前回 、 目次 、 登場人物

ロシアン・マフィアの残党と、彼に雇われた警察内の秘密結社は、動きを見せなかった。


「おかしい。何か計画しているのでは?」

コリンは勘ぐった。


実情は、秘密結社がガタガタになり、立て直しに必死であったからなのだ。


アルベルト・ウェルバーの命を受けた、“老人”という仇名の同志は、勝手に動いたシカゴ警察にある秘密結社のリーダーを探していた。


ウェルバーからの命令と信じて、青戸勲の襲撃したが失敗に終わった。

後から、命令は嘘だと分かって、リーダーは慌てて逃げた。


ウェルバーが、いくら秘密結社の同志に聞いても、誰も逃げ先は分からなかった。


“老人”が、現地に入って調査し、ようやくリーダーの逃亡先を見つけ出すことが出来た。

彼は、迷わずリーダーを自殺に見せ掛けて消すと、持っていたデーターや書類を処分した。


ウェルバーは、秘密結社の同志全員を消すようにと命令したが、“老人”は背いた。


出発前に、ウェルバーの甥のルドルフと示し合わせ、全てを知っているリーダーだけ始末して、証拠を処分すると、秘密結社を解散させ、残りの同志を生かすことにしたのだ。


残りの同志達は、一生秘密結社の事は口外しないと誓った。


“老人”はものの見事に、シカゴの秘密結社の痕跡を消し、捜査していたFBIを煙に巻くことに成功した。


当然、“老人”はマイアミに戻ると、ウェルバーに全員消したと嘘の報告をした。

それから間を置かずに、ニューヨークへ出発した。


同じ時期にルドルフが、他の同志に自分に付いて来る様にと、秘密裏に説得に回っていた。

ウェルバーの非情なやり方に付いていけなくなった、殆どの同志達は、ルドルフに忠誠を誓った。



ある日、ウェルバーに電話が入った。


「ルドルフが、秘密結社を乗っ取ろうとして、若い同志達を焚き付けている。」との、年配の同志からの密告であった。


ウェルバーは激怒し、リウマチで思う様に動けない体を奮い起こした。


=====


ブライアンが、イサオの見舞いにやって来たのは、それから数日後の事であった。


イサオは、リハビリの甲斐があって、歩行器を使って移動する距離が少しづつ伸びていた。

まだ、頭に包帯が巻かれ、左目には眼帯を付けていた。


「順調に回復しているな。」


久しぶりに、ブライアンは笑顔を見せた。


「パリ土産があるんだ。君のアパートまで持っていくよ。」


ブライアンは高級ワインを数本見せると、優しくコリンに言った。


コリン、デイビット、そしてブライアンは、コリンのアパートに移動した。

ブライアンは、コリンとデイビットに、パリから得た情報を2人に教えた。


「逮捕されたロシアン・マフィアの男が言うには、マイアミ、シカゴ、ニューヨーク、ロス、ワシントンD.C.の警察署内に秘密結社があるらしんだ。およそ35年前に、マイアミで結成したのが発祥らしい。元々は、警察で捕まえても、裁判で微罪や無罪になる犯罪者達を、裏で制裁するのが目的だったそうだ。」


ブライアンが語る所では、結成から数年後、マイアミのメンバーが、他の都市へ引越し、地元の警察に転職した。

彼らは、別の秘密結社を作り、輪が広がった。


「別に秘密結社を作ったということは、フロリダ州外に逃げた悪党を退治する為?」


コリンが質問した。


「それも理由の一つだ。他には、正義感の強いメンバーが、他所の犯罪者に憤って、そこの土地へ移り、結成した事もあったそうだ。秘密結社は、それぞれの土地で動き、何かあると、お互いが協力して、悪党を追っていた。万が一の事態に備え、それぞれの秘密結社は、リーダー同士の顔しか知らず、他のメンバーとは接触を持たないように努めていた。」


「用心深いな。」


「そうだ。因みに、秘密結社に参加出来たのは、独身男性のみだった。中には、OBもいたそうだ。それが、時が経つにつれて、既婚者も入れるようになった。」


「すると、結構の人数が入っているんじゃないのか。」


「そうなんだが、詳しい人数は調査中だ。今、マイアミの秘密結社は、シカゴとニューヨークとしか連携をしていないと、男が言っていた。」


「どうして?」


「ロスとワシントンD.C.は、リーダー達の判断で、女性の参加を許可した。それを、他のリーダーは怒り、縁を切ったそうだ。特に、マイアミのリーダーは激怒したと言う。10年以上前の話らしい。」


「石頭だな。どうして、悪党を裏で裁く組織が、どうしてブライアンやイサオを狙うんだ?それも、ロシアン・マフィアの依頼を受けたりしてさ。」


「3年前から、方針を変えたらしい。男によれば、秘密結社といえども、資金不足にかなり悩んでいたそうだ。丁度その頃、初期から参加していたメンバーが亡くなり、リーダーの決断を止める人間がいなくなった。マイアミの方針の変更は、シカゴ、ニューヨークにも影響を与え、彼らも右に倣った。」


「マイアミのリーダーは、他の都市にまで力が及ぶなんて、よっぽど強力な指導力があるんだね。」


「そうらしい。流石に、男はリーダーの名前までは吐かなかった。分かっている事は、リーダーは既に引退していて、初期のメンバーの只一人の生き残りで、かなりのカリスマ性があるというだけだ。私の推測では、70代かと思う。」


「随分と長く、秘密結社に君臨しているね。」


「今回のしくじりで、ロシアン・マフィアの残党は、仲間と秘密結社を見捨て、一人でパリに逃れた。最後の一人も、秘密結社と喧嘩して、飛び出した。しかし、奴は初めてアメリカにやって来た若造だ。奴一人では、満足に動けまい。どう出るか。私は、奴にとって兄2人を奪った憎き仇だ。悲しいことに、イサオもそれに一枚噛んでしまった。私のせいだ。私がケリをつける。」


「俺達も協力する。」


「イサオを撃ったとかいう男の情報は、得たのか?」


デイビットが尋ねた。


「ああ。私も非常に驚いている。デイビットの呉れた情報通りだった。逮捕された男は、イサオと私の殺害を、ニューヨークの秘密結社に依頼した。連中は、イサオとサラが、毎年私の誕生日を祝ってくれる為に、自宅でディナーを振舞うのを掴んでいた。」


「じゃあ、サラが言っていた、ブライアンを自宅ディナーに誘ったというのは、誕生日を祝う為たっだのか。」


「今年は、私の仕事の都合で、1ヶ月ずれてしまったが、それも連中は把握していた。そこで、連中はマイアミの秘密結社と協力し、1ヶ月遅れの私の誕生日会に、襲うことを計画していた。」


「酷い事を。サラまで巻き込むなんて。」


コリンは憤りを感じた。


「腐った連中だ。しかし、実行の3日前に、イサオが撃たれた。秘密結社は大慌てした。いくら犯人探しをやっても、見付からなかった。痺れを切らしたロシアン・マフィアが催促してきたので、秘密結社は、目撃者、イサオ、そして私を、殺害する計画を立てた。だが、それも謎の男の手によって壊された。」


「どういうことだ?」


「偽の命令で、関係の無いシカゴの秘密結社のメンバーが、マイアミの連中より先に、病院を襲った。」


「じゃあ、俺と猛さんが闘ったのは、シカゴの連中か。そうすると、彼らを口封じしたのは、謎の男か?」


コリンとデイビットは、互いを見た。


イサオを撃った男、助けた男、そして今度は病院で秘密結社を混乱に陥れた男。

次から次へと、正体不明の男が現れる。


コリンは混乱しそうになった。



「マイアミの連中は、地下の駐車場で、シカゴの連中が終わるのを待っていたそうだ。当初、奴等は、シカゴの連中を殺害したのは、ニンジャだと誤解していた。」


「猛さんは、強かったからな。」


「シカゴの連中を撃った銃は、デイビットと同じ型だが、別物だ。猛さんは、銃を持っていない。それで、ようやく、マイアミの連中は、シカゴの連中の殺害犯は別にいると悟った。それに、YouTubeに猛さんの映像が流れ、秘密結社はビビッて、混乱に拍車が掛かったそうだ。パリに逃げた男も、その一人だ。」


「だから、連中は未だに動きを見せないのか。」


「油断するなよ、コリン。リーダーと、ロシアン・マフィアの最後の一人は、恐れていない。連中は、きっとイサオと私を三度目の襲撃する。」



デイビットが、前から話したい事を口にした。


「イサオの件で、担当刑事が変った。前の刑事が、17年前にシアトルで、イサオと会っていた事が発覚したからだ。」


ブライアンの目が鋭くなった。


「その刑事は、イサオの友人なのか?」


「いや。17年前に、事件でシアトルへ飛び、そこでイサオと知り合っただけだ。刑事によれば、それ以降には2人は会っていないらしい。まだ、イサオに確認を取っていないが。」


「事件で会っただけだろう。それだけで、担当から外されたのか?」


「そうだ。刑事の上司が、何故話さなかったのかと怒ってね。」


「とんでもない上司だな。こんなのが、警察にいて、イサオの事件は解決するのは、かなり遠くなるぞ。で、その刑事の名前は?」


「ニック・グランド。白髪の方だよ。」


ブライアンが、眉を上げた。


「あいつか?まさか?!俺は、人の顔を一度見たら忘れないぞ。」


「シアトルから戻って半年後に、怪我を負って、外見が変ったそうだ。妹も見間違える程だったらしい。ニック刑事の相棒から聞いたから、確かだ。」


コリンも肯いた。


「ニック・グラントと言うのか!随分と変ったものだ。俺には、マーク・ホワイトと名乗っていた。あいつ、俺の事を知っている筈なのに、何食わぬ顔をして、俺に事情聴取をしていたぞ。それからも、一切接触してこなかった。どういう事だ。」


「俺も驚いたよ。当時はもっと若かった印象があったから。ニックはその件について、俺にも何も言わないんだ。17年前の事件だし、今回の事件とは関わりがないから、言わないだけかも。ブライアン、ニックのこと、よく知っているの?」


コリンの問いに、ブライアンは内心ヒヤッとした。


「そんなに知らない。17年前にシアトルの金持ちが、実の妹を人を雇って殺した事件を担当していた、若手の刑事だった。お互い情報を取引しただけだ。」


「何の?」


「金持ちの情報を、やり取りしたんだ。それだけの関係さ。」


ブライアンは、上着を取った。


「俺は、これから情報を集めてくる。秘密結社の事もそうだが、ロシアン・マフィアの残党の動きも気になるからな。そのワイン、全部君達のお土産だ。良いものだぞ。」


ブライアンは、コリンのアパートを出た。


「ブライアンは何か隠してない?」


コリンが言った。


「何をだ?」


「ニック刑事の事で。17年前に会っただけなら、こんなに動揺しないと思うんだ。」


デイビットもそれと同じ事を感じていた。


ブライアンとニック、何か2人は繋がっているのではと、デイビットは思った。

そして、ニックと情報屋・ジュリアン。

もしかして、3人は、17年前のシアトルから繋がりが、あるのではとも思いを巡らせた。

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