夜に星を放つ | つましくても、ささやかな幸せ

つましくても、ささやかな幸せ

地位もお金も能力も無くても得られる、日々のささやかな幸せを記します。
内容は、映画・演劇・美術鑑賞&読書感想文&旅行記&趣味の手品&日々の出来事などです。

 
 この物語の登場人物はみな運が良いとは言えず、決して幸福のまっただ中の人ではないが、心優しく懸命に生きている姿が愛おしかった。珠玉の物語ばかりの五話だった。
 『真夜中のアボガド』の綾は、婚活アプリで知り合った麻生さんが既婚者だったという落胆から立ち直り、早世した妹の弓の分まで、前を向いて生きていったほしい。
 『銀紙色のアンタレス』の真は、彼に告白した幼なじみの朝日を拒み、人妻のたえさんに「好きです」と思いを伝えた。その真っ直ぐな心に好感がもてた。
 『真珠星スピカ』の亡くなった母は、心配だった我が子みちるを守るために幽霊として現れたのだろうか。幽霊の母がみちるをいじめっ子から救い、みちるが独り立ちできるようになった時に安心して去って行った。
 『湿りの海』の沢渡は、離婚により別れた我が子と妻との生活への郷愁から、シングルマザー船場さんに惹かれていったのだと思う。娘の沙帆ちゃんとも仲良くなったが、船場さんは元の夫の元に去って行ってしまった。再び訪れた彼の孤独を、宮田さんが癒やしてほしいと願わずにはいられなかった。
 『星の随に』の想君は、離婚により実の母と別れ、父と継母と継母の息子の赤ちゃんと暮らしている。そんな家庭環境でも、決していじけず心根の優しい子供に育っていることに感動した。1人暮らしの老人佐喜子さんとの交流も、ほのぼのとしていた。「父さんのことも好きだよ。僕のまわりには好きな人しかいないよ」という彼の言葉に心打たれた。