翌日―――
看病の甲斐あって、大野さんの体調は
すっかり良くなっていました。
「ありがとう、ニノ。手紙…ほんとに
ごめんね」
「…気にしないでください」
「うん、じゃあ、また…」
「さようなら。…気をつけて」
二宮さんは去ってゆく大野さんを見送って
その姿が完全に見えなくなったあとも、
いつまでもその場に立ちつくしていました。
そう、二宮さんはひとつの決心をして
いました。
…もう、手紙をだすのはやめよう、と。
自分のエゴで大野さんを危険な目に合わせる
わけにはいかない…
会えなくなるのは寂しいけれど、
大野さんに出会う前に戻るだけだ、と
自分に言い聞かせました。
さよなら、大野さん…
いままでありがとう…
その日を境に大野さんがお屋敷を訪ねてくる
ことはなくなりました。
それはそうです。
だって、届ける手紙が無いのですから。
二宮さんのお屋敷を訪ねてくる人は誰も
いなくなり、二宮さんはますます引き籠って
ゲームに明け暮れる日々を過ごしました。
季節が移っても二宮さんが外出することは
無く、ただ時折、窓から空を見上げては、
大野さんのことを想っているようでした。
そんな二宮さんのお屋敷のチャイムが鳴った
のは、良く晴れた春の日のことでした。
ピンポーン♪
久しぶりに聞くその音に、
最初は空耳かと思った二宮さんでした。
玄関の扉を開けると、
そこには、久しぶりに見る大野さんが、
全く変わらない笑顔で立っていました。
「ニノ!久しぶり」
…これは、まぼろし?
逢いたいと思いすぎたせいで、
とうとう幻覚が見えるようになった?
半信半疑の二宮さんは、恐る恐る手を伸ばし
大野さんのほっぺたをつねりました。
「いてっ」
「……」
「なにすんだよっ!」
「え…本物?」
久しぶりに会ったのにひでぇよ…
大野さんがそう言いながらつねられて
赤くなった頬を擦っています。
「…なんで?」
二宮さんが思わず疑問を口にすると、
大野さんは一通の手紙を差し出しました。
「ゆーびん…です」
そんなはずは…
二宮さんは何かの間違いだと思いました。
だって、もう手紙は出していませんし、
他に手紙が来るアテなどありません。
受け取った手紙をひっくり返すと、
差出人の名前は…
『大野智』
なんとその手紙は、
目の前の大野さんからのものでした。
二宮さんは、震える手で封を切り、
中の手紙を広げました。
そこに書いてあったのは、
―――とてもストレートな、愛の言葉
それは、大野さんから二宮さんへの
ラブレターでした。
二宮さんは、その文字を見たとたん、
手紙を握りしめたままその場に突っ伏して
泣き出してしまいました。
「わっ、え、なんで…!?」
突然泣き出した二宮さんに、
大野さんはどうしたらいいかわからずに
ワタワタしてしまいます。
自分の手紙が二宮さんを困らせたのかと
思って必死で言葉を足しました。
「ニノ宛の手紙がなくなって…
ニノを訪ねる理由がなくなって困って…
それで考えて、そうだ、自分で手紙を出せば
いいじゃん!って思ったんだけど…
―――ダメだった?」
不安そうに顔を覗き込んでくる大野さんに、
二宮さんは涙を拭って首を横に振りました。
「…今、お茶の用意をします。
良かったら、一緒に飲みませんか?」
そう言って微笑んだ二宮さんの笑顔は、
いつもお菓子を食べる大野さんの前で
手紙を読んでいた二宮さんが見せていた
あの幸せそうな笑顔と同じで―――
その笑顔が大好きだった大野さんは、
自分に向けられた二宮さんのその笑顔に、
とても幸せな気分になりました。
END