目次(あらすじはこちらへ)
藩主の亡き嫡男・藤丸の名前を出されたので、清吉のはったりに藩士達は信じ込んでしまった。
一人の者が正座をして、守り刀にお辞儀をすると、次から次へと藩士達はお辞儀を始めた。
「止めい!」と大杉が制しても、藩士達の動きを止めることは出来なかった。
大声を出したので、再び胸を刺されるような痛みを大杉は感じた。
後ろに控えていた八重は、夫の急変を察し、痛みを堪える夫をそっと支えた。
近正も上段の間の近くに正座をし、守り刀に深々とお辞儀をした。
「やはり、貴方様は藤丸様に命じられて動いておられたか。」
清吉のはったりは続いた。
「私は名も無き者でございます。ある晩、藤丸様が私の枕元に立っておられました。そして、7年前の経緯や、これからの藩の行く末を案じておられました。初め、私はただの夢だと思っておりました。しかし、藤丸様は立て続けに、私の夢の中にお出ましになられました。正夢の証拠に、藤丸様は、この守り刀が、大杉様の蔵の中に収められているとお示しになられました。私は、夢が真か確かめるために、この藩に潜入し、大杉様のお屋敷に忍び込み、この守り刀を見付けました。私は驚き、これは正しく藤丸様の仰っておられることは真であると確信致したのでございました。」
真実は、藤丸は祖母・八重の枕元に立っていて、藤丸の示す通りに八重が守り刀を見付けたのだ。
清吉は八重を庇った。
守り刀を見付けたのが八重だと判明すると、夫の大杉から離縁されるかも知れないのだ。
どんな事があっても、八重様を守ると清吉は心の中で固く誓っていた。
清吉の想いを知らない八重だが、清吉が自分を庇ってくれている事は察し、深く感謝していた。
清吉は続けた。
「私は、偶然にも今回の騒動を目にし、藤丸様の御懸念をようやく分かったのでございます。そこで、私は昔に行商人をしていた頃、団子屋の女主人・おときと縁があったのを思いだし、おときに近づき、この藩の事をあれやこれやと聞き、藤千代様が近く御老中の姫様と御婚約の儀が整う事を知りました。そして、御殿様が、突然御隠居遊ばされる事も知り、この機に加藤様が松千代様を跡取りにすべく動くと察し、更に藤千代様の墓参の折、御家老様の御子息、御内儀に近づきました。この守り刀をご覧に入れ、藤丸様のお話を致し、私の話を信じて頂きました。そして、藤千代様の列に加わるお許しを頂き、先日の刺客から、藤千代様をお守りし、ようやく藤千代様の御尊顔を拝謁することが叶いました。之までの経緯をお話し致しました。藤千代様は、私の話を信じて下さいました。本日、御殿様に取り成して頂き、この仕儀と相成りました。」
「そういうことだ。大杉。予の言った事、分かったか。」
ようやく奥の部屋から解放された藤千代が大広間に戻ってきた。
清吉は、守り刀を元の場所に戻し、上段から降りて御辞儀をした。
大杉と八重は座を直すと、藤千代に深々と御辞儀をした。
藩主も恐る恐る大広間へ戻ってきた。
「では、加藤の家を取り潰しは無しじゃな。藤丸は穏便に事を収めたい意向じゃ。父である予も同じ思いじゃ。三男に跡を継がせよ。これで一件落着じゃ。」
「いえ、父上、まだ終わっておりませぬ。兄上の件がございます。」
藤千代が父を制した。
大杉は「もやはこれまで。」と頭を上げ、全てを告白しようと決意した。
「何卒、その儀は。藤丸様はお苦しみの上、全てお許しになられるお気持ちでございます。その証に、私を使わされたのでございます。藤千代様もお苦しみでございましょうが、何卒平に御容赦下さいませ」
清吉は深々と頭を下げた。
藤千代の顔は赤くなり、大杉を激しく睨み、体がわらわらと震えた。
大杉は、藤千代の顔を直視した。
「御殿様、これまでの事は、全て藩の為に行ったものでございます。決して、私利私欲ではございません。藤丸様の一件の責めは、全て私一人のものでございます。これが最後の御奉公でございます。」
大杉は裃を脱ぎ、切腹をしようとした。
八重も夫の意を悟り、懐剣を取り出し、夫と共に自害すると覚悟を決めた。
清吉は二人を止めようとした。
すると、大杉の胸が激しく痛み出し、体が硬直し、脇差しに手を掛けることが出来なくなった。
そのまま、バタンと大きな音を立てて倒れてしまった。
八重と近正は急いで夫の側へ駆け寄った。
藩士達は、突然の出来事に唖然とした。
「藤丸が大杉を止めたのじゃ!切腹は相成らん。命令じゃ!誰か薬師を呼べ!」
藩主の一声に、藩士達は急いで立ち上がった。
大広間は、再び混乱に陥った。
直ぐに薬師が飛んできて、大杉の脈を取った。
藩主、藤千代、八重、近正、そして藩士達は、薬師の動きに注目していた。
その最中、清吉はそっと皆の前から姿を消した。
藩主の亡き嫡男・藤丸の名前を出されたので、清吉のはったりに藩士達は信じ込んでしまった。
一人の者が正座をして、守り刀にお辞儀をすると、次から次へと藩士達はお辞儀を始めた。
「止めい!」と大杉が制しても、藩士達の動きを止めることは出来なかった。
大声を出したので、再び胸を刺されるような痛みを大杉は感じた。
後ろに控えていた八重は、夫の急変を察し、痛みを堪える夫をそっと支えた。
近正も上段の間の近くに正座をし、守り刀に深々とお辞儀をした。
「やはり、貴方様は藤丸様に命じられて動いておられたか。」
清吉のはったりは続いた。
「私は名も無き者でございます。ある晩、藤丸様が私の枕元に立っておられました。そして、7年前の経緯や、これからの藩の行く末を案じておられました。初め、私はただの夢だと思っておりました。しかし、藤丸様は立て続けに、私の夢の中にお出ましになられました。正夢の証拠に、藤丸様は、この守り刀が、大杉様の蔵の中に収められているとお示しになられました。私は、夢が真か確かめるために、この藩に潜入し、大杉様のお屋敷に忍び込み、この守り刀を見付けました。私は驚き、これは正しく藤丸様の仰っておられることは真であると確信致したのでございました。」
真実は、藤丸は祖母・八重の枕元に立っていて、藤丸の示す通りに八重が守り刀を見付けたのだ。
清吉は八重を庇った。
守り刀を見付けたのが八重だと判明すると、夫の大杉から離縁されるかも知れないのだ。
どんな事があっても、八重様を守ると清吉は心の中で固く誓っていた。
清吉の想いを知らない八重だが、清吉が自分を庇ってくれている事は察し、深く感謝していた。
清吉は続けた。
「私は、偶然にも今回の騒動を目にし、藤丸様の御懸念をようやく分かったのでございます。そこで、私は昔に行商人をしていた頃、団子屋の女主人・おときと縁があったのを思いだし、おときに近づき、この藩の事をあれやこれやと聞き、藤千代様が近く御老中の姫様と御婚約の儀が整う事を知りました。そして、御殿様が、突然御隠居遊ばされる事も知り、この機に加藤様が松千代様を跡取りにすべく動くと察し、更に藤千代様の墓参の折、御家老様の御子息、御内儀に近づきました。この守り刀をご覧に入れ、藤丸様のお話を致し、私の話を信じて頂きました。そして、藤千代様の列に加わるお許しを頂き、先日の刺客から、藤千代様をお守りし、ようやく藤千代様の御尊顔を拝謁することが叶いました。之までの経緯をお話し致しました。藤千代様は、私の話を信じて下さいました。本日、御殿様に取り成して頂き、この仕儀と相成りました。」
「そういうことだ。大杉。予の言った事、分かったか。」
ようやく奥の部屋から解放された藤千代が大広間に戻ってきた。
清吉は、守り刀を元の場所に戻し、上段から降りて御辞儀をした。
大杉と八重は座を直すと、藤千代に深々と御辞儀をした。
藩主も恐る恐る大広間へ戻ってきた。
「では、加藤の家を取り潰しは無しじゃな。藤丸は穏便に事を収めたい意向じゃ。父である予も同じ思いじゃ。三男に跡を継がせよ。これで一件落着じゃ。」
「いえ、父上、まだ終わっておりませぬ。兄上の件がございます。」
藤千代が父を制した。
大杉は「もやはこれまで。」と頭を上げ、全てを告白しようと決意した。
「何卒、その儀は。藤丸様はお苦しみの上、全てお許しになられるお気持ちでございます。その証に、私を使わされたのでございます。藤千代様もお苦しみでございましょうが、何卒平に御容赦下さいませ」
清吉は深々と頭を下げた。
藤千代の顔は赤くなり、大杉を激しく睨み、体がわらわらと震えた。
大杉は、藤千代の顔を直視した。
「御殿様、これまでの事は、全て藩の為に行ったものでございます。決して、私利私欲ではございません。藤丸様の一件の責めは、全て私一人のものでございます。これが最後の御奉公でございます。」
大杉は裃を脱ぎ、切腹をしようとした。
八重も夫の意を悟り、懐剣を取り出し、夫と共に自害すると覚悟を決めた。
清吉は二人を止めようとした。
すると、大杉の胸が激しく痛み出し、体が硬直し、脇差しに手を掛けることが出来なくなった。
そのまま、バタンと大きな音を立てて倒れてしまった。
八重と近正は急いで夫の側へ駆け寄った。
藩士達は、突然の出来事に唖然とした。
「藤丸が大杉を止めたのじゃ!切腹は相成らん。命令じゃ!誰か薬師を呼べ!」
藩主の一声に、藩士達は急いで立ち上がった。
大広間は、再び混乱に陥った。
直ぐに薬師が飛んできて、大杉の脈を取った。
藩主、藤千代、八重、近正、そして藩士達は、薬師の動きに注目していた。
その最中、清吉はそっと皆の前から姿を消した。