浪人達が、別邸へ入ったと同時に加藤派の使用人達は、こそこそと外へ出た。
その隙に、清吉は別邸へ潜り込み、八重の部屋へ向かった。
事前に襲撃を聞いていた八重は、着物のまま部屋で待機していた。
天井から清吉が浪人達が、やってきた事を知らせた。
自分が浪人達を防いでいるので、その間に藤丸を連れて奥で隠れているようにと伝えた。
八重は、天井を見た。
板が外れた隙間に、黒装束の清吉の顔が見えた。
清吉の目を見て、八重は頷き、藤丸の寝所へと向かった。
実は、八重はお供の藩士達に、今夜の襲撃をそれとなく伝えていた。
清吉の事は一切話さず、怪しい連中が別邸をうろついているのを見たから気を付けるようにと言っただけであったが、多くの藩士は八重の言葉を心に留めて、刀を持って床についていた。
八重は、藤丸の寝所へ行くと、声を掛けた。
意外な事に、藤丸は起きていた。
藤丸は、昨夜泊まった寺に大杉の配下の武士が来て、大杉が浪人達を使って自分を暗殺すると密告したと言う。
驚愕した八重は否定をするが、大杉の妻である故に信じてもらえなかった。
その者が言うには、八重の命をも狙われていて、襲撃があった時は2人で茶室にある隠し部屋へ逃げて欲しいと。
後は、自分が別邸から2人を外へ連れ出すとも言ったと言うではないか。
しかし、藤丸はその者を全面的に信用している訳では無かった。
藩主の嫡男である藤丸は、逃げずに浪人達と戦うと言った。
八重に、その隠し部屋へ逃げる様にと命じた。
八重はその命には従うことは出来ないと、懐刀を取り出した。
その頃、浪人達は事前の打ち合わせ通りに表と裏の2箇所に別れていた。
使用人達が全員外へ出たことを確認すると、浪人達は一斉に駆け出し襲撃を開始した。
狙うは、藤丸ただ一人。
浪人達は、別邸の地図を頭に叩き込んでいたので、あっと言う間に藤丸の部屋を襲った。
そこには、誰もいなかった。
浪人の一人が、布団に手をやると僅かに温もりが残っていた。
やはり、茶室へと逃れていると思った。
その時、両脇の襖が開き、藩士達が反撃に出て来た。
裏にいた浪人の頭は、浪人達と共に茶室へと駆けていた。
すると、手引きするはずの男が藤丸がいないと合図して来た。
この男は、加藤の長男に雇われた浪人の一人であった。
藤丸に罠を仕掛け、事前に襲撃を知らせて藤丸と八重を茶室の隠し部屋へ逃げさせて、浪人の頭が2人を斬る算段であったのだ。
浪人達は、藤丸がまだ寝所にいるのかと思った矢先、寝所の辺りから怒声が聞こえてきた。
急いで、裏にいた浪人達は別邸の中へ押しろうとしたら、いきなり玉が目の前に飛んで来た。
玉は爆発すると、煙幕が発生し、浪人達の視界が遮れられた。
屋根から清吉が飛び降り、浪人達を次々と倒していった。
流石に浪人の頭は手強く、戦っている内に別邸に入ってしまった。
後を追う、清吉であった。
その様子を、先程の浪人が隠れて見ていた。