いよいよ3週間後に迫ったMt.富士ヒルクライム。先日の都民の森ヒルクライムでのあまりに不甲斐ないタイムに、平日の夜練習も含めてしっかりトレーニングに励もうと決意したにも関わらず、実はこの2週間まったく自転車に乗っていない。GW中に足の裏のタコをカッターで削っていた際、酔った勢いで角質を貫通して流血騒ぎとなり、すぐ治ると思いきや中々良くならないのだ。ちょうどペダルを踏む際に力がかかるところであり、無理をしてさらに悪化させるわけにはいかないので、やむなく大人しく過ごしていた。しかし、本番は全長24kmにおよぶ富士スバルラインを走る長いヒルクライムとなるので、できれば事前に一度は走って全体像を把握しておきたい。この週末はよく晴れそうなのでとりあえず現地に向かって試走してみることにした。

 我が家から本番のスタート地点までは約90km。ヒルクライムコースも含めると往復230kmほどと距離的には自走で行けないこともないが、まだ痛む足の裏を考えると無理はできない。今回は車載で現地入りすることにして、渋滞を避けるため午前6時過ぎに家を出る。横浜町田ICから東名高速に入ってしばらくはノロノロ運転となるが、以降は快調に走る。頭上には雲一つない青空が広がり、やがて前方にはきれいな富士山の姿が。五合目に至る富士スバルラインは未見のルートだが、果たしてどのような眺めを楽しむことができるか期待が膨らむ。御殿場インターから一般道、有料道路を走る間もずっと行く手には巨大な富士山が佇んでいる。

 8時過ぎ、レース前日の受付会場となる富士北麓公園の駐車場に到着。周囲には同じく試走するであろうサイクリストの姿も見られる。準備を済ませて出発し、少し坂を登った先がスバルライン入口の交差点だ。8時半過ぎ、気持ちを整え満を持してペダルを踏み出す。事前にYoutubeなどで予習したところによると、ここから料金所までは無理をしない、前半は抑え気味にといったアドバイスが多かったが、いきなりそこそこの傾斜で足が重く先が思いやられる。

 料金所で通行料200円を支払ってゲートをくぐり、いよいよスバルラインへ。ロードバイクを始めてすぐの頃は、年齢の割にはそれなりに体を動かしてきたはずという自負もあって、難病持ちとはいえ1時間半を切るブロンズぐらいは狙えるのではないかと軽く考えていた。しかし、これまで各所のヒルクライムスポットでタイムを計測してきた結果、残念ながらブロンズどころか2時間切りも難しいことが判明した。まずは2時間切りを目標に定めて走り始めるが、すぐにバテてしまう。とにかく足が重くて思うように回らない。とはいえ、青い空の下で目に眩しい新緑の緑に包まれて走るのは、疲労さえ度外視すれば最高に気分が良い。思わず自転車を止めて撮影してしまう。

 手元のサイコンで経過時間と距離をにらみつつ、徐々に腰が痛み始めたので2合目で降車して少しストレッチをする。ここまでの疲労度合からすると、残念ながら2時間切りは難しそうである。ここからはもうタイムを考えずに、トレーニングも兼ねて足をつかないように登ろう。たまに傾斜が緩むこともあるが、基本的にはずっと登り基調なので足を休める暇がない。どんどん疲労が蓄積され喘ぎながらペダルを漕ぐ脇を、いかにもクライマーといったスリムな体型のサイクリスト達が軽快に追い抜いていく。彼我の圧倒的なスピード差には感嘆するしかない。それでも何とか足をつかずにスローペースで進むが、4月に崩落して現在復旧工事のため交互通行となっているところで一時停止を余儀なくされる。

 すぐ上の大沢駐車場からは、南アルプスの稜線が一望できる。素晴らしい眺めに足を止めて撮影したい誘惑に駆られるが、お楽しみは下りに取っておこう。いつの間にか標高は2000mを超えている。考えてみれば、標高が上がればその分心肺に負担がかかるわけで、心臓に難病を抱える身にとっては条件はさらに悪化することになる。心拍数も150前後と、年齢的に上限と思われる166には遠く及ばない。ペースが上がらないことに関する都合の良い理由はいくらでも思い浮かぶ。残り3kmぐらいからはしばらく平坦な道が続くので、調子に乗って全開でペダルを漕いだところ、ラスト数百mで再び傾斜が増して完全に限界となり、フラフラになりながら何とかゴール。タイムは2時間10分。道中は4人のサイクリストを抜かし、恐らく100人以上に抜かされるという結果となった。2時間切りには遠く及ばなかったが、仮に参加者の中でも50代の難病患者限定ランキングなどがあれば相当上位に食い込めるはず、と前向きに考えることにする。

 導入したばかりの新型ロードバイクだが、このタイムでは完全に猫に小判状態であるとしか言いようがない。ただ、現状はほぼまともにトレーニングしていないので、本番までに努力をすればそれなりに伸び代はあるだろう。相変わらず雲一つない五合目の駐車場は、大勢のサイクリストと外国人観光客で溢れている。タイムこそ残念ではあったが、ここまで苦労して上ってきただけに気分は爽快である。存分に周囲の景色を堪能してからウインドブレーカーを着用し、下山を開始する。先程素通りした大沢駐車場に立ち寄って、昨年登った北岳から間ノ岳、農鳥岳、さらに荒川三山から南アルプス深南部に至る稜線を眺める。

 恐らくあの長い稜線のうち、7割ぐらいは歩いているのではないだろうか。機会があればぜひ再び訪れたいところだが、まずは眼の前のロードバイクでもう少し頑張らなければならない。まだまだ大勢のサイクリストが登ってくる中、快調に下っていく。上りはスローだったので気づかなかったが、意外と路面が荒れていて気を使う。直線ではすぐに時速50kmを超えるが、カーブではできるだけ減速して安全な下山を心がける。

 上りはあれほど苦労したというのに、下るのはあっという間だ。12時半に料金所に到着。ここまで十分に疲労は蓄積しているが、遠征サイクリングにも関わらず走行距離はまだ50kmほどとやや物足りないので、すぐ近くの河口湖界隈を軽く周遊することにした。せっかくなので、2016年に自身初のフルマラソンとしてチャレンジした富士山マラソンで走ったルートを辿ってみたい。まずは、長い下り坂を下って河口湖方面へ。地元名物の吉田うどんも気になるが、リサーチするのも面倒なので途中のコンビニで腹ごしらえをして湖岸の周遊コースへ。マラソンで一度しか走ったことのない道だが、意外と記憶に残っている。相変わらず空には雲一つ無く、随所で雄大な富士山の展望を愉しむことができる。

 外国人観光客なども多く見られる河口湖を半周してからは西湖方面へ。マラソン大会時は急な登り坂で泣かされたこの近辺は、ロードバイクでも同様に厳しくてスローペースで這い上がる。懐かしいバス停を見つけて思わず一枚。

 前回、マラソン中に発見して思わず撮影し、友人たちのLINEグループに送ったところ大いにウケたものである。ここ数年悩まされている薄毛はステロイドの副作用によるものと記憶が改竄されつつあるが、実は当時から大いに気にしていたということを思い出して少しブルーになる。トンネルをくぐってようやく西湖に到達してからは、やや向かい風が厳しい中でのんびりと走る。賑やかであった河口湖に比べると自動車や観光客は少なく、静かなサイクリングを愉しむことができる。余力があれば息子とワカサギ釣りで何度か訪れた精進湖、さらに本栖湖あたりまで足を伸ばしたかったが、そろそろ疲労が顕著になってきたので以降は富士山一周にチャレンジする際のお楽しみとして、今日のところはそろそろ引き返すことにしよう。

 河口湖に戻り、残り半周を走る。不思議とマラソン大会時のエイドの場所なども覚えているものである。当時、30kmを過ぎたあたりでふくらはぎが攣りそうになり歩くことも多くなったが、最後の数kmぐらいはしっかり走ってゴールしようと懸命に足を進めていた時、沿道の皆さんから温かい声援を送ってもらったことが大きな力となったこともはっきりと覚えている。5時間15分と今思えば平凡なタイムでのゴールであったが、完全にフルマラソンの魅力に取り憑かれることになった思い出深い瞬間である。とはいえ、翌年末に心サルコイドーシスが発症したことで、結局フルマラソンを走るのは3回で打ち止めとなってしまった。ロードバイクに乗るようになった今では、運動量的に激しすぎるランニングをしたいとはまったく思わなくなったし、当時よくあれだけランに対するモチベーションが保てたものと不思議ですらある。それでも大会独特の高揚感や完走後の達成感は忘れがたい。今回の富士ヒルで、少しでもそうした体験ができると良いのだが。そのためにも、あくまでも無理は禁物だがもう少しトレーニングに励むことにしよう。最後は長い上りを経て、無事駐車場に到着。本日の走行距離は96km。好天に恵まれて気持ちの良いサイクリングとなった。帰路の高速道路も大きな渋滞はなく、18時過ぎ無事に帰宅。初めて走った富士スバルラインは、レース云々を抜きにしても雄大な眺めが楽しめる素晴らしいサイクリングコースだった。本番も同じく晴天に恵まれることを期待したい。