前回 、目次 、登場人物 、あらすじ
それから3日後の夕方、コリンとデイビットは、イサオを見舞っていた。
イサオの側には、仕事へ行っているサラと交代で、猛が付いていた。
「ニックとかいう元刑事が今回の事件に関与しているのか。」
猛が2人に質問した。
「未だ分かりません。彼が秘密結社にいた確率はかなり高いのですが、彼が事件に関与していたのかは不明です。奴を尾行しているFBIによれば、奴はニックというよりは、今年初めに小型拳銃を買った男を捜しているようです。奴にとっては、ニックは疑惑の一人に過ぎないようです。」
コリンは答えた。
「そうすると、口入れ屋もイサオを撃った犯人を捜しているということか。」
猛が険しい顔付きで言った。
イサオも真剣な顔付きで、父の言葉に耳を傾けていた。
「秘密結社の依頼で動いているのでしょう。」
デイビットが話した時、病室のドアからノック音がした。
「今日の具合はどうだ?」
ブライアンが病室に入ってきた。
ブライアンは、今日得た情報を伝えに来たのだ。
「ジュリアンの部下からの情報だと、口入れ屋は街中を回っていて、フランス人が借りている邸宅には行っていない。かれこれ1週間を超えた。邸宅も静かだ。以前の様に、大勢の声も聞こえてこない。そこで、私の提案で、空にヘリを飛ばして貰い、上空から邸宅を覗いた。庭は綺麗に掃除されていた。綺麗過ぎたので、殺し屋達が証拠隠滅の為にやったに違いない。恐らく、連中は室内でトレーニングを積んでいると思う。これらのことは、一応FBIには報告しているのだが、具体的な証拠が一切無いので、動けない。彼らは私達の動きを見守っている状態だ。」
「君の同僚のジョンとかいう調査員からの連絡はありますか?確か、事件の現場を回り、関係者とも会っていたと聞きます。何か新しい情報は入っていると期待しているのですが。」
猛が尋ねた。
「まだありません。彼は、事件現場を周り、関係者と会いましたが、これといって新しい発見は無かったと残念そうに言っていました。今は、事件の鍵を握る殺し屋アルフレッド・ハンの痕跡を探りに、ジュリアンの知人で、ベトナム系アメリカ人の情報屋に会うために、この街を出ています。」
「あれ?ジュリアンの部下や知人の話は出るけど、本人からの連絡は?」
コリンは、不思議に感じた。
「昨夜、この事件の他に、大変な事に巻き込まれていていて困っていると連絡があったきりだ。」
ブライアンはフーッと長く息を吐いた。
「どんなこと?」
「何でも屋の店主夫人が離婚訴訟を起こした事だ。店主の浮気が原因だ。」
皆、驚いた。
「やっぱり、店長は浮気をしていたのか。ジュリアンが心配していた通りになってしまったね。」
コリンは、何でも屋を訪ねた時に、店主夫婦を見たことがあった。
『仲の良い夫婦だな』と思っていたので、意外な展開に残念に思った。
「店主のカミさんと言っても、実は創業者の娘で、店のオーナーなんだ。彼女は、店主が浮気相手と会っている隙に、店と家を極秘に移してしまった。帰る場所を失った店主に、更に悪いこと重なった。店主は浮気相手に、マフィアのボスの名前を騙っていたのだが、流石にカミさんはその事は伏せていたものの、とうとうマフィアにばれてしまい、慌てた店主は雲隠れしてしまった。彼と長年の友人でもあるジュリアンは、彼を救うべく、彼の行方を捜したり、マフィアの怒りを静める為に、街中を奔走する羽目となっている。」
「この大変な時に、なんてことをしてくれたんだ。」
コリンは怒った。
「じゃあ、何でも屋の店主が大量に小型拳銃用の弾を買ったのは、転売目的じゃなく、本当に護身用の為だったのか。」
デイビットの言葉に、ブライアンは苦笑いしながら答えた。
「ジュリアンの話からすると、別の理由からだそうだ。店主は、浮気相手に自分がいかに大物かと思わせる為に、しばしば射撃場で銃の腕前を披露していたらしい。浮気相手は、カルフォルニア州に住む女子大学生で、裏社会のことは全く知らないから、店主の言動にすっかり騙されていたそうだ。」
「そんな馬鹿らしい理由だったのか。」
デイビットは呆れ、猛は苦笑いした。
「女性の気を引くために、弾を大量に買ったのか。僕の想像を超えるよ。」
ベットに腰を掛けていたイサオは、腹に手を当てて笑った。
コリンは、笑うイサオを見た。
笑顔と共に安堵の色が混じっていた。
『今年の初めに大量に買われた弾が、自分に向けられていたのでは無い事が分かってホッとしているんだな。』
コリンはそう思った。
=====
ニックはこの日は休日の為、トレーラーハウスでロボと寛いでいた。
1台のホンダ・アコードツアラーが、トレーラーハウスの前で止まった。
運転席から山本が降りてきた。
訪問者を確認したニックは、ドアを開けた。
「又、突然に来たな。まあいい、入れ。それにしも、珍しいな。バイクじゃなく、車で来たのか。」
今日は珍しく、ロボは山本に近寄らず、ニックの側で尻尾を振るだけだった。
それでも、山本はロボに笑顔を見せ、自分から近づき、頭を撫でた。
「ああ、今日は友達も連れて来たからね。」
そう言うと、山本は息も吐かせぬ早業で、ニックの右手を後ろに捻り、床に倒した。
ニックは抵抗して、左手でワルサーPPKを取り出そうとしたものの、山本に瞬時に左手を叩かれてしまい、銃は遠くへ弾かれてしまった。
側で見ていたロボは、2人が遊んでいると思い、微笑ましいそうに見詰めていた。
車からシェイン、ミーシャ、そしてルドルフが降りてきて、トレーラーハウスの中へ入った。
「よう、ニック。」
シェインがワルサーPPKを拾いながら、床に伏せられているニックに声を掛けた。
「なんだこれは!仲間に対してこの仕打ちは無いだろ!」
ニックは、シェインに向かって怒鳴った。
「仲間だと?!この裏切り者!お前のしたことはとっくにお見通しだ!!」
シェインはニックを睨み付けた。
「この野郎!ジョー!お前、シェインとグルになったか!金は払っただろ!」
ニックはジョーに悪態を付いた。
「シェインの方が、金を多く払ってくれたからね。」
片膝でニックの背中を押し、両手に手錠を掛けながら、ジョーこと山本は平然と答えた。
「この銭ゲバ野郎!!」
ロボはシェイン達が入ってきて、ようやく事態を飲み込み、主人を守るべく、手をひっかいたり、吠え始めた。
それを見たルドルフは、ロボを山本から引き離した。
「ニックの車に乗せてやれ。俺達の車じゃ、余計に興奮してしまう。」
シェインが台所の脇に置かれた車の鍵を、ルドルフに渡した。
17年前にニックが秘密結社に入った時から、お互いの家を行き来していたので、シェインはニックが鍵を置く場所を把握しているのだ。
子供の頃から犬を飼っていたルドルフは犬の扱いに長けている。
ロボを抱え、ニックの愛用車のジープ・グランドチェロキーZJの助手席のドアを開けると、素早く強引に乗せてしまった。
ロボは助手席から出ようともがいたが、ドアを開けることは出来なかった。
窓からロボはけたたましく吠えたが、ルドルフは無視して、再びトレーラーハウスに戻った。
「こんなことをやって、ばれないと思うのか!ロボの鳴き声で、俺を監視している警官が飛んでくるぞ!」
ニックはシェインに向かって叫んだ。
「お生憎様。今の監視の警官は俺達の仲間なんだ。」
「くそったれめ!」
ニックは観念した様子で、抵抗を止めた。
シェインは、ニックを上から抑えている山本に目配せをした。
山本はニックを立たせると、側にあった椅子に座らせた。
シェインとルドルフはニックを睨み付けた。
ニックも睨み返しながら、乱れた息を整えようとしていた。
山本とミーシャは、シェイン達の側で、3人のやり取りを見ていた。
「ニック、お前に聞きたいことがある。」
シェインが銃口を向けながら、口を開いた。
続き
それから3日後の夕方、コリンとデイビットは、イサオを見舞っていた。
イサオの側には、仕事へ行っているサラと交代で、猛が付いていた。
「ニックとかいう元刑事が今回の事件に関与しているのか。」
猛が2人に質問した。
「未だ分かりません。彼が秘密結社にいた確率はかなり高いのですが、彼が事件に関与していたのかは不明です。奴を尾行しているFBIによれば、奴はニックというよりは、今年初めに小型拳銃を買った男を捜しているようです。奴にとっては、ニックは疑惑の一人に過ぎないようです。」
コリンは答えた。
「そうすると、口入れ屋もイサオを撃った犯人を捜しているということか。」
猛が険しい顔付きで言った。
イサオも真剣な顔付きで、父の言葉に耳を傾けていた。
「秘密結社の依頼で動いているのでしょう。」
デイビットが話した時、病室のドアからノック音がした。
「今日の具合はどうだ?」
ブライアンが病室に入ってきた。
ブライアンは、今日得た情報を伝えに来たのだ。
「ジュリアンの部下からの情報だと、口入れ屋は街中を回っていて、フランス人が借りている邸宅には行っていない。かれこれ1週間を超えた。邸宅も静かだ。以前の様に、大勢の声も聞こえてこない。そこで、私の提案で、空にヘリを飛ばして貰い、上空から邸宅を覗いた。庭は綺麗に掃除されていた。綺麗過ぎたので、殺し屋達が証拠隠滅の為にやったに違いない。恐らく、連中は室内でトレーニングを積んでいると思う。これらのことは、一応FBIには報告しているのだが、具体的な証拠が一切無いので、動けない。彼らは私達の動きを見守っている状態だ。」
「君の同僚のジョンとかいう調査員からの連絡はありますか?確か、事件の現場を回り、関係者とも会っていたと聞きます。何か新しい情報は入っていると期待しているのですが。」
猛が尋ねた。
「まだありません。彼は、事件現場を周り、関係者と会いましたが、これといって新しい発見は無かったと残念そうに言っていました。今は、事件の鍵を握る殺し屋アルフレッド・ハンの痕跡を探りに、ジュリアンの知人で、ベトナム系アメリカ人の情報屋に会うために、この街を出ています。」
「あれ?ジュリアンの部下や知人の話は出るけど、本人からの連絡は?」
コリンは、不思議に感じた。
「昨夜、この事件の他に、大変な事に巻き込まれていていて困っていると連絡があったきりだ。」
ブライアンはフーッと長く息を吐いた。
「どんなこと?」
「何でも屋の店主夫人が離婚訴訟を起こした事だ。店主の浮気が原因だ。」
皆、驚いた。
「やっぱり、店長は浮気をしていたのか。ジュリアンが心配していた通りになってしまったね。」
コリンは、何でも屋を訪ねた時に、店主夫婦を見たことがあった。
『仲の良い夫婦だな』と思っていたので、意外な展開に残念に思った。
「店主のカミさんと言っても、実は創業者の娘で、店のオーナーなんだ。彼女は、店主が浮気相手と会っている隙に、店と家を極秘に移してしまった。帰る場所を失った店主に、更に悪いこと重なった。店主は浮気相手に、マフィアのボスの名前を騙っていたのだが、流石にカミさんはその事は伏せていたものの、とうとうマフィアにばれてしまい、慌てた店主は雲隠れしてしまった。彼と長年の友人でもあるジュリアンは、彼を救うべく、彼の行方を捜したり、マフィアの怒りを静める為に、街中を奔走する羽目となっている。」
「この大変な時に、なんてことをしてくれたんだ。」
コリンは怒った。
「じゃあ、何でも屋の店主が大量に小型拳銃用の弾を買ったのは、転売目的じゃなく、本当に護身用の為だったのか。」
デイビットの言葉に、ブライアンは苦笑いしながら答えた。
「ジュリアンの話からすると、別の理由からだそうだ。店主は、浮気相手に自分がいかに大物かと思わせる為に、しばしば射撃場で銃の腕前を披露していたらしい。浮気相手は、カルフォルニア州に住む女子大学生で、裏社会のことは全く知らないから、店主の言動にすっかり騙されていたそうだ。」
「そんな馬鹿らしい理由だったのか。」
デイビットは呆れ、猛は苦笑いした。
「女性の気を引くために、弾を大量に買ったのか。僕の想像を超えるよ。」
ベットに腰を掛けていたイサオは、腹に手を当てて笑った。
コリンは、笑うイサオを見た。
笑顔と共に安堵の色が混じっていた。
『今年の初めに大量に買われた弾が、自分に向けられていたのでは無い事が分かってホッとしているんだな。』
コリンはそう思った。
=====
ニックはこの日は休日の為、トレーラーハウスでロボと寛いでいた。
1台のホンダ・アコードツアラーが、トレーラーハウスの前で止まった。
運転席から山本が降りてきた。
訪問者を確認したニックは、ドアを開けた。
「又、突然に来たな。まあいい、入れ。それにしも、珍しいな。バイクじゃなく、車で来たのか。」
今日は珍しく、ロボは山本に近寄らず、ニックの側で尻尾を振るだけだった。
それでも、山本はロボに笑顔を見せ、自分から近づき、頭を撫でた。
「ああ、今日は友達も連れて来たからね。」
そう言うと、山本は息も吐かせぬ早業で、ニックの右手を後ろに捻り、床に倒した。
ニックは抵抗して、左手でワルサーPPKを取り出そうとしたものの、山本に瞬時に左手を叩かれてしまい、銃は遠くへ弾かれてしまった。
側で見ていたロボは、2人が遊んでいると思い、微笑ましいそうに見詰めていた。
車からシェイン、ミーシャ、そしてルドルフが降りてきて、トレーラーハウスの中へ入った。
「よう、ニック。」
シェインがワルサーPPKを拾いながら、床に伏せられているニックに声を掛けた。
「なんだこれは!仲間に対してこの仕打ちは無いだろ!」
ニックは、シェインに向かって怒鳴った。
「仲間だと?!この裏切り者!お前のしたことはとっくにお見通しだ!!」
シェインはニックを睨み付けた。
「この野郎!ジョー!お前、シェインとグルになったか!金は払っただろ!」
ニックはジョーに悪態を付いた。
「シェインの方が、金を多く払ってくれたからね。」
片膝でニックの背中を押し、両手に手錠を掛けながら、ジョーこと山本は平然と答えた。
「この銭ゲバ野郎!!」
ロボはシェイン達が入ってきて、ようやく事態を飲み込み、主人を守るべく、手をひっかいたり、吠え始めた。
それを見たルドルフは、ロボを山本から引き離した。
「ニックの車に乗せてやれ。俺達の車じゃ、余計に興奮してしまう。」
シェインが台所の脇に置かれた車の鍵を、ルドルフに渡した。
17年前にニックが秘密結社に入った時から、お互いの家を行き来していたので、シェインはニックが鍵を置く場所を把握しているのだ。
子供の頃から犬を飼っていたルドルフは犬の扱いに長けている。
ロボを抱え、ニックの愛用車のジープ・グランドチェロキーZJの助手席のドアを開けると、素早く強引に乗せてしまった。
ロボは助手席から出ようともがいたが、ドアを開けることは出来なかった。
窓からロボはけたたましく吠えたが、ルドルフは無視して、再びトレーラーハウスに戻った。
「こんなことをやって、ばれないと思うのか!ロボの鳴き声で、俺を監視している警官が飛んでくるぞ!」
ニックはシェインに向かって叫んだ。
「お生憎様。今の監視の警官は俺達の仲間なんだ。」
「くそったれめ!」
ニックは観念した様子で、抵抗を止めた。
シェインは、ニックを上から抑えている山本に目配せをした。
山本はニックを立たせると、側にあった椅子に座らせた。
シェインとルドルフはニックを睨み付けた。
ニックも睨み返しながら、乱れた息を整えようとしていた。
山本とミーシャは、シェイン達の側で、3人のやり取りを見ていた。
「ニック、お前に聞きたいことがある。」
シェインが銃口を向けながら、口を開いた。
続き