オーダースーツの仕様の1つに
「本切羽(ほんせっぱ)」
というものがあります。
これは袖口の釦穴(ぼたんあな)が
実際に開いている仕様です。
高級市販スーツで、
袖口に釦が付いておらずしつけ糸だけ、
というのを見たことは無いでしょうか?
これは購入時に袖の長さだけは
測ってもらい、後で本切羽仕様に
仕上げるためです。
市販のものでも
本切羽になっているものもありますが、
それだけでオーダースーツっぽく見えるからですね。
なぜ本切羽がオーダーの仕様なのかというと、釦穴は作り直し出来ますが、開いてしまった穴は元に戻せないから。
つまり、袖丈の修理が出来なくなるからです。
厳密にいうと肩で直すことも可能ですが、
より大掛かりな修理になってしまいます
昔はスーツは大変な高級品で、
親子2代、3代と受け継ぐのが当たり前でした。
その為、袖ボタンは通常4個付いているのですが、1番上の釦穴だけ開けずにそのままにしておいた、という話があります。
というのは、子供は親よりも大きくなることもままあります。
その時、袖丈を伸ばせるようにです。
つまり、1番上の釦穴は糸を取って無くしてしまい、1番下に新しい釦穴を作るのです。
スーツがそれだけ大切に受け継がれていたということでしょう。
今はスーツに限りませんが、
何でも安価に手に入るようになり、
良いものを永く着る、使う、という観念が
薄れています。
しかし今でも私の修行先のテイラーには、
お父様の形見だという素晴らしい手縫いのスーツが持ち込まれたりします。
こういうのを目の当たりにすると、
やはり良いものを大切に着る、
それを次の世代に伝えるということには、
大変大きな意味があるのでは無いでしょうか。
そういうことも、
オーダーを通してお伝えできればと
思っています。