大広間に緊張が走った。
家老・大杉達が追っていた清吉が目の前に現れたからだ。
「近習を装って、殿のお側にいるとは不届き千万!皆の者、殿をお守りせい!」
大杉が檄を飛ばすと、藩士達は一斉に刀を抜いた。
大杉も刀を抜いた。
藤千代は、「止めい!」と声を出そうとしたが、「ご免!」と言って上がってきた藩士に、抱きかかえられてしまい、奥の間へ閉じ込められてしまった。
藩主も藩士や小姓らに囲まれて奥の間へ連れて行かれた。
大広間は、藩士達が清吉に切りつけようとしたが、清吉は刀を抜かず、さっと身をかわしていた。
「おやめ下さい!」と藩士達を諭しても、誰一人聞く耳を持たなかった。
別の間で控えていた、近正と八重は、大広間の騒動を耳にした。
城内にいる藩士達が右往左往していた。
近正は、この機に乗じて、大広間へ駆けていった。
八重も遅れながらも大広間へ急いで向かった。
大広間では藩士達の攻撃を避けていた清吉だった。
近正は藩士達をかき分け、清吉の目の前に出てくると、「この者は、敵ではござらん」と言った。
藩士達の動きが止まった。
しかし、大杉は、「倅は騙されて居る!構わぬ!奴を切り捨てい!」と藩士達に命じた。
その時、大杉は胸に激しい痛みを感じた。
藩士達は再び攻撃を始めた。
そこへ、八重が大広間に到着した。
すぐに夫の大杉の元へ寄り、「どうか刀をお納め下さいませ。」と懇願した。
だが、大杉は「奥へ下がっておれ」と言うだけだった。
藩士達の中には、初めて八重の顔を見る者が多く、一瞬動きが止まった。
『あれが噂に聞く大杉様の御内儀か。』
清吉は、その隙をついて、上段の間へ登り、あの守り刀を手にした。
「私は、藤丸様の使いの者である!」
この台詞は清吉の咄嗟のはったりであったが、藩士達は一斉に刀を収めてしまった。
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