昨夜、都心で初雪が観測され、我が家の周辺でも積もるほどではないがそこそこの降雪となった。当初予定では150㎞を超えるロングライドに出かけるつもりであったが、こうなっては丹沢周辺の積雪が気になってくる。ウェブで検索してみると、どうやら現地は程々に積もっているらしいので、予定を変更して今年初の登山に出かけることにした。ただ、終日雲ひとつない晴天という天気予報からすると、せっかくの積雪も恐らく午後にはある程度溶けてしまうだろう。とにかくスピード勝負ということで、始発のバスに乗車すべく午前5時にタイマーで起床する。毎度のことながら、休日のサイクリングや登山などではどんなに睡眠不足でも一発で目が覚めるのが不思議である。階下に降りると、ダイニングテーブルでは何故かノートPCを前にした娘が一心不乱に大学の課題に取り組んでいた。一般的には、こんな時間まで勉強していることを褒めてやるべきところだが、彼女の場合は厳密には昼夜が逆転して勉強するタイミングがシフトしているだけなので、どんな言葉をかければ良いのか悩ましい。とりあえず課題の内容について尋ねられたことに軽く助言しつつさっさと着替えを済ませ、5時25分に家を出る。久しぶりの冬山なので大事を取って厚手のグローブやネックゲーター、軽アイゼンを用意し、冷え込む山頂でラーメンを食べるためのコンロ一式なども詰め込んだため、いつもより重めのザックが肩に食い込む。駅のホームで電車を待ちつつコンビニで仕入れたパンを食べ、ルーティンの薬8錠を飲む。ステロイドを飲み始めてはや6年。今やすっかり生活の一部になったとはいえ、面倒なことに変わりはない。能登半島地震で被災した難病患者の方々は、果たしてちゃんと服薬できているのだろうか。自宅でも、災害時には数週間分の薬をすぐ持ち出せるよう準備しておいた方が良いかもしれない。

 眠気のあまり車内で転寝しつつ辿り着いた渋沢駅から眺める丹沢の山々には、残念ながら樹氷は見られないものの山肌はそこそこ白く雪化粧をしている。はやる心を抑えて乗車した始発のバスは、同じく雪歩きを求める登山者で満員となった。登山口となる大倉バス停で準備をしながらも、東の空を染める美しい朝焼けに目を奪われる。

 7時10分、大倉をスタート。残念ながら周囲に積雪は見られないが、標高を上げればそれなりに新雪を拝むことができるだろう。大倉尾根から塔ノ岳に登った後にどうするかは未定だが、宮ケ瀬方面は雪が深くなりがちなので避けたいところだ。鍋割山に向かうか、場合によっては表尾根から先週自転車で訪れたばかりのヤビツ峠に下りるのも良いかもしれない。何れにしても、明日は仕事なのであまり無理はできない。見晴小屋を過ぎて急な階段を登ったあたりから、徐々に雪が目に入り始める。

 

 毎度、厳しい階段攻めに苦労させられる大倉尾根だが、本日は不思議と身体が軽い。いつもは途中で立ち休憩なども余儀なくされるところを、実に良い調子で歩くことができる。前回の丹沢主脈縦走時もそうだが、こと登りに関しては自転車で少しは心肺機能が鍛えられているのだろう。堀山の家に8時40分と、まずまず悪くないペースだ。小屋前から今日初めて見る富士山は、雲ひとつなく良い雰囲気である。そのまま軽快に進み、軽い岩場やキツい階段を経て9時10分、花立山荘に。いつもながら、ここから振り返って見る相模湾は高度感があって良い雰囲気だ。

 このあたりになると、気温が徐々に上がって陽の当たるところでは雪が少なくなってくる。やはり、雪山を楽しむにはやや積雪量が不足していたようだ。9時40分、塔ノ岳山頂着。

 強い風をまともに浴びる山頂はさすがに厳しい冷え込みで、先程までの汗が一気に冷えていく。慌ててダウンジャケットを着込み、写真撮影に取り掛かる。表尾根、大山方面も今ひとつ雪が少ないようだ。

 ちょうど1週間前は自転車で画像中央付近と思われるヤビツ峠に登っていたと思うと、なんとも不思議な気がする。富士山は本日も雲ひとつ無い青空に映えて、見事な眺めである。

 ひとしきり景色を堪能した後は、やや早いがランチとする。久しぶりに持参した「蒙古タンメン中本」のカップラーメンを食べるべく、コンロに火を入れる。

 きれいな富士山を前にする食事は爽快だが、いかんせん風が強くて身体がどんどん冷えていく。ダウンジャケットのフードを被っても耐え難いほどの寒さだが、その分温かいラーメンの有り難みも倍増するだろう。しかし、肝心のコッヘル内の水がいつまでたっても沸騰しない。いくら寒いといっても不自然である、と不審に思ったところで大きな過ちに気付いた。本来、冬期はボンベの印字が赤いフォントの「ハイパワーガス」を使うべきところだが、本日は何も考えずに黒フォントの「ノーマルガス」をパッキングしてしまったらしい。これでは勢いがないのも当然である。それでも、炎自体はそれなりに出ているので時間をかければいずれは沸騰するはずと考えてひたすら待つが、残念ながらまったく沸騰する気配を見せないため、結局20分以上コンロを炊き続けたところであきらめてカップにお湯?を注ぐ。

 指定通り5分間待機した後、期待と不安が入り交じる中で蓋を開けると、やはり立ち上る湯気の類は一切見られない。カップ内の透明度が高いのは、粉末のスープはほぼ溶けていないからだろう。麺の方も一見してまったくほぐれていない。せめて撹拌だけはしっかりやろうと箸でカップ内をかき回すが、麺はほぼ出荷されたそのままの形でクルクル回転するのみである。予想以上に湯温が低かったらしく、その見た目といい手にしたカップ表面から伝わる温度といい、最早まったく食欲が刺激されることはなくなった物体を前に途方に暮れる。しかし、本日は残念ながら他にめぼしい補給食も持ち合わせていないし、そのまま廃棄するのさすがにもったいない。意を決して、絡み合ったままほぐれない麺を持ち上げてすすってみる。いや、硬すぎてすすれないのでそのままかぶりつく。冷えきった麺は、小麦粉で雑に作ったスナックのような食感である。蒙古タンメン中本の特徴的な辛いスープでなんとか食べ進むうちに、身体だけでなく心も冷えていくような気がする。「辛いものを食べて体を温める」的な言い回しをよく聞くが、あれはあくまでも「暖かくて辛いもの」というのが前提としか思えない。それでも何とか麺を食べ終わり、一応お約束として雑炊を食べるべく、何も考えずに今朝方購入してきた白飯おにぎりを投入してみたが、これは酷い悪手であった。ザック内で存分に冷やされたおにぎりによって今やカップ内は完全に冷え切ってしまい、そんな冷たい雑炊もどきを食しているうちにモチベーションが果てしなく下がっていく。もう今日はこのまま大倉尾根を戻ってさっさと下山することにして、10時40分下山開始。

 派手に膝を痛めた前回の丹沢主脈縦走時とは異なり、まだフレッシュな状態なので前の登山者を抜かしながら良いペースで下っていく。しかしながら、膝への負担を極力軽減すべく意識していたにも関わらず、残念ながら終盤の見晴茶屋あたりから徐々に痛み始め、最後の大倉バス停付近では結局結構な痛みとなってしまった。長めのルートならともかく、大倉尾根往復ごときで膝を痛めてしまうようであれば、今後の登山に暗雲が垂れこめざるを得ない。こうして膝を痛めても翌日には綺麗に治っているので、中々病院へ行こうと思えないのも厄介だ。何れにしても、登山の頻度を増やしてある程度膝周辺の筋肉を強化すれば少しは良くなるのかどうか、時間はかかりそうだが慎重に見極めたい。