前回 、目次 、登場人物 、あらすじ
口入れ屋から秘密結社の隠れ家の場所を告白されたブライアンは、愛用のオメガ・スピードマスター’57で現在の時間を確認した。
時計の針は5時前をさしていたが、迷わずにデイビットに連絡した。
デイビットは、コリンとベットで就寝中であったが、ブライアンの連絡を受けると、コリンを起こし、急いで支度を済ませ、隠れ家へフォレスターで急行した。
ブライアンも、愛車のベンツS HYBRIDを操り、現場へ向かった。
コリンとデイビットを乗せたフォレスターは、ダウンタウンから離れた場所にある、高級住宅街に辿り着いた。
ゲートはあるものの、夏のバケーションで、半数の住民が避暑地へ出掛けたり、残った住民はパーティを頻繁に開催して、多くの招待客やサービス業の人間が出入りする為、警備員は身分証明書をチラッと見ただけで、簡単に通してくれた。
ゲートを潜り、目的の邸宅へと向かった。
「広い庭と大きな家ばかりだ。こんな豪華なところに潜伏しているのか。金あるなあ」
助手席の窓からコリンは、住宅街を見渡した。
「正確には、『潜伏していた』だろう。口入れ屋が逮捕されたのを知って、きっと別の場所へ移動したに違いない。もうじき目的の家だ」
フォルスタ-を運転するデイビットは、前方左側の白い邸宅を指さした。
邸宅より少し手前にフォルスタ-を止めると、コリンとデイビットは門の前まで歩いた。
「でっかい家だ。ここなら、20名もの殺し屋達を住まわせる事が出来るね」
「やっぱり、逃げたな。人の住んでいる気配が無い」
デイビットはコリンを誘い、邸宅の周りを歩いた。
白を基調とした広々とした邸宅に、きちんと手入れがされている庭が柵の隙間から見えた。
「待たせた」
ブライアンがやって来た。
「ちょっと見ただけだが、引っ越した後だ。庭にはゴミ一つも落ちていない」
「矢張りな。流石は、警察の秘密結社だ。情報も手に入れるのが早いし、証拠隠滅もお手の物だ」
「中に入らないの?」
コリンが中を覗いた。
庭の芝は短く刈られ、数日前に庭師が敷地に入った痕跡が見られた。
「まだだ。セキュリティを解いてからだ。下手に作動させて、FBIに見付かったら元も子もない」
「あの邸宅は、スワンスン不動産会社が所有している物件だ」
ブライアンが報告した。
「欧州では、大手の不動産会社だ。アメリカにも進出していたのか」
デイビットは言った。
「進出という程では無い。お前の知っての通り、本社は創業者のスワンスン会長が生まれたスイスにある。その妻で、共同経営者が米国生まれの関係で、小規模ながらも物件を扱っている」
「ちょっと待てよ。スワンスンと言う苗字、何処かで聞いたな」
デイビットが思い出した。
「その通りだ。ニックのところへ訪ねていた、音楽家で探偵をしていたジョージ・O・オートンの元パトロンで、彼にGSX1100Sカタナをあげたご婦人だ。皆は、スワンスン夫人と呼んでいる。因みに、山本の元男妾でもある」
「何だって?!」
デイビットとコリンが驚いた。
「口入れ屋によれば、山本は秘密結社に雇われる前に、会長夫人の相手をしていたそうだ。この家は、奴を通して格安の家賃で借りた」
「余程の人妻たらしだな」
「山本は夫人に、『趣味のシューティングゲームで知り合った仲間達と、一緒に住める家を借りたい』と言ったらしい。で、夫人の出した条件が、『仲間で一番若い男を紹介して』だった」
デイビットは思わず、口笛を吹いた。
「夫人は今年で80歳と聞いていたが、まだまだ現役なのだな」
「その話を山本から聞いたシェインは、若い警官を紹介したそうだが、夫人は彼より1歳年下のミーシャを選んだそうだ」
「凄い女性だなあ。男を見抜く力があるんだね」
コリンは、夫人のパワーに感心してしまった。
「さき程メールで、夫人の顧問弁護士を通じて、夫人に面会を頼んだ。現在、返事待ちだ。面会したら、山本や秘密結社について知っている事を聞き出す。それに、敷地内に入る許可も貰う。彼女は今回の事件に縁があるが、秘密結社に利用されているだけだろう。恐らく、今の潜伏先も彼女が貸している可能性が高い」
「君達、そこの家に用事があるのかい?」
隣家の執事が裁ちバサミを片手に、声をかけてきた。
疑いの目で、3人を見ていた。
咄嗟に、コリンが微笑んで、答えた。
「知り合いを訪ねてきたんです。山本という名の日本人です。この家に、ルームメイトとシェアして住んでいると聞いたのですが、彼は引っ越ししたのですか?」
「あの礼儀正しい日本人の友達なのか。君達もシューティングゲームの仲間か?」
「はい、そうです。俺の母が日本人なので、色々と話が合いましてね」
コリンの半ば虚言を執事は信じ込み、こわばった表情を和らげ、笑顔を見せた。
「私の名はダリル。隣の家で執事をしている。庭師も兼ねているけどね。失礼だが、君の名前は?」
「コリン・マイケルズと言います。突然、彼からのメールが途絶えたから、心配して来たんです。俺一人じゃ、不安だったから、パートナーと親友についてきて貰ったんです」
コリンは友達思いの男を演じ、デイビットとブライアンを紹介した。
デイビットとブライアンは、執事に微笑みながら挨拶をした。
執事も笑顔で返した。
『私は、こんな短時間で人の警戒心を解くことは出来ない。これも裏社会で得たものか』
ブライアンは、執事に対応するコリンを感心しながら眺めていた。
「あれは、10日前かと思うけど、突然皆んなこの家から退去したよ。大きなトラックが出入りして、皆の荷物を持っていったよ。しかし、山本君が友達の君に何も言わずに、引っ越したとはねえ」
コリンは引き続き、質問をした。
「それが気になっているんです。山本さんのルームメイトについて、何かご存じですか?」
「彼等は、無愛想な若者だった。10名以上はいただろうね。中には堅気の人間じゃない風貌の男もいたね。きちんと私やここの住民に挨拶したのは、山本君だけだったね」
「彼等の事を、よくご存じですね」
「邸宅内は禁煙だったみたいで、彼等はしばしば庭で煙草を吸っていた。ここの邸宅と、私の主人の邸宅の間は、柵と、その周りを樹木で覆っているだけだから、彼等の姿が柵と樹木の影から、ちらちらと目に入ったんだ。シューティングゲームの他にも、庭に出てサバイバルゲームもやっていたね。時々、夏なのに、長袖長ズボン、防弾ベストやらの装備を着用して、庭を歩いていたのを見たよ。庭の奥で、ゲームを楽しんでいたね。ゴム弾の音が聞こえたけど、こちらからは、庭の手前しか見えないから、どんなゲームをしていたのかは分からないけどね」
「彼等の中に、20代半ばの金髪碧眼の若者と、40代後半の白髪交じりの男はいませんでしたか?」
「ん~、そう言えば、金髪の若者と白髪交じりの男性が庭をよく散歩していたのを、見た記憶があるね。兄弟かなと思って見ていたけど、金髪の若者の話す英語はフランス語訛りだったし、白髪交じりの男性はこの街のアクセントで喋っていたから、別人だったみたいだね」
『やはり、ミーシャとシェインがいたんだ』
コリンはそう確信した。
「そうそう、白髪交じりの男は、中年男性とよく庭の隅で話していたり、男達に何かと命令していたっけ」
「中年男性は、英国訛りがありましたか?」
中年男性は、恐らく、エドワードであろうと、デイビットは思った。
「いや、そこまで覚えていないけど、ヨーロッパから来た人間の雰囲気があったのは間違いないね。思い出した。英国訛りと言えば、若者2人が庭でタバコを吸いながら、そのような話し方をしていたね」
『口入れ屋から、エドワードが英国から若手の殺し屋を呼び寄せたと聞いている。恐らくそいつらだろう』
ブライアンが、執事の話からこう推察した。
「怪しい人の出入りとかはありませんでしたか?」
「よく男達が、バンに乗って出掛けているところは見たけどね。気になる点といえば、彼等がここへ越してきた日、ロールスロイスが入っていくところを見た位だ」
「ロールスロイス?形は色々とありますが?」
「私は1回しか見かけなかったし、車の種類はイマイチ分からないんだ。街でよく見かける型だったね。男達は金に困っていなさそうだから、彼等のものかも。家の中については、家主のスワンスン夫人に聞いてみたらどうかね?。簡単に顧客情報を教えてくれないかも知れないけど、事情を話しせば、協力してくれると思うよ。この界隈では、気さくな慈善家として評判が高いからね。紹介したいのだけど、私とご主人様は、この2年は夫人とお会いしていないんだ。夫人はここへは来なくなったのでね。もう、夫人は私の名前は忘れているだろう」
「スワンスン夫人ですね。ダメ元でも、聞いてみます」
コリン達は、その名前を初めて聞いた振りをした。
執事が握った右手を、左の掌の上にポンと叩いた。
「思い出した!!山本君なら、きっと何処かで運転手に就職したんじゃないか。引っ越す数日前に、ゲート近くで彼を見かけた時、肩まである髪を短く切って、スーツと制帽を身につけて、ジャガーを運転していたんだ。見違えるくらい格好良くなっていたよ。セレブ専用の運転手が登録している会社から探せば、彼を見つけ出せるかもね」
コリンの脳裏には、昨夜スーパーで見かけた運転手の姿が一瞬過ぎった。
ブライアンとデイビットは、山本が姿を変えたのは、秘密結社が何か企んでいるからだと察した。
「貴重な情報を有難うございます。とても助かりました。その線からも探っていきます」
コリンは心の中で、『さい先が良いぞ』と小躍りしていた。
そして、とびきりの笑顔を執事に見せ、固い握手を交わした。
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隠れ家では、シェインが苛立ち、部屋をウロウロしていた。
その時にミーシャが部屋を訪れ、何時も冷静なシェインの苛立った態度を目撃して驚いた。
「どうしたんだ?お前が怒るなんて、珍しいな」
「あの野郎、とうとうゲロしやがった」
シェインの言葉に、ミーシャが吃驚した。
「口入れ屋は、FBIに恨みがあるんじゃなかったのか?」
「そうだ。若い頃、FBIに捕まり、ムショへ入れられた過去がある。だが、ブライアンがアイツの妹に親切にしたからというだけで、コロッと降参したんだ。アイツとは長い付き合いだったのに。こんなにあっさりと、ブライアンに寝返るとは思いもしなかった」
「奴の口を封じる必要があるな」
「消えた2人の殺し屋の件があるから、無闇に動けない。俺達が依頼した探偵からの最終調査報告が、来週あるんだ。それが終わってからだ」
「何度も俺達の邪魔をした、殺し屋のアルフレッドの行方は?」
「携帯電話の電波を捉え続けているが、カナダの国境沿いの街にずっといる。依頼主のニックがいなくなったし、もう俺達の前に現れることは無いだろう」
「ルドルフに、ここの住所を教えただろ?もしも奴が、FBIの詰問を受けたら?」
「一応、秘密結社のリーダーだ。口入れ屋と違って、吐くことはない。それに、アイツはブライアンにしか白状していないので、今のところ俺達は安全だ。ブライアンが止めていると言ったほうが正解だ。コリンの過去がバレたら困るから、FBIが俺達を見付け出す前に、俺達を発見して口を封じる寸法さ」
「その前に、俺達がブライアン達を叩き潰す。それで、ブライアンはコリンとデイビットを引き連れて、前の隠れ家へ行っているのか?」
「セキュリティがあるから、中には入れていないが、外から俺達の痕跡をくまなく探している最中だ。時間はたっぷりある。俺達は奴等が嗅ぎ回っている間に、計画を練る。ルドルフについては、外科医を通じてこの事を伝えて、奴を逃がす余裕もある。ミーシャ、お前さんに頼みたいことがある」
「家主のスワンスン夫人に今回の事を伝えて、俺達の事を黙ってくれるようにお願いする役目か?勿論だ」
続き
口入れ屋から秘密結社の隠れ家の場所を告白されたブライアンは、愛用のオメガ・スピードマスター’57で現在の時間を確認した。
時計の針は5時前をさしていたが、迷わずにデイビットに連絡した。
デイビットは、コリンとベットで就寝中であったが、ブライアンの連絡を受けると、コリンを起こし、急いで支度を済ませ、隠れ家へフォレスターで急行した。
ブライアンも、愛車のベンツS HYBRIDを操り、現場へ向かった。
コリンとデイビットを乗せたフォレスターは、ダウンタウンから離れた場所にある、高級住宅街に辿り着いた。
ゲートはあるものの、夏のバケーションで、半数の住民が避暑地へ出掛けたり、残った住民はパーティを頻繁に開催して、多くの招待客やサービス業の人間が出入りする為、警備員は身分証明書をチラッと見ただけで、簡単に通してくれた。
ゲートを潜り、目的の邸宅へと向かった。
「広い庭と大きな家ばかりだ。こんな豪華なところに潜伏しているのか。金あるなあ」
助手席の窓からコリンは、住宅街を見渡した。
「正確には、『潜伏していた』だろう。口入れ屋が逮捕されたのを知って、きっと別の場所へ移動したに違いない。もうじき目的の家だ」
フォルスタ-を運転するデイビットは、前方左側の白い邸宅を指さした。
邸宅より少し手前にフォルスタ-を止めると、コリンとデイビットは門の前まで歩いた。
「でっかい家だ。ここなら、20名もの殺し屋達を住まわせる事が出来るね」
「やっぱり、逃げたな。人の住んでいる気配が無い」
デイビットはコリンを誘い、邸宅の周りを歩いた。
白を基調とした広々とした邸宅に、きちんと手入れがされている庭が柵の隙間から見えた。
「待たせた」
ブライアンがやって来た。
「ちょっと見ただけだが、引っ越した後だ。庭にはゴミ一つも落ちていない」
「矢張りな。流石は、警察の秘密結社だ。情報も手に入れるのが早いし、証拠隠滅もお手の物だ」
「中に入らないの?」
コリンが中を覗いた。
庭の芝は短く刈られ、数日前に庭師が敷地に入った痕跡が見られた。
「まだだ。セキュリティを解いてからだ。下手に作動させて、FBIに見付かったら元も子もない」
「あの邸宅は、スワンスン不動産会社が所有している物件だ」
ブライアンが報告した。
「欧州では、大手の不動産会社だ。アメリカにも進出していたのか」
デイビットは言った。
「進出という程では無い。お前の知っての通り、本社は創業者のスワンスン会長が生まれたスイスにある。その妻で、共同経営者が米国生まれの関係で、小規模ながらも物件を扱っている」
「ちょっと待てよ。スワンスンと言う苗字、何処かで聞いたな」
デイビットが思い出した。
「その通りだ。ニックのところへ訪ねていた、音楽家で探偵をしていたジョージ・O・オートンの元パトロンで、彼にGSX1100Sカタナをあげたご婦人だ。皆は、スワンスン夫人と呼んでいる。因みに、山本の元男妾でもある」
「何だって?!」
デイビットとコリンが驚いた。
「口入れ屋によれば、山本は秘密結社に雇われる前に、会長夫人の相手をしていたそうだ。この家は、奴を通して格安の家賃で借りた」
「余程の人妻たらしだな」
「山本は夫人に、『趣味のシューティングゲームで知り合った仲間達と、一緒に住める家を借りたい』と言ったらしい。で、夫人の出した条件が、『仲間で一番若い男を紹介して』だった」
デイビットは思わず、口笛を吹いた。
「夫人は今年で80歳と聞いていたが、まだまだ現役なのだな」
「その話を山本から聞いたシェインは、若い警官を紹介したそうだが、夫人は彼より1歳年下のミーシャを選んだそうだ」
「凄い女性だなあ。男を見抜く力があるんだね」
コリンは、夫人のパワーに感心してしまった。
「さき程メールで、夫人の顧問弁護士を通じて、夫人に面会を頼んだ。現在、返事待ちだ。面会したら、山本や秘密結社について知っている事を聞き出す。それに、敷地内に入る許可も貰う。彼女は今回の事件に縁があるが、秘密結社に利用されているだけだろう。恐らく、今の潜伏先も彼女が貸している可能性が高い」
「君達、そこの家に用事があるのかい?」
隣家の執事が裁ちバサミを片手に、声をかけてきた。
疑いの目で、3人を見ていた。
咄嗟に、コリンが微笑んで、答えた。
「知り合いを訪ねてきたんです。山本という名の日本人です。この家に、ルームメイトとシェアして住んでいると聞いたのですが、彼は引っ越ししたのですか?」
「あの礼儀正しい日本人の友達なのか。君達もシューティングゲームの仲間か?」
「はい、そうです。俺の母が日本人なので、色々と話が合いましてね」
コリンの半ば虚言を執事は信じ込み、こわばった表情を和らげ、笑顔を見せた。
「私の名はダリル。隣の家で執事をしている。庭師も兼ねているけどね。失礼だが、君の名前は?」
「コリン・マイケルズと言います。突然、彼からのメールが途絶えたから、心配して来たんです。俺一人じゃ、不安だったから、パートナーと親友についてきて貰ったんです」
コリンは友達思いの男を演じ、デイビットとブライアンを紹介した。
デイビットとブライアンは、執事に微笑みながら挨拶をした。
執事も笑顔で返した。
『私は、こんな短時間で人の警戒心を解くことは出来ない。これも裏社会で得たものか』
ブライアンは、執事に対応するコリンを感心しながら眺めていた。
「あれは、10日前かと思うけど、突然皆んなこの家から退去したよ。大きなトラックが出入りして、皆の荷物を持っていったよ。しかし、山本君が友達の君に何も言わずに、引っ越したとはねえ」
コリンは引き続き、質問をした。
「それが気になっているんです。山本さんのルームメイトについて、何かご存じですか?」
「彼等は、無愛想な若者だった。10名以上はいただろうね。中には堅気の人間じゃない風貌の男もいたね。きちんと私やここの住民に挨拶したのは、山本君だけだったね」
「彼等の事を、よくご存じですね」
「邸宅内は禁煙だったみたいで、彼等はしばしば庭で煙草を吸っていた。ここの邸宅と、私の主人の邸宅の間は、柵と、その周りを樹木で覆っているだけだから、彼等の姿が柵と樹木の影から、ちらちらと目に入ったんだ。シューティングゲームの他にも、庭に出てサバイバルゲームもやっていたね。時々、夏なのに、長袖長ズボン、防弾ベストやらの装備を着用して、庭を歩いていたのを見たよ。庭の奥で、ゲームを楽しんでいたね。ゴム弾の音が聞こえたけど、こちらからは、庭の手前しか見えないから、どんなゲームをしていたのかは分からないけどね」
「彼等の中に、20代半ばの金髪碧眼の若者と、40代後半の白髪交じりの男はいませんでしたか?」
「ん~、そう言えば、金髪の若者と白髪交じりの男性が庭をよく散歩していたのを、見た記憶があるね。兄弟かなと思って見ていたけど、金髪の若者の話す英語はフランス語訛りだったし、白髪交じりの男性はこの街のアクセントで喋っていたから、別人だったみたいだね」
『やはり、ミーシャとシェインがいたんだ』
コリンはそう確信した。
「そうそう、白髪交じりの男は、中年男性とよく庭の隅で話していたり、男達に何かと命令していたっけ」
「中年男性は、英国訛りがありましたか?」
中年男性は、恐らく、エドワードであろうと、デイビットは思った。
「いや、そこまで覚えていないけど、ヨーロッパから来た人間の雰囲気があったのは間違いないね。思い出した。英国訛りと言えば、若者2人が庭でタバコを吸いながら、そのような話し方をしていたね」
『口入れ屋から、エドワードが英国から若手の殺し屋を呼び寄せたと聞いている。恐らくそいつらだろう』
ブライアンが、執事の話からこう推察した。
「怪しい人の出入りとかはありませんでしたか?」
「よく男達が、バンに乗って出掛けているところは見たけどね。気になる点といえば、彼等がここへ越してきた日、ロールスロイスが入っていくところを見た位だ」
「ロールスロイス?形は色々とありますが?」
「私は1回しか見かけなかったし、車の種類はイマイチ分からないんだ。街でよく見かける型だったね。男達は金に困っていなさそうだから、彼等のものかも。家の中については、家主のスワンスン夫人に聞いてみたらどうかね?。簡単に顧客情報を教えてくれないかも知れないけど、事情を話しせば、協力してくれると思うよ。この界隈では、気さくな慈善家として評判が高いからね。紹介したいのだけど、私とご主人様は、この2年は夫人とお会いしていないんだ。夫人はここへは来なくなったのでね。もう、夫人は私の名前は忘れているだろう」
「スワンスン夫人ですね。ダメ元でも、聞いてみます」
コリン達は、その名前を初めて聞いた振りをした。
執事が握った右手を、左の掌の上にポンと叩いた。
「思い出した!!山本君なら、きっと何処かで運転手に就職したんじゃないか。引っ越す数日前に、ゲート近くで彼を見かけた時、肩まである髪を短く切って、スーツと制帽を身につけて、ジャガーを運転していたんだ。見違えるくらい格好良くなっていたよ。セレブ専用の運転手が登録している会社から探せば、彼を見つけ出せるかもね」
コリンの脳裏には、昨夜スーパーで見かけた運転手の姿が一瞬過ぎった。
ブライアンとデイビットは、山本が姿を変えたのは、秘密結社が何か企んでいるからだと察した。
「貴重な情報を有難うございます。とても助かりました。その線からも探っていきます」
コリンは心の中で、『さい先が良いぞ』と小躍りしていた。
そして、とびきりの笑顔を執事に見せ、固い握手を交わした。
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隠れ家では、シェインが苛立ち、部屋をウロウロしていた。
その時にミーシャが部屋を訪れ、何時も冷静なシェインの苛立った態度を目撃して驚いた。
「どうしたんだ?お前が怒るなんて、珍しいな」
「あの野郎、とうとうゲロしやがった」
シェインの言葉に、ミーシャが吃驚した。
「口入れ屋は、FBIに恨みがあるんじゃなかったのか?」
「そうだ。若い頃、FBIに捕まり、ムショへ入れられた過去がある。だが、ブライアンがアイツの妹に親切にしたからというだけで、コロッと降参したんだ。アイツとは長い付き合いだったのに。こんなにあっさりと、ブライアンに寝返るとは思いもしなかった」
「奴の口を封じる必要があるな」
「消えた2人の殺し屋の件があるから、無闇に動けない。俺達が依頼した探偵からの最終調査報告が、来週あるんだ。それが終わってからだ」
「何度も俺達の邪魔をした、殺し屋のアルフレッドの行方は?」
「携帯電話の電波を捉え続けているが、カナダの国境沿いの街にずっといる。依頼主のニックがいなくなったし、もう俺達の前に現れることは無いだろう」
「ルドルフに、ここの住所を教えただろ?もしも奴が、FBIの詰問を受けたら?」
「一応、秘密結社のリーダーだ。口入れ屋と違って、吐くことはない。それに、アイツはブライアンにしか白状していないので、今のところ俺達は安全だ。ブライアンが止めていると言ったほうが正解だ。コリンの過去がバレたら困るから、FBIが俺達を見付け出す前に、俺達を発見して口を封じる寸法さ」
「その前に、俺達がブライアン達を叩き潰す。それで、ブライアンはコリンとデイビットを引き連れて、前の隠れ家へ行っているのか?」
「セキュリティがあるから、中には入れていないが、外から俺達の痕跡をくまなく探している最中だ。時間はたっぷりある。俺達は奴等が嗅ぎ回っている間に、計画を練る。ルドルフについては、外科医を通じてこの事を伝えて、奴を逃がす余裕もある。ミーシャ、お前さんに頼みたいことがある」
「家主のスワンスン夫人に今回の事を伝えて、俺達の事を黙ってくれるようにお願いする役目か?勿論だ」
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