前回 目次 登場人物 あらすじ
デイビットは、フォレスターに乗り、夜中の道を走らせた。
アパートでは、コリンは一人になったのも気付かずにスヤスヤと眠っていた。

やがて、デイビットは車を警察署の駐車場に止めると、署内へ入っていった。

突然の来訪に夜勤の警官が驚いていたが、デイビットは無視して、射撃場へ向かった。
警察の捜査に協力しているので、署内の施設を利用する事が出来た。

デイビットは的に弾を撃ち込む事で、昨日から蓄積されたストレスを発散させようとしていた。
早速、耳当てとメガネを装着すると、ガンホルダーからH&K USPを取り出し、射撃を開始した。

デイビットは、容赦なくコリンを傷つける秘密結社に対して激しい怒りを抱き、的にぶつけた。

そして、上半身とはいえ、コリンの艶やかな裸の写真を見た捜査関係者達への嫉妬心も湧き起こり、更に引き金を強くひいた。
弾倉が尽きるまで撃ち、直ぐに新しい弾倉に取り替えると、再びそれが尽きるまで延々と打ち続けた。
的は穴だらけになった。

ズボンのポケットに入れたスマートフォンが揺れた。
マナーモードが作動したのだ。

「もう明け方か。誰からだ」

「デイビット、朝早くに済まん。緊急の連絡があるのだ」
相手はブライアンであった。

「これからシアトルへ飛んで、誰があの写真を秘密結社に渡したのか、調べてくる。持ち主であるシアトルの金持ちは、薬物過剰摂取で10年前に死んだ。奴の遺産は幾つかの基金へ分与され、屋敷は従姉妹が相続しているのだ。彼女にあの写真について尋ね、そこから秘密結社への手かがりを探ってくる。FBIには、秘密結社の動きを探るため、ワシントン州の裏社会の人間と会うと伝えた。お前も話を合わせてくれ。」

「分かった。ブライアン、頼んだぞ。しかし、懸念がある。金持ちの従姉妹とやらが、コリンの写真の事を正直に話してくれるだろうか」

「調べた範囲では、金持ちの従姉妹、メイと言うのだが、品の良い婦人との評判だ。それに、メイのもとで働いている家政婦長・ローズが、昔は金持ちのもとでメイドとして働いていたので、私と面識があるのだ。ローズにメールを出したら、今朝早くに彼女からの返信が届いた。私のことをよく覚えていてくれた。会う約束を取り付けた。彼女達に聞けば、あの写真の出所が詳細に分かるだろう。所でコリンはどうしている?」

「アパートでまだ寝ている。昨日の事でかなり疲れている」

「そうだろう・・・。というと、デイビットは何処にいるのだ?」

「署だ。寝付けないので、射撃場で汗を流している」

「気分転換になったか?」

「できない。怒りを抑えようとしても、どうしても湧いてくるのだ」

一瞬の沈黙が流れた。

「出発まで時間がある。署へ寄るよ」

デイビットはスマートフォンをズボンのポケットにしまうと、
H&K USPを再び手にした。

ブライアンが愛車・
ベンツS HYBRIDを署の駐車場に止めた時、見覚えのある20年前の型のシルバーのホンダ・アコードが近くに停まっていた。

「マックスがいるのか」
ブライアンは驚いた。
何故なら、朝の会議までかなり時間があるからだ。

ブライアンは気に掛けながらも、署へ入るとそのまま射撃場へ向かった。

射撃場のドアを開けたブライアンが目にしたのは、黙々と的に弾を打ち付けているデイビットであった。

気配を感じ、デイビットは射撃を止め、H&K USPをガンホルダーに仕舞うと、耳当てを取った。
デイビットの顔色は悪く、目の下には隈が出来ていたが、ブライアンを見るとニヤリと笑った。

「昨日の事があったのに、随分さっぱりしているな。やはり、この週末は女と過ごしていたか」

「ばれたか。先週の金曜、突然来たのだ。断り切れず、お前達に嘘を言ってしまった。済まん」

「コリンが金曜の夜に、お前が着替えて空港へ向かっていたのを見て、気付いていた。コリンはお前に女が出来たことを喜んでいたぞ」

「いつか、埋め合わせをしないとな」

「必ず、写真の出所を見付け出してくれ。それが埋め合わせだ」

ブライアンは大きく頷いた。

ふいに、マックスが射撃場に現れ、二人を驚かせた。

「やあ、おはよう。二人揃って、随分と朝早くに来たのか。何かあったのか。警官が驚いていたよ」

「唯の気分転換だ。マックスもどうして朝早くにいるのだ?」
ブライアンは逆に問うた。

「書類をまとめる為に早めにきたんだ。家で作業は出来ないからね。FBIは、警察から情報が漏れるのを恐れて、自宅のパソコンから警察のネットワークへ入るのを禁止しているのだよ。不便だけど、こればかりはしょうがないね。私は殺人課のオフィスにいるから、何か手助が必要ならば、声を掛けてくれ」

マックスが射撃場を出ようとした時、ブライアンが止めた。
「頼みがある。ちょっとの時間でいい、口入れ屋に会わせてくれ」

マックスは二人に向き直った。
「事情聴取はFBIが単独で行っているから、無理だよ。騒動を起こして、出入り禁止になったら、君達が困るだろ」

「そこまでしない。あくまで、話をしたいだけだ」

「コリンの写真について聞きたいのかい?」

昨日の出来事は、マックスもよく知っている。

秘密結社が潜んでいた邸宅を探索していたFBIと警察は、爆弾が収められている箱を見付け、爆発物を処理した。
その時に、爆弾の隣に置かれていた封筒を捜査関係者が見付け、開けた。
すると、中に14歳だったコリンの写真が入っていて、それを見た捜査関係者は驚嘆した。
コリンは咄嗟に「16の時のもの」と誤魔化したものの、濃厚な色気を放ったコリンの上半身をとらえた写真は、FBIと
警察署内でも大きな話題となっている。

マックスも写真を見て驚き、捜査を撹乱させる為なら手段を選ばない秘密結社に怒りを覚えていた。
その為、コリンを弟の様に可愛がっているブライアンの心情を察していた。

「それもあるが、私は先日、奴がシアトルで裏社会の大物と接触したという情報を手に入れたのだ。これからシアトルへ飛んで、奴の行動を調べに行ってくる。この事はFBIの了承を取り付けている。出発前に奴と接触して、情報を引き出したいのだ」

ブライアンは、本心ではコリンの写真の出所を口入れ屋から吐かせるつもりであった。
しかし、マックスにその事を話したら、コリンの過去を気付かれてしまう恐れがあったので、あえて裏社会に絞って話した。

「奴は全米中を動き回っているのか・・・。君の言う通り、写真よりも、先にそっちから調べないといけないな」

マックスはブライアンの話に理解を示した。

「短い時間なら良いだろ。FBIにばれても、私が取り繕うから、遠慮はいらない」

温厚な性格のマックスにしては、思わぬ言葉が出た。
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