翌朝、藤丸が早馬でお城へ向かった。
お供には、城代家老の息子・大杉近正、田島敬之助ら数名の藩士がいた。
その後から、八重と傷の手当てを受けた藩士達が早駕籠でお城へ向かった。
沿道の影から、清吉が八重達を見守っていた。
藤丸襲撃未遂について、藩士達に箝口令が碾かれた。
事が大きくなれば、藤丸と老中の娘との婚約にひびが入る可能性が出てくる。
それは、藩の命運にも関わるからである。
藩の別邸では、松千代の守り役・青木の取り調べが行われていた。
青木は、口を割らなかった。
真実を言えば、松千代やその生母・お春の方に累が及ぶからだ。
しかし、藩士達は薄々お春の方が関与している事を察していた。
他の藩士が、外で隠れていた使用人達を捕らえ、別邸へ連れてきた。
初め、使用人達は浪人の頭に脅されて外へ追い出されたと答えた。
藩士の追求により、使用人達はようやく浪人の頭から金で買収されたことを自供した。
藩士達は、使用人に浪人達の亡骸の中から頭を探しさせた。
頭が分かると、藩士達はその身の回りの物を改めた。
そうすると、一通の書状が懐から出てきた。
開けて見ると、家老・加藤の長男からの書状であった。
内容は、藤丸暗殺に成功した場合、高額な報償を与え、更にじきに自分が父を追い出して家老になるので、その時には藩士として召し抱えるというものであった。
この書状を見た、藩士達は驚愕した。
事件の背景には、家老・加藤の長男がいた。
もしかすると、父である加藤が背後にいるかも知れないと、藩士達は疑念を抱いた。
慌てた藩士達は、お城にいる城代家老・大杉左近に伝える為、急ぎ書状を持ってお城へ駆けていった。
お城では、藩主と城代家老・大杉が、藤丸一行を待っていた。
到着した藤丸は、直ぐに城主の待つ大広間へ向かった。
城主は、我が子の無事に涙をハラハラと流し、藤丸を抱きしめた。
大杉は、頃合いを見計らって、藤丸を休ませる為に別室へ連れて行こうとした。
しかし、藤丸はこれから藩主と二人きりで話がしたいと言った。
藩主はこれを許した。
大杉は、勘でこれは何か裏があると察したが、頭を下げて大広間から下がった。
大杉が気になったのは、藤丸が手元に持っていた刀であった。
布でくるんであったが、何時も持っているものとは違うと察していた。
藤丸は、藩主を連れて藩主の部屋へ行った。
これから、昨夜起こった事、7年前の事、知る得る限り全ての事を、藤丸は藩主に打ち明ける決意をしていた。