前回 目次 登場人物 あらすじ
秘密結社が潜伏している可能性が高い邸宅へ忍び込む事に、ようやくジュリアンが納得した。
一人では無理なので、ブライアンが捕まえた赤毛の泥棒と一緒ならばとの条件付きであった。


直ぐさまブライアンは奔走した。

一番にデイビットとコリンに連絡し、デイビットにある頼み事をした。
次に、フォルスト捜査官と話し合った。
彼は意外と乗り気であった。

「口入れ屋の友を利用するのか。奴は全てを自供して、我々に協力的だ。ジュリアンが一緒なら裏切る事はないだろう。彼の事は、担当検事に司法取引が出来るか、話してみる。恐らく、通るだろう」

フォルスト捜査官は、ブライアンの目の前で担当検事に電話をしてくれて、彼の許可を取ってくれた。
急いで、ブライアンは泥棒の弁護士を通して、泥棒の協力を求めた。

「不起訴にしてくれるのは有り難いが、忍び先は秘密結社の連中が住む家だろ?撃たれたらどうするんだよ。ジュリアンは守ってくれるのか?たった2人の男が、大勢と戦える訳がないじゃないか」

「それは心配ない。防弾チョッキは支給する。もしも何かあったら、直ぐに屋外に出ろ。上空から、優秀なスパイナーが守ってくれる」

ブライアンは、元スパイナーのデイビットに、忍び込む二人の警護を依頼したのだ。
デイビットは快諾した。

赤毛の泥棒も、警護が付くことやジュリアンと一緒に潜入するので、ブライアンの依頼を受ける事にした。

準備が着々と進んだ。
秘密結社に情報が漏れないように、今回はFBIや警察以外の人間が中心となって計画を遂行する事になった。

「コリンには重大な役目をして貰う。二人を車で邸宅まで運んでくれ。そして、外で待機してくれ。何か起きたら、地上から二人を守ってくれ。場所が高級住宅地だから、多くのパトカーが止まっていると周囲に怪しまれる。現場から離れたところでしか待機出来ない。その代わり、ヘリに乗ったデイビットがライフルで、空から君達を援護する」

ブライアンが立てた計画に、コリンは目を輝かせ、胸を叩いた。

「任せてくれ。二人は俺達が守るから」

それから数日間、皆で極秘に準備が行われた。


決行の夜になった。

警察内部に潜む秘密結社のメンバーに気付かれないように、この計画に携わる者達は、ブライアンが宿泊している高級ホテルの部屋に集まった。

コリンはFBIから支給されたバンを運転し、目的の秘密結社が借りていると疑いのある邸宅の近くの路地へ止めた。
高級住宅地なので、辺りは静かであった。

後ろの座席には、完全装備したジュリアンと赤毛の泥棒が座っていて、周辺を見渡していた。

「玄関の近くで良いのか?」

コリンは、二人が塀を乗り越えて侵入するものと思っていた。
しかし、彼らは玄関から忍び込むと言う。

「ええ、私の体型だと、5メートルもある塀を登るのも困難だし、登った後、降りる時にうっかりして足を挫いてしまうんだよ。運良く、この邸宅の管理している不動産会社のオーナーは私の知人です。彼に頼んで、セキュリティを明け方まで切って貰っているので、玄関から侵入しても非常ベルは鳴らないんだ」

ジュリアンは太鼓腹をさすった。

「俺達を警護してくれるスパイナーは何処だ?見当たらないぞ」
後部座席に座っている赤毛の泥棒が、窓越しに辺りを見渡した。

「上だよ」
隣に座っているジュリアンは、窓の斜め上を指した。

上空に、観光ヘリに扮したFBIの覆面ヘリが周囲を旋回していた。
デイビットが機体に腰掛けてスキッド(着陸脚)に脚を付け、米軍が採用している狙撃銃
M24 SWSを構えていた。

「あんなに離れた空から、俺達を警護するのか?」
赤毛の泥棒は不安を口にした。

「心配無用だ。彼は一流の腕を持つ。私が保証する。さて、時間になった。行こう」

腕時計を見たジュリアンは、赤毛の泥棒を促した。
彼はジュリアンの言葉を信用しようと腹を括り、「分かった」と肯いた。

二人は車からスッと出て、邸宅の正門まで身を屈めながら無音で小走りした。

正門は電子ロックで閉められていたが、セキュリティを解除した今は、赤毛の泥棒が少し押しただけで、動いた。
音を立てないように、ゆっくりと門を人が通れるスペースまで開けると、赤毛の泥棒とジュリアンはサッと敷地内へ入っていった。

周囲は暗闇だが、二人は設計図を熟読していたので、迷うこと無く、足早に邸宅の前の壁に張り付く事が出来た。

「変だ。人の気配が全くしない」
赤毛の泥棒が、小声でジュリアンに言った。

ジュリアンも同感であった。
「おかしい。この邸宅には10名以上の殺し屋達がいる筈なのに。私の部下がずっとここを見張っていて、口入れ屋以外の人間が出入りしているところを見ていないんだ」

「おたくの見張りが休んでいる隙に、連中はどっかに行ったんじゃないのか?」

「まさか。部下達は交代で見張っていたんだ。兎に角、私がこの邸宅を一回りしてみる」

ジュリアンは邸宅を壁伝いに回った。
夜なので、全ての窓は厚いカーテンが閉められ、その僅かな隙間から微かに明かりが漏れていた。

『見張りも、夜になると電気が付くと報告しているし、電気メーターだって回っている。だが、変だ』

この邸宅からは、人の気配が全くしないのだ。
そして、大人数が住んでいるのにも関わらず、テレビや音楽の音が一切漏れないのだ。

『いくら夜遅くと言っても、一人くらいは起きている筈だ』

ジュリアンは玄関口で待っている泥棒のもとへ戻った。

「どうだった?」

「どうしてだが分からんが、人がいない」

「やはり。じゃあ、帰るか」

「馬鹿を言うな。中に入るぞ。鍵を開けろ」

渋る泥棒をけしかけ、ジュリアンは大胆にも玄関から侵入しようとした。
泥棒は、防弾チョッキのポケットから、道具を取り出すと、音を立てないように鍵穴へ道具を差し込み、ゆっくりと動かした。
すると、玄関の鍵が開いた。

ジュリアンは先頭に立ち、玄関のドアを開け、コインを1枚投げた。
コインが玄関の床に落ちる音だけが響いた。

「罠は仕掛けられていない。よしっ!入るぞ」

ジュリアンは素早く玄関の中へ入った。
電気は付いていて明るかったが、中は前に置かれていた家具以外何も無く、ガランとしていた。

「トラップは仕掛けていないし、誰もいないし、何だこの屋敷は」
後ろから入ってきた泥棒は、驚きを隠せなかった。

深い溜め息をついたジュリアンは辺りを確認した。
「私達の裏をかいて、逃げたか」

「おい、あれを見ろよ」
泥棒の指さす方向を見た。

玄関の奥で、大きな箱からチクタクと時計の針が進む音が聞こえていた。


ジュリアン達の連絡で、直ぐさまFBIがやって来た。
主任のフォルスト捜査官は爆発物処理班を呼び、大きな箱の調査を命じた。

爆発物処理班は、その箱を外で待機させていた特殊装備されたトラックに運ぶと、エックス線で覗いた。
アナログ式の時計と火薬の間をつなぐ数本の導線、そして1枚の葉書サイズの封筒が収められていた。
火薬の量からして、周辺4~50センチいる人間を軽度の火傷を負わせる位であった。

「この屋敷を爆破させる気じゃないのか」
爆発物処理班は、疑問に感じた。
通常の犯罪者だと、捜索しにきた警察を吹き飛ばす為、もっと多くの量の火薬を使うのである。

「細かいことは、FBIの支部に運んで捜査します」
そう言って、爆発物処理班はトラックに乗り、現場を後にした。

FBI捜査官達はくまなく邸宅の部屋を見て回った。
出て行くときに、念入りに掃除をした為か、物証は殆ど無く、髪の毛が数本採取されただけであった。

「してやられたか」
フォルスト捜査官は、自身の慎重さを責めた。

ジュリアン、赤毛の泥棒、そしてコリンは、FBI捜査官と共に、邸宅の庭を調べ回った。
広い庭は、いくつか地面をほじくり返した跡があった。
コリン達がその一つを掘ると、中から弾が出てきた。

「これは、ライフルの弾だ。恐らく、SIG 553だ」
弾を目にしたコリンが推測した。

「やはり、秘密結社は襲撃の為に、大量のSIG 553を購入したんだな。奴等は何処からここを出たんだ?」
ジュリアンは流石に頭を抱えた。

「おい、こっちにも掘られていた跡があるぞ」
泥棒が二人に声を掛けた。

ジュリアンとコリンは、そこへ駆け寄った。
「庭の真ん中に穴を掘って埋めたのか。何故だ?」

「掘ってみよう」
3人は掘り返した。
すると、小型のマンホールが出てきた。

「下水管だ」
泥棒の一言で、コリンとジュリアンは顔を見合わせた。

「そうか!下水管を通って、この邸宅から逃げたのか!」

コリン達は、近くで捜査していたFBI捜査官に声を掛け、秘密結社が下水管から逃走した事を告げた。
部下の捜査官から、この事を聞いたフォルスト捜査官は、下水管の捜査を始め、警察へ応援を要請し、市役所にも連絡してこの一帯の下水管の見取り図を取り寄せた。

隣のトーマス・サンダー邸と接する壁側は花壇になっており、FBIとコリン達は怪しいとは思わず、見過ごしてしまった。


FBIのフロリダ支所の爆発物処理室へと運ばれた箱は、念入りに調べられ、中に仕掛けられている爆弾を解除する作業が始められた。

箱の中から封筒を取り出すと、爆弾を窒素で冷却し、火薬に差し込まれた導線をゆっくりと切断した。
これで爆発する事はなくなった。

封筒は厳重に封をされ、FBIの鑑識課に回された。

細菌が付いてないか念入りに検査をした。
結果は、細菌は付いて無く、指紋やDNAも検出されなかった。

封筒は封はされていなく、中は裏返しに入れられた印画紙が1枚入っていた。
印画紙もくまなくチェックしたが、人体を害するものは付いていなかった。
やはり、そこも指紋やDNAは付着していなかった。

職員は手袋をし、ピンセットで慎重に封筒を開け、中に入っていた印画紙をゆっくりと取り出すことにした。
封から取り出して、印画紙の裏を返し、表を見た。

「オ、オー・マイ・ゴット!!」

印画紙に現像されたカラー写真を見た、鑑識課職員は思わず驚嘆の声を上げた。

周りの職員達は慌てて、叫んだ職員のほうへ走った。
ある職員は声をあげて驚き、ある者は無言で体をわなわなと震わせていた。
続き