最後の挨拶~後編 | ぼんちゃんの株と恋の日記

最後の挨拶~後編

外で何か視線を感じた

美容室の仕事が休みのある昼下がり

まだ独身だった私は確かそのとき

台所で食べ物を物色してたのだろう


ふと台所の古い窓辺を見るとそこに人相の悪いネコが

じっとこちらを睨んでる

窓の外側のブロック塀に背を丸くして

今にも飛びかかってきそうな雰囲気だ


ドスの利いた声で何度も鳴いている


「おい!そこのおじょうさん

何か食い物はないかい?」とでも言いたそうに。。


冷蔵庫の中を早速調べてみる

天ぷらがあったのでそれをブロック塀のところに置く

人相の悪いネコはその天ぷらを用心深くくわえてさっと逃げた

どこか人に邪魔されない安全なところにでも持っていって

ゆっくり食べるのだろう


その日からそのネコは毎日うちに来るようになった

そのたびに冷蔵庫から何か食べ物を探して

ブロック塀におく

食べ物を置く位置を毎日少しずつずらして

ついに台所の中におびき寄せることに成功した


最初はおびえた様子で私があげる食べ物を食べてたその猫が

すこしづつ安心した様子で食べてくれるようになった


こうしてそのネコは我が家の家ネコになった

首輪も買ってあげて

最初出会った頃はかなり痩せてた体も

だんだんと太ってきた

目つきの鋭かった顔も徐々に柔和になっていくのが

毎日見てても分かった


「やっと私を信頼してくれたんだね」


美容室のスタッフがうちに数人遊びに来たときも

「わ~!可愛い!フクロウみたいな顔してるね」

と、たいそう人気があったものだ


そんな生活が一年も続いただろうか


そのネコがある日ふっと姿を消した


母に聞いてみても

「今日は帰ってこない」と言う


毎日美容室の仕事でくたくたになって疲れて帰る家に

必ずいたネコがその日はいない


何故かもう二度と会えないような予感がした


行き場のない悲しさ。。。

どうしようもない虚無感・・


最初出会ったときにまるで世の中のすべてに不信感を持ったような

あの用心深いまなざしが

だんだんと優しく変わっていったことが思い出されて

その日は言いようのない寂しさを抱えながらろくに眠ることも出kなかったっけ。。。


沈んだ気持ちのまま泣きはらした目でその日出勤した

私の顔を見てそのころ10数人いた美容室のスタッフみんながびっくりしてる


「どうしたの?」


その一言に抑えてた悲しみが一気にあふれた

朝、これからみんな仕事だと言うのに

「ネコがいなくなった」と一言言ったまま

涙が止まらなくなった


そんな私をスタッフのほとんどがあきれた顔をして見てた


そりゃそうだろう

いい年して(その頃確か26歳くらいだった)

朝からネコがいないとまるで子供みたいに泣いているのだから。。。。


毎晩家に帰って必ず

「ネコ帰ってきた?」と聞くが

ネコはどこにもいない


もう諦めよう

きっともうどこかで死んでるに違いない

ネコは死ぬ姿を決して人には見せないって言ってたもんな。。。


そう自分に言い聞かせ

忘れるように努力した


だんだんと悲しみも癒えた頃

ネコがいなくなって10日ほどたった頃だろうか

夜いつものように家に帰った私の目に

なんとあのいなくなったネコの姿が飛び込んできた。。。!


茶の間にいる父と母がそのネコをじっと見てる


「どうしたん!帰ってきたの?なんで!?」


信じられない思いでネコのそばに行くと。。。


そのネコは息遣いも荒く肩で息をしてる

ひと目見て「もうだめだ」と分かるほど衰弱してる


この10日間何があったのだろう

ネコは死ぬとき人目に付かないところで死ぬと聞いていたのに

このネコは命からがらこの家に帰ってきたのだ


その姿がまるで

「心配かけたね・・・

最後にひと目だけでも会いたかったんだよ

ありがとう・・・」

と訴えているように見えた


まるで最後の挨拶に再び姿を現してくれたように思えた


翌朝早くネコは死んだ

父が心配で一晩中ネコの様子を見てたらしい


最後に苦しそうな泣き声をあげたので

綿花に水を含ませて飲ませたそうだ

その水を少しだけなめて

それっきりクビをがっくりと落としたそうだ


「ドラマで人が死ぬときによくクビががくっとなるけど

あのとおりだったよ

かわいそうだった。。。。」


そのネコを看取った父も母も

もうこの世にいない


月日は知らぬ間に過ぎ去っていく


ちょうどあのネコが死んだ時期も

確か今ぐらいの時期だったろうか


確か茶の間にコタツが出てたから・・・


それから数え切れないほどのネコを見取ってきた

幾度経験しても決して永遠の別れに

「慣れる」と言うことはない


ただ

多くの別れを経験するうちに悟ったことがある


「命にはいつか終わりが来るのだ」

と言うことを。。





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