ブライアンの宿舎で、コリン、デイビット、ジョン、そしてジュリアンが集まり、この日に集めた情報を共有し合った。
「ジュリアンが見付けた殺し屋か。俺は見覚えが無い。君は?」
コリンがデイビットに、資料を見せた。
「俺も無いな。キャリアが浅い男だろう。」
デイビットは、ジョンに資料を渡した。
ジョンは資料を見て、意外な事を言った。
「おや?昔、大規模な詐欺事件を起こした男にとても似ているな。その男は今もマサチューセッツ州の刑務所にいるから、親戚だな。ジュリアン、君のノートパソコンは、FBIと繋がっているね。調べてみてくれ。」
ブライアンがインターネットで、FBI捜査官に連絡して、ジョンのいう男の名前を伝えた。
FBI捜査官がデーターベースでその男について検索すると、殺人罪で逮捕され、昨年メイン州の刑務所を出所した男の弟が浮かび上がってきた。
「よし!この男を探してくれ。」
「了解しました。コリンは、犯人を捜しを再開したと聞いたよ。何か掴んだかい?」
「俺は銃器店を回ったんだ。イサオを撃った小型銃を買った男について聞いてみたんだ。」
「収穫は?」
ブライアンの問いに、コリンは首を回した。
「小型の銃を買った男は出てこなかった。ようやく、ある店でその銃に使う弾を大量に売った記録が出てきた。だけど、今年の初めの事で、お店の人は誰か買ったか覚えていないんだ。防犯カメラの映像も残っていなかった。」
「秘密結社が動き始めた頃だ。細い糸だが、犯人らしき人間の形跡が見えてきたな。」
ブライアンの目が光った。
ジョンが右手を挙げた。
「次に私の報告だ。私はこの現場に参加したばかりだから、事の発端である、イサオさんが撃たれた現場を特に重点的に調べることにした。」
「そこはもう警察が捜査したんじゃないか?」
「当時の我々は、警察の秘密結社の存在を知らなかった。現場を捜査した警官、鑑識に秘密結社の者がいないとも限らない。FBIに頼み、集めた証拠を見せて貰い、現場に行って隠されたものは無いかと調べていたのだよ。」
「何か見付かったか?」
「嬉しことに予想が外れ、当時の担当警官と鑑識はきちんと仕事をしていた。彼らは、秘密結社と無関係の者だ。現場で色々と探したが、目新しいものは見付からなかった。唯、私は疑問に思ったことがあった。」
「それは?」
「現場近くの何でも屋だよ。FBIに提出された防犯カメラの映像を、捜査本部で見せて貰ったが、あれは何も役に立たない。」
「それは、前日から玄関に備え付けられた防犯カメラの調子がおかしく、店主が何度か直しても、又調子が悪くなっていたそうだ。それは、奥さんと店員達も証言している。事件の数日後に新しい防犯カメラに変えたとのことだ。一応、壊れた防犯カメラのレコーダーを提出して貰い、FBIの鑑識が調整したものの、画像がかなり乱れており、何も手かがりは得られなかった。そこで、店内の防犯カメラの映像も提出させることにした。店内のカメラは、鮮明に中の様子を写していた。その映像を、顧客リストにと照合したものの、犯人らしき男はカメラに写っていなかった。お前も見たと言っただろ。」
「それがとても怪しいのだ。」
ジュリアンが、2人の会話に割って入った。
「私は、店主と奥さんとは20年以上の付き合いがあります。店主は私に嘘をいう男ではありません。私が保証します。先日、殺し屋アルフレッド・ハンが来店した時も、彼は直ぐに私に連絡をしてくれて、防犯カメラの映像も提出してくれました。それが何よりの証拠です。」
「だと良いのだけどね。」
ジョンは含みのある言い方をしたので、ジュリアンは不機嫌になった。
「ジュリアン、気にするな。ジョン、ジュリアンは信頼できる情報屋だ。その彼が保証しているのだから、信じろ。」
ブライアンはジョンに文句を言った。
ジョンは、無表情で反論した。
「店内の防犯カメラの映像を見た上で言っているのだ。イサオさんが撃たれた日、気温は華氏60.8度(日本で使う摂氏では16度)。2月のマイアミの平均最低気温だ。しかし、映像に映っていた客の多くは軽装だった。どうみても、華氏70度(摂氏21.1度)以上の気候に見える。ズレを感じるのだ。」
「防犯カメラに細工をしたと言いたいのか?」
「その可能性も捨てきれない。疑いを持った私は身分を隠して、店に入り、中の様子を見ていたんだ。当時、店には店主と店員が働いて、数人が客が出入りしていた。すると、店主が客が来る度に、何かメモをこっそりと取っていたのを目撃したのだ。」
「それは、顧客リストを作成する為だ。毎日、店主が作成している。事件当日も店主は、来客のリストを作り、私に見せてくれた。当初は渋っていたが、私の粘り強い説得で、FBIに提出してくれた。そのリストの中に、ニックの名前があり、彼が店を直前に訪問していた事実を掴んだ。つまり、店主は、長年の顧客の情報を提供してくれたのだ。私は何度も尋ねているし、コリンも1度は店主と会っている。彼に不審な点が見当たらない。」
「俺も、優しい店主という印象を受けたよ。」
コリンが言った。
「そうかね。私が店に行ったとき、彼は目付きが鋭く、ソワソワしてして、仕事に余り集中出来ていなかった。しばしばスマートフォンを覗いていたしね。店員もそれを察していたのか、落ち着きがなかった。」
デビットがチラッとジュリアンを見ると、何か考えているような表情をした。
「何か思い当たることがあるのか。」
「いえね、又あいつ、悪い癖が出たのか・・・。」
「浮気か。」
デイビットが言うと、ジュリアンはため息をついた。
「それさえなければ、とても良い男なんですよ。この前、奥さんに初めて見付かり、たっぷりと油を搾り取られたから、二度しないと思ったのですが。」
「そっちの方か。私は深く考えすぎた。てっきり、事件の関係者と連絡を取っていたかと勘違いをしていた。」
ジョンも深いため息をした。
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シェインが新しい隠れ家へ戻ったのは、深夜であった。
彼と通じているFBI捜査官が、捜査が自分に及んだ事に恐れをなし、病気を理由にして現場から離れると言い始めた為であった。
慌てたシェインは、FBI捜査官と密かに会い、長いこと話し合った。
結局、シェインが大金を渡したことで決着した。
シェインは部屋に戻ると、シャワーで汗を流した。
間もなく、山本がシェインの部屋をノックした。
「どうかしたのか。」
シェインは、タオルで髪を乾かしていた所であった。
「ようやく、何でも屋のかみさんから、連絡が入った。」
「時間がかかったな。」
「その分、大きな収穫を得られた。顧客リストと防犯カメラのオリジナル映像が見付かったとの話だ。店主が厳重に金庫に保管していたんだ。それも、イサオが撃たれた当日の分だけ。明日の晩に、それらを見せてもらうことになった。」
シェインの左眉がぴくっとなった。
タオルを持つ手を止め、山本に向き合った。
「外の防犯カメラは、壊れていたと聞いたぞ。」
「実際は、店主が玄関脇に設置していた防犯カメラの映像を、壊れた防犯カメラのものとすり替えて渡したんだ。」
山本は続けて話した。
「加えて、金庫の暗唱番号もかみさんに内緒で変えてしまったものだからね。新しい暗証番号が判明するのに、手間がかかってしまったんだ。」
「ますます怪しいな。何でも屋は、かみさんの親父が開き、店主が婿として入った。その関係で、書類上での店のオーナーは、かみさんの名前になっている。その店主が、かみさんに内緒でやるからには、余程の事情があるぞ。」
無意識にシェインの右手は、顎に触れた。
「そうだろ。オーナーが顧客との急な打ち合わせが入った為、明日から3日間留守になる。幸運なことに、この日はかみさんしか店番がいないんだ。出来れば、シェインにも立ち会って欲しい。俺はここの人間じゃないから、仮に怪しい男が防犯カメラの映像に写っても、誰だか分からないんだ。それに、ニックとかいう刑事も、白髪頭の男としか聞いていないし。」
「そうだったな。ニックは大怪我を負ってから、写真嫌いになったから、現在のものがないんだ。俺も立ち会おう。連絡を入れといてくれ。何でも屋にはたまに行くから、かみさんは俺の事を知っている。だから、俺の名を出しても構わない。」
山本は了解すると、部屋を出た。
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