実際に現地視察に行き、その存在と稼働状況が確認できた中国四川省チベット族自治州という辺境地のマイニングファームであるが、純粋に投資案件としてのマイニング事業検証を試みたいと思う。
今回私が乗っかったのは、ブラザーの縁者が運営するマイニングファームに設置するマイニングマシンを、ブラザーがブラザーの息のかかったメーカーから購入する資金を年40%の金利で貸し付け、1年後に元本を回収するという特殊な話なので、ブラザーの信用が全てと言っても良く、実際にマイニングファームを見学する必要も本来はなかったかもしれないが、行ってみて分かったこともある・・・。やはり現場を確認するということは大切だと改めて感じる。
仮想通貨のマイニング事業の良いところは、マイニングの施設やマイニングマシンというものが目に見えるものであるというところかもしれない。
それは自分がお金を投資したとすれば、投資したものが今回の場合はマシン購入の為のローンであるが、何になったのかが分かりやすい。
採掘されたコインは目に見えないので不安だが、それは普通に仕事をして振り込みで給与をもらっているのと現実には変わりない。
仮想通貨マイニングの基本は、電気代の安い場所を見つけて、最新のマシンを購入し、設置し、稼働させるだけだ。
金脈のあるところが鉱山だとすれば、仮想通貨のマイニングにおいては電気代の安い場所が鉱山であり、工員を雇う代わりにマシンを購入していると思えばよい。
施設やマシンの管理にはマンパワーが必要なので人件費の安い場所(国)という条件も隠れているが、マイニング作業自体はマイニングマシンという演算用のコンピュータの性能に依存している。
つまり、最新の高性能マシンをなるべく安く大量にそしてタイムリーに入手できるかどうか?ということが事業のひとつの柱となる。
このように、マイニングを事業として見たとき、正しいやり方で必要な条件を満たせば、確実に儲けを生み出す将来性のあるビジネスであると評価できるが、その条件の幅は極めて狭い。
特に電気代が1kwあたり5円以下というほぼタダに近い電気代を実現できるロケーションを確保するということが、マイニングファームを事業として運営する上で最も困難でリスクの高い要素だと言える。
電気代が安く、寒冷な気候のローケーションというと、中国であればウイグル自治区やチベット自治州という辺境地になり、そのような特殊で辺境な場所で中国の規制の網をくぐって継続的に安全にマイニングファームを運営できる権利を確保できるチャンスは限りなく少ない。
2018年2月4日に、各国の政府および地方公益事業会社、国際エネルギー機関、IBTimesのレポートのデータを集計し、コインテレグラフよりマイニング有利な国が発表された。
https://jp.cointelegraph.com/news/mining-margins-and-where-to-make-the-most-money
電気代の安い国の上位5カ国は上から、ベネズエラ、トリニダードトバゴ、台湾、ウズベキスタン、ウクライナ、下位5カ国は下から、韓国、ニウエ、バーレーン、ソロモン諸島、クック諸島
・・・となっているが、残念ながら上位の3カ国は気候が温暖すぎてマニングには適さないと思われる。
電気代の安い国の6位以下を見ていくと、
⑥ミャンマー、⑦クウェート、⑧ベラルーシ、⑨バングラデシュ、⑩カザフスタン、⑪エチオピア、⑫スリナム、⑬セルビア、⑭コソボ、⑮パラグアイ、⑯サウジアラビア、⑰エジプト、⑱中国、⑲イラン、⑳インド、㉑ジョージア、㉒ザンビア、㉓UAE、㉔ネパール、㉕アルバニア、㉖マケドニア、㉗カナダ、㉘ボスニア・ヘルツェゴビナ、㉙ペルー、㉚インドネシア、㉛ブルガリア、㉜アルゼンチン、㉝モルドバ、㉞ロシア、㉟ベトナム、㊱スウェーデン、㊲スロバキア、㊳アイスランド、㊴USA、㊵ブルネイ、㊶ラオス、㊷タイ、㊸トルコ、㊹マレーシア、㊺リトアニア、㊻フィジー、㊼ナイジェリア、㊽ハンガリー、㊾エストニア、㊿クロアチア、ルーマニア、ジブラルタル、シンガポール、南アフリカ、マルタ、イスラエル、モンテネグロ、イラク、ブラジル、ポーランド、ラトビア、フィンランド、フィリピン、パキスタン、コロンビア、スイス、ニュージーランド、ウガンダ、スロベニア、メキシコ、ルクセンブルグ、ノルウェイ、ジャマイカ、香港、フランス、リヒテンシュタイン、カンボジア、UK、ニカラグア、ウルグアイ、81位の日本・・・といった具合だ。
1ビットコインを採掘するのに必要な電気代は、この時点での計算では、1位のベネズエラが$531というのは別格として、4位のウズベキスタンが$1,788、5位のウクライナが$1,852というのが最安値のラインと言えるだろう。
では、この電気代が1kwあたり何円なのか?というのを計算しないと正直我々にはピンと来ない。
1ビットコインを掘るのに、仮に26.8TH/sで消費電力が1,650Wのマシンを使ったとして、1年間にこの性能のマシン1台で掘れるビットコインは、マイニング計算機によると0.33ビットコインなので、1年で1ビットコインを掘るには、同等のマシン(26.8TH/sのマシン)を3台稼働させる必要があると考えられる。
つまり1年間の推定消費電力は、このマシン3台分の消費電力となり、
およそ1.65kw x24時間 x 365日 x 3台 = 43,362kw/年という計算になる。
1ビットコインを掘るのに必要な電気代が上記の統計資料でベネズエラ以下のウズベキスタン、ウクライナなど電気代が世界でも最も安い国で$1,800あたりなので、その国の電気料金は、$1,800÷43,362kw = $0.0415/kw = 4.69円 ($1=113円)/kwが世界最安値ということになる。
ちなみにベネズエラの電気代は1kwあたり$531÷43,3624kw = $0.012 = 1.37円/kwとなる。
81位の日本は$8,723となっているので、$8,723÷43,362kw = $0.2 = 22.6円となり、現実の電気代24円とくらべるとやや安いがそれほどかけ離れてはない計算だ。
$1=120円で計算すれば24円/kwとなる。
上記の国際エネルギー機関のデータによると、中国の電気代は1ビットコインを掘るのに$3,172となっているので、$3,172÷43,362kw = $0.073 = 8.24円 となるが、私が聞いているチベットのマイニングファームでの電気代は1kw/hあたり$0.05 = 5.65円である。
この電気料金と立地の関係は、マイニングファーム設置場所の選択肢を絶望的に狭めている。
まさに本来の南北問題と同じように、電気料金の安い国の殆どは貧しい発展途上国であり、その多くは世界地図の南側に偏っていて暑い地域だ。
上記の電気料金の安い国世界ランキングで、中国よりも下位の国では、1kwあたりの電気料金が10円を超えてくるので、マイニングファームの設営国としては相応しくない。
そして、18位の中国よりも上位の国で気候が寒冷でマイニングに適していると思われるのは4位のウズベキスタン、5位のウクライナ、8位ベラルーシ、10位カザフスタンと中央アジアの辺境になり、中国以下のランキングでは、唯一先進国で電気料金が最も安い27位のカナダが特筆すべきであるが、それでも1kwあたりの電気代は10円程度となっておりマイニングに適しているとは言い難い。
やはり、山岳地帯で豊富な水力資源がある地域、または環境の問題はあるが石炭など安価な火力発電が中心の国の電気代が安い。
現状において、見学してきた標高4000mのチベット自治区というのは、この電気代と気候という点ではマイニングファーム運営の理想的な立地と考えられる。
また、人件費や場所代といった管理費が安いのも魅力だ。
チベットの次に候補として挙げるなら、ウズベキスタンが有望であろう。
次に、マイニングマシンの問題だが、これについてはチップは台湾製でマシンは中国のシンセン製というのが相場となっており、最新のマシン開発はシンセンで行われている。
既に、マイニング専用マシンASICマイナーの供給シェアにおける80%はBitMain社のAntminerであり、業界2位のCanaan社のAvalonマイナーが15%と中国シンセンで生産されるマイニングマシンが世界の95%を占めているのが現状である。
「BitMain社は2013年設立、設立後わずか4年でマイニング集積回路市場の8割を独占するBitMain社は、北京を拠点とする企業で現在の従業員200人規模の企業である。創業者である吴忌寒(Wu Jihan/ウージンハン)は、北京大学を卒業、もう一人の共同創業者である詹克团(Zhan Ketuan/ジャンカツァン)は、清華大学を卒業している。
吴忌寒は、2011年5月にタオバオからビットコインを購入しその魅力と可能性にとりつかれたという。そして、将来的に人々がビットコインのマイニングに注目すると予測し当時の集積回路ではマイニングには非効率であると考え、友人であった詹克团に技術的な協力を要請し共同で集積回路の開発に取り組んだという。
会社のホームページで、彼らの提供するASICマイナーの価格を確認することができるが、どうやら現在では人気商品はほとんど売り切れの状態でウェブサイトから購入することは困難なようである。本当に売り切れなのか、購入にあたり特別のルートが必要なのかは定かではない。2017年の売上は143億元(2430億円)に達しており販売するASICマイナー数は、10万台を超えるという。」
「市場シェア15%である業界2位の企業Canaan(嘉楠耘智)は、すでにIPO準備に入っているとの報道も一部にあり、BitMain社はよりも詳細な財務データを公表している。Canaanは、2015年の当期純利益は224万元(3800万円ほど)であったが、2017年には3億元(51億円)にまで当期純利益は跳ね上がっており、この2年間で急成長を遂げている。」
マイニングマシンの製造においては、最新のチップ技術開発による消費電力の節約と、そのチップの効率の良い冷却技術が急速に進歩しており、それにはアップル等スマホ開発の最新技術が転用されているようだ。
問題は、演算能力(ハッシュパワー)と消費電力の関係、(演算能力が高く消費電力の低い)性能とコストの関係であり、その理想的な最新機種のコストはUS2,000ドル~3,000ドル程度でなければペイしにくい。
どうやら、このコストで理想的な性能を持つマイニングマシン(ASICマイナー)を提供できる工場は、スマホの製造技術をパクって転用している中国シンセンにしかないというのが現状のようだ。
BitMain社もそうであるように、当然のことながら自社でマイニングファームを運営しているマイニングマシンのメーカーは、最新のマシンの供給において自社のマイニングファームを優先するため、一般向けの流通は後回しにされるという現象が起こる。
つまり、マシンの入手ルートの確保も中国において相当深いコネクションがなければ難しい。
この点においても、香港ブラザーの中国でのメーカとのコネクションは心強い。
チベットでのマイニング事業を仕切っているブラザーである送金屋のジミーは、alpha X10を開発している企業のエンジニアのひとりをリクルートして杯を交わしている。
ZINCという男だが、先日チベットのマイニングファームを見学した際に現地でマシンのプレゼンをしてくれた。
結論として、マイニング事業が一般向けの投資案件として成り立つ条件は極めて厳しく、特にマイニングファーム立地の確保とマイニングマシンの調達に関しては、如何に巨大な資本を持つ大企業であっても中国本土に特殊なコネクションがなければ容易に障壁にぶつかると言えよう。
逆に、ファームの立地条件と、マシンの入手ルートが押さえられていれば運営リスクは限りなく小さくなると考えられる。
今回のチベット自治区におけるマイニングファーム運営案件は、そのような希少な確率で成り立っている事例だろう。