スーツの小話(本切羽) | 船場ビスポーク店主・瀬島京子が2019年〜2020年に約1年間書いたブログです

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今は全ての人にセルフブランディングが必要な時代です。
自分に似合う色、アイテム、デザイン、スタイル…
自分自身を最大限に魅せる「マイスタイル」を見つけて、自信を持ってファッションを楽しんでください。

オーダースーツの仕様の1つに

「本切羽(ほんせっぱ)」

というものがあります。


これは袖口の釦穴(ぼたんあな)が

実際に開いている仕様です。


高級市販スーツで、

袖口に釦が付いておらずしつけ糸だけ、

というのを見たことは無いでしょうか?


これは購入時に袖の長さだけは

測ってもらい、後で本切羽仕様に

仕上げるためです。


市販のものでも

本切羽になっているものもありますが、

それだけでオーダースーツっぽく見えるからですね。




なぜ本切羽がオーダーの仕様なのかというと、釦穴は作り直し出来ますが、開いてしまった穴は元に戻せないから。


つまり、袖丈の修理が出来なくなるからです。

厳密にいうと肩で直すことも可能ですが、

より大掛かりな修理になってしまいますあせる


昔はスーツは大変な高級品で、

親子2代、3代と受け継ぐのが当たり前でした。

その為、袖ボタンは通常4個付いているのですが、1番上の釦穴だけ開けずにそのままにしておいた、という話があります。


というのは、子供は親よりも大きくなることもままあります。

その時、袖丈を伸ばせるようにです。

つまり、1番上の釦穴は糸を取って無くしてしまい、1番下に新しい釦穴を作るのです。

スーツがそれだけ大切に受け継がれていたということでしょう。


今はスーツに限りませんが、

何でも安価に手に入るようになり、

良いものを永く着る、使う、という観念が

薄れています。


しかし今でも私の修行先のテイラーには、

お父様の形見だという素晴らしい手縫いのスーツが持ち込まれたりします。


こういうのを目の当たりにすると、

やはり良いものを大切に着る、

それを次の世代に伝えるということには、

大変大きな意味があるのでは無いでしょうか。


そういうことも、

オーダーを通してお伝えできればと

思っています。