現在に至るまで香港の保険業界はHKIFというプロバイダーを規制する協会、PIBAとCIBという販売のライセンスを管理する2つの組織の合計3組織によって管理されてきたが、今年の6月26日以降はIA(Hong Kong Insurance Authority 保険業監管局)によってそれらが統合管理されることになる。
HKIF=The Hong Kong Federation of Insurers
CIB=Confederation of Insurance Brokers
http://www.hkcib.org/hkcib/index.jsp
PIBA=Professional Insurance Brokers Association
という3つの組織と、2つのライセンスが、IAによって統合管理されるということだ。
PIBA、CIBといったライセンスに関しては、今後2年ほどの間にIAによって管理される1つのライセンスに取りまとめられることになりそうだ。
このIAによる香港保険業界の管理統合劇は、現在水面下で香港のIFA業界の土台を揺るがしかねないような波乱と混乱を巻き起こしつつあるという事実はあまり知られていない。
昨年から既に徴収が始まっている、Levyと呼ばれる保険登録税のようなものはIAによって新たに設定されたものであり、その通知によってIA(香港保険監管局)の存在を知った人もいるかもしれない。
保険料Levyに関しては過去の記事をご参考にしてもらいたい。
『FPI社から届いた謎のメール 「香港保険業監管局IAからのLevy徴収のお知らせ」について』
https://ameblo.jp/saruahi/entry-12333913005.html
また、一昨年の暮れに、日本の金融庁から、FTLifeなどの日本居住者に対する保険商品の販売についての問い合わせ(クレーム)が行った先もIAであると推測される。
それを受けてIAは、香港への渡航と現地での契約を条件に日本居住者に香港の保険商品を販売していたFTLifeとSunLife HKに対してソフトな自主規制の勧告をしたものと思われ、結果として香港への渡航による個人名義での契約が昨年の6月いっぱいでできなくなったというのは記憶に新しいところだ。
これは結果として、香港で設立されたトラスト名義での加入という形で渡航せずとも契約が可能な状態になってはいるものの、それがいつまで続くかは分からない。
このようなIAによる規制強化の片鱗は認識されているものの、それはIAが行おうとしている大規模な規制のほんの一部でしかないようだ。
実は、IAが現在IFA業界に対してもっとも懸念していて、大規模にメスを入れようとしている部分は、IFAによる香港の認可商品の中国、日本、韓国、東南アジアなど、国外へのクロスボーダーセールスと、国外の非ライセンス業者を紹介者として契約し、多額の手数料を支払って業務を紹介者に丸投げし、本来のIFAとしての機能を果たしていないばかりが、紹介者による時に他国の金融業法に触れる営業行為や、間違った商品説明によるミスセルが発生しているという事態に対する調査と制裁であると言われている。
クロスボーダーセールスに関しては、近年では中国人向けの保険の販売が激化し、中国人富裕層が香港の保険商品を利用して資産の海外移転を計っていた事もあって、特に中国での香港保険商品の乱売が問題になっていたと思われる。
IAには既に香港の保険商品を買わされた外国人からのクレームが集まっているようで、それを元にIAは香港のライセンスをもったIFAの運営実体を詳細に調査し始めているようだ。
保険商品の販売に関わるPIBAもしくはCIBのライセンスを持った会社は、そういった中国人向け保険販売ブームの中で、1,000社以上にもなっているようで、その多くは実体を持たず、営業からアフターサポートに至るまでの殆どの業務をローカルの業務提携先や紹介者に丸投げをしている企業である。
IAは独自の調査によって、業務実態のない幽霊IFAや、コンプライアンス上問題のあるIFAをあぶり出して粛正し、1,000社以上にふくれあがったIFAのうち少なくとも1/4は閉鎖に追い込むつもりのようだ。
ちなみに、投資運用や募集行為に関連するSFC(Securities & Futures Commission)のライセンスを持っている企業は、保険の販売ライセンスだけを持っている会社と比べれば遥かに少なく、IAとは別にSFCはSFCで非常に厳しい審査や監査をおこなっている。
『香港の投資関連ライセンス』
https://ameblo.jp/saruahi/entry-10951573264.html
今回のIAによる規制が強化が日本居住者にとって影響を及ぼすとすれば、今は暫定的に香港トラストを設立することで渡航せずとも契約が可能となったFTLifeやSun Lifeの提供する保険商品の販売やサービスに関してのみであり、香港で認可されていないマン島のRL360やプエルトリコのインベ☆ーズ虎すとなどが提供する商品に関してはIAの規制対象にはならないと考えられる。
本来、保険会社が提供するセービングプランのようなILAS商品は、香港で認可を受けたものであればIAの管轄であるが、香港で認可を受けていないILAS商品の香港に居住していない日本居住者への販売・仲介というのは、香港の業法には触れようがないグレーゾーンビジネスということになる。
このグレーゾーン対応に、香港のIFAはRL360やインベ☆ーズ虎すとの扱いに関しては、香港のライセンス法人ではなく、ライセンスを持たないBVI法人を既に契約母体として使用しており、それを考えるとFTLifeとSunLifeの商品を香港のライセンス香港法人が取り扱う場合に問題は集約されると考えられる。
このようなIAによるIFAの業務監査が進むと、本来は彼らがしなければならない業務を多額のコミッションを紹介者に払い出して紹介者に丸投げしていた場合には、それがあぶり出されて何らかのペナルティーを受ける可能性があり、香港のIFAはどこも心中穏やかではないはずだ。
それを回避する為には、自社のオペレーションを人を雇って充実させなければならないが、その為には経費がかかることになる。
既に総コミッションの殆どを紹介者に吐き出しているIFAの場合、社内のオペレーション強化に費やす予算がなく、どうしようもなくなってしまう。
結果として、IFAのビジネスはより儲からないものとなり、IAの規制によって粛正されなかったとしても、儲からないので廃業に追い込まれるケースというのも出てくるだろう。
自分の投資を面倒見てくれているIFAがもしそのような憂き目にあってしまうと大変だ。
客観的にみて、香港のIFAを取り巻く状況は芳しくない。
その元凶が、IAが指摘しているように、広く蔓延している「紹介者への丸投げ体質」というものが結果としてコンプライアンス上の管理の甘さに繋がり、問題を引き起こしているというのは事実かもしれない。
この先、生き残って行くIFAが取るべき道は、もういちど基本に立ち返り、キチンとしたクライアントへのミスセルのない商品説明や契約の締結、その後の事務サポートを自社で継続的にやっていくしかないということになるが、その足かせとなるのが紹介者依存型の体質とあまりにも負担の大きい紹介料の払い出しということだろう。
そこで、今後はIFAのサポート体制に依存しない独自の互助組織の開発という課題が見えてくる。
「海外投資難民救済所」みたいなものが、将来必要になるかもしれない。