前回 目次 登場人物 あらすじ
フォルスト捜査官率いるFBI捜査官達とブライアンを乗せた飛行機が、ようやくバーモント州にある空港に着いた。
そこから、口入れ屋が潜伏している山小屋まで、20分の距離であった。
山の近くのせいだろうか、真夏のマイアミから来た者達には、夜風がひんやりと感じた。

地元警察からの報告では、口入れ屋は山小屋を警察が到着する寸前に抜けだし、車で逃走しているという。
警察はヘリを飛ばしたり、近辺の道路を閉鎖して、口入れ屋の行方を追っている。

フォルスト捜査官は空港で待機していたヘリに乗り換え、上空からFBI捜査官達と警官達を指示する事にし、ブライアンはパトカーに乗り、道路から彼を探す事になった。

当たりは森林に覆われていて、夜の時間帯でもあり、道路以外は闇に包まれていた。
道路が閉鎖されたこともあり、パトカーは猛スピードで道路を走っていた。
助手席から、ブライアンは人影を探した。

「登山道の入口の駐車場に止まっている車が、口入れ屋のものと判明した。奴は山の中に潜伏している可能性がある。パトカーは至急、現場へ向ってくれ」

警察無線がパトカーの中に響いた。

「遅い。どうしてもっと早く車を見付けられなかった。駐車場にあったんだぞ」

「仕方ありません。登山者用の駐車場は、山小屋利用者専用の駐車場から離れた場所にあります。それに、夏のシーズンは、多くの人間があの山に登りますし、登山者用の駐車場の街灯は2台しかありません。この時間では、何十台の車が止まっていると、一台一台確認するのが大変なんです」

ブライアンが無線に悪態をついたらば、運転している警官が事情を説明した。

「私達も早速、駐車場へ向かいましょう」

「現場へは向かうが、我々は駐車場の手前を捜索する」

「ブライアン、聞こえるか。君は警官と共に、駐車場の周辺を探してくれ。奴は車を捨てて、徒歩で山に登っているかもしれんが、我々を騙して、近くの森の中に潜んでいるかも知れん」

無線の主は、フォルスト捜査官であった。

ブライアンは無線のマイクを取った。
「たった今考えていた所だ。お前さんとは気が合うようだ」


駐車場に近づくと、ブライアンは警官にライトを消すように頼んだ。
そして、パトカーを止めさせ、警官用のジャンバーを借り、暗闇が広がる森を見渡した。

風がブライアンと警官に向かって吹いてきて、野生動物の声が遠くから聞こえてきた。
その中で、ブライアンは人の気配を感じ取った。
警官が持っていた懐中電灯を付けようとしたが、止めさせた。

「これでは何も見えませんし、もし遭難したらどうしますか」

警官は不満そうだった。

「心配には及ばん。私は夜でも目が利く。私だけ森の中に入る。君はここに留まり、怪しい動く影を見付けたらば、その懐中電灯で照らしてくれ。私が飛んで行く。決して撃つなよ」

「承知しました」

警官用のジャンパーは、後ろに印刷されている『警察』の文字が月夜の明かりでも蛍光色に光る仕組みとなっていた。
森の外で待機している警官から、その文字がはっきりと見え、ブライアンと怪しい動く影の区別がついた。

ブライアンの行く先に、動く影を見付け、警官は懐中電灯でその場所を照らした。
だが、そこにはライトで驚いた野ウサギが、慌てて後方の岩陰へ逃げていった姿が見えた。

「何だ。ウサギか」
警官は一瞬力が抜け、懐中電灯のライトを消した。

ブライアンはわずかな時間照らされた光の奥に、森の住人とは別の影を見付けていた。
口入れ屋が大きな岩の後ろで、屈んでいたのだ。

ブライアンは何も悟っていない振りをして、その岩を素通りした。
少し歩くと、警察のジャンパーを脱ぎ、裏返しにして、直ぐ近くの木へ隠れた。

『おっ、姿が見えなくなった。大分奥へ行ったな。ふぅー、これでもう安心だ。そろそろ移動しなければ』

岩陰からブライアンが素通りし、警察のジャンパーが見えなくなったのたので、口入れ屋はブライアンが大分奥へ歩いて行ったと錯覚した。
静かに立ち上がり、岩陰から離れて移動しようとした時、後頭部に硬いものが触れた。
FN ブローニング・ハイパワーの銃口であった。

「両手をゆっくりと上げろ」
ブライアンが口入れ屋の後ろに立っていた。

口入れ屋はギョッとした。
いわれるがままに、ゆっくりと手を上げた。
突然、目の前が眩しくなり、口入れ屋は目を閉じてしまった。
道路脇で見張っていた警官が、懐中電灯を照らしたのだ。

「直ぐにFBIに連絡してくれ。奴が見付かったと」

警官は、急いでパトカーの無線で捜査関係者に、容疑者が確保されたと伝えた。

ブライアンは拳銃を持たない片方の手で、口入れ屋をボディチェックをした。
すると、上着のポケットからリボルバー式拳銃が出てきた。

上空から強いライトが差した。
フォルストを乗せたヘリがやって来たのだ。

「よくやったぞ。ブライアン」

マイクで讃えるフォルストに、ブライアンは大声で毒突いた。
「先ずは礼を言え。褒められるいわれは無い。私はお前さんの部下じゃないのだ」

それから間もなくして、FBIと地元警察の車両がやって来た。
ブライアンは口入れ屋を彼らに引き渡した。

======

「口入れ屋が捕まった。アイツ、折角ブライアンが山小屋の事を突き止めたって伝えたのに、直ぐに捕まりやがって」
マイアミの警官から一報を受けたシェインが、ミーシャに伝えた。

「こちらも急いで移動すべきか?」

「動かない方がベストだ。口入れ屋は何度も捕まっているから、サツの手の内は知り尽くしている。奴は裏社会を生き抜いているプロだ。大金を与えているし、俺達の事を吐いたりしない」

「だと良いが」

「警察内には、秘密結社の仲間がいるんだ。それに、FBI捜査官の中にも俺達の仲間がいるじゃないか。もしも、あの野郎が何か喋ったら、直ちにこっちへ伝えてくれる。そうしたら、俺がちゃんと手を打つ。そんなに心配するな」

シェインは、ミーシャを安心させるかのように肩に手を回した。

「しかし、武器の調達から日常品の調達までアイツに頼っていた。アイツが逮捕された今、こちらが表に出ないといけなくなるな」

======

逮捕された口入れ屋は、FBIのチャーター機に乗せられて、マイアミへの帰路についた。

機内で、捜査官達による事情聴取が始まったが、口入れ屋は追求にのらりくらりかわし、「弁護士を呼べ」と言ったきり、黙秘権を行使し始めた。

『案の定だ。奴はそう簡単には口を割らん』
側で見ていたブライアンは、彼の自供を促すには何か取引をしなければと思った。

資料を見たところ、前科があるが、取引材料になりそうなものは見当たらなかったので、改めて彼の事を洗い出さなければならなかった。

「君が、このまま我々に非協力的なら、妹さんとその家族にも事情聴取をしなければならなくなるぞ」
若いFBI捜査官が、口入れ屋に詰め寄った。

「別に構わんさ。たっぷりとやってくれ。俺は、妹に復讐をしたかったんだ。5年前、亡くなったお袋が入院した時、俺が随分と金銭面で援助したんだ。なのに、妹の野郎は、『見舞いに殆ど訪れなかった』って、葬式の時に親戚中に俺の悪口を風潮しやがったんだ。そのせいで、俺は親戚の嫌われ者になったんだぞ。丁度良かったぜ。狭い部屋で長時間尋問してくれ。妹には怖い思いをさせてやる」

口入れ屋はせせら笑った。

主任のフォルスト捜査官は、若手を下がらせた。
「外堀を埋めるやり方は、奴には効かない。もう時間も遅い。この続きは、明日の朝からだ」

『こりゃ、落とすまで時間が掛かるな』
ブライアンは心の中で舌打ちをした。


マイアミの空港に飛行機が到着し、車に乗り換えた一同は、一路警察署へ向かった。
警察署では、コリンとデイビットが待っていた。

「今日の事情聴取は終わったぞ。明日も引き続き、我々が行う。君達はニックとロボの捜索に当たってくれ。以上だ」
フォルスト捜査官は挨拶もそこそこに、二人に指示を出した。

「俺達は捜査協力者であって、あんたの手下じゃない。命令するな」
コリンはフォルスト捜査官に反抗したが、彼は無視して、署の奥へと入ってしまった。

「コリン、あの野郎の言葉にそうカッカッとするな。俺達が成果を出して、あの野郎を屈服させよう」
デイビットも内心は腹が立ったものの表に出さず、コリンを優しく諭した。

「本当にあの野郎は人を怒らせる名人だ」
二人のもとへやって来たブライアンが呆れた様に言った。

やがて、複数の警官達に囲まれて、手錠を掛けられた口入れ屋が警察署へ入ってきた。

コリンを見かけた口入れ屋は、にやけた笑みを浮かべ、ウィンクをした。

コリンは睨み返した。
その横で、デイビットも殺気のある鋭い視線を返した。

「おいっ!何している!」
警官が口入れ屋に注意し、拘置所へ連行した。

「何、アイツ。気持ち悪い」
コリンが嫌な顔をした。

「唯の嫌がらせだ。気にするな、コリン。さあ、明日から気分も新たに、気合いを入れて捜査に当たろう」
ブライアンはコリンを励ました。

この時三人はまだ、秘密結社が卑劣な罠を仕掛けている事を知る由もなかった。
続き