目次  (あらすじはこちら へ)


嫡子・藤丸お茶に粉を入れた騒動が落ち着いた所に、またしても事件が起こった。

今度は、藤丸の異母弟・松千代が毒を盛らせたというのだ。

病に倒れたというので、医者が見立てた所、毒を飲んだ形跡があった。

幸い微量だったので、大事には至らなかった。


そこで、守り役の青木が周囲を調べると、女中部屋から毒が入った入れ物が見付かった。

しかし、入れ物の持ち主の女中は、姿をくらませてしまった。


早速、生母のお春の方は、藩主に警備の者を増やす事を願い出た。

藩主は、直ぐにこれを受け入れた。

その時に、加藤は警備の者に自分の家来を推薦し、お春の方の口利きもあったので、藩主はこれも了承した。

これには、城代家老・大杉も反対は出来なかった。


最初は、大杉はこの騒動の裏に加藤が絡んでいたと推測していたが、加藤の元へ忍び込ませていた配下の者の話だと、加藤は何も行動していないと言う。


その内に、藤丸と松千代の事件は、謎の隠密が引き起こしたという噂が藩士の間に広まった。

藤丸が老中の娘と婚約した事で、この小藩は幕府と繋がりが深くなる。

その事に異を唱える他藩が、隠密を使って2人に毒を盛ろうとしたと云う噂である。


大杉も、その噂を信じるようになった。

腹心の勘定奉行の香原も、同じであった。

2人ははお家騒動を防ぐために、家老・加藤が擁立を企てている松千代の暗殺を計画していたが、それを白紙に戻す他無かった。

自分達が探している清吉が、噂の隠密だとすると7年前の事件を探している理由が分かった気がした。

他藩がこの藩の弱みを、探そうとしているのだと思ったからだ。


大杉が、そう思ったのにはもう一つの理由があった。

それは、田島敬之助がまた出奔した事である。

今度は誰にも告げずに。

正体がばれそうなので、きっと隠密が田島を消したのだと大杉達は思った。


2人の会話を天上裏から覗いていた清吉は苦笑したが、これで大杉は迂闊には動けない筈だ。

この噂を流したのは、恐らく加藤派だと睨んでいた。

事実、藤丸に毒を入れていた。

加藤は薬物には明るく、親戚には御殿医や松千代の医者等がいる。

それを利用して、松千代にあえて毒を入れて、松千代の周りを固めたのであろう。

大杉は、もっと自分の探索に力を入れるであろう。

清吉は、気を引き締めて、その場を後にした。


それは、確かであった。

加藤の長男が、病床から策を講じていていたのだ。

松千代に微量の毒を入れたのは、守り役・青木であった。

罪を被った女中は、加藤派の手引きで安全な場所に隠れている。

噂を広めたのも、加藤の配下の者達である。

大杉が探させている隠密を、この騒動に便乗して利用したのだ。

そして、加藤派を探っている大杉の配下の者を調べ上げ、その者が難病の母親を抱えている事を知ると、治療と引き替えに、その者を寝返らせて、自分達の偽りの情報を大杉に渡していたのだ。


この噂を信じた大杉は、隠密探索に集中するとも、加藤の長男は読んでいた。

その隙に、こちらは藤丸暗殺計画を錬る事が出来ると。


加藤の長男は、清吉の事を軽く見ていた。

たがが昔をほじくる隠密に何が出来るかと、長男は思っていた。

あの件以来、天上に人の気配は無いので、きっとしっぽを巻いて逃げいているとも思っていた。


しかし、清吉がこの藩に留まり、長男が計画している藤丸暗殺を把握している事実は知らない。