・フランスの聖地巡礼の旅に出ている。二人の聞き取りは、ジュリアンに任せよう。彼は、二人と長年の友人だ」
「ジュリアンには、真実を話すんでしょ。小学校からの親友だもの。かなりショックを受けるよ」
「これから話す。奴も裏社会で生きている情報屋の親玉だ。多少の覚悟は、心の何処かに秘めている筈だ。話を聞いて、ショックは受けるだろうが、捜査には支障をきたさない。これから、私は直接にジュリアンと会って、話してくる。その前に、コリンにもう一つ話さなければならない事がある」
「何?」
「口入れ屋が、コリンの写真の事について、謝っていた」
「あいつには、特に怒りは無いよ。あの写真を持ってきたのは、山本だからね」
話を終えて席を立つブライアンに、コリンは一つの頼み事をした。
「ブライアン、ジュリアンにお願いして欲しい事があるんだ.」
「ロボの行方か?分かった。それも頼んでおく」
「俺達も秘密結社の居場所が分かったら、シェインを締め上げて吐かせる」
『コリン、自分の忌まわしい過去を知っているシェインの口を、永久に閉ざす事が先なのに。ロボの事を心配しているのか。自分よりも』
デイビットは胸が潰れた。
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同じ時刻、秘密結社と殺し屋達が潜伏している家では、騒ぎが起きていた。
「イサオの兄・隼が、日本の首相と通じている」と。
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