ロードバイクに乗り初めて以来、電子雑誌配信サービスで関連雑誌のバックナンバーを読み漁っている。身体作りからポジショニング、機材関係など初心者にとって有益な情報を学びつつ気になるのが、どうやらサイクリストというのは湖や島、半島を一周する「◯◯イチ」なるものを好んでいるらしいということだ。ビワイチ(琵琶湖)やカスイチ(霞ヶ浦)、アワイチ(淡路島)、イズイチ(伊豆半島)などが有名で、いずれもそこそこ距離の長いロングライドになる。個人的には近い将来フジイチ(富士山)にチャレンジしたいと考えているが、比較的近場のミウイチ(三浦半島)も大いに気になる。電車を利用して横浜あたりを出発地とする輪行ならともかく、自宅からのスタートだと全体で150kmは軽く超えてしまうが、山岳地帯に比べるとアップダウンは比較的控えめなので先週の山中湖チャレンジよりはハードルは低そうだ。ちょうど昨日、長距離を走る際のリスクヘッジとして輪行袋を購入したところであり、京急線が走る三浦半島であれば途中リタイアとなっても最悪電車で帰ってくることができる。輪行袋を収めるため新たにフレーム上にもバッグを増設し、万端の準備を整えて7時40分に自宅を出た。
 先週に比べるとさほど冷え込んでおらず、気持ちの良い青空のもと境川サイクリングロードから環状4号へ。初めて走る道路だが路面状態は良好で、快調に飛ばしているとすぐに汗が噴き出してくる。しばらく平坦な道が続いた後、細かなアップダウンを経て六浦の交差点に。ここを左に曲がれば船釣りで何度も通った金沢八景だが、本日は右折して横須賀方面へ。トンネルが多い横須賀街道を抜けて9時50分、最初の目的地であるヴェルニー公園に。
 残念ながら自衛隊の潜水艦は停泊しておらず、米海軍のイージス艦と記念撮影。家族揃って遊覧船「横須賀軍港めぐり」に乗船したのも今は昔、その11年後にたった一人で、しかも自転車に乗って再訪するとは夢にも思わなかった。タイムスリップして11年前の自分に事情を話しても、荒唐無稽過ぎて絶対に信じないだろう。自宅ここまでは45kmほど、余力は十分なのでそのまま進んで次なる目的地である三笠公園へ。ここは大勢の観光客で混雑しており、サイクリストのグループも数名。一部で知られる東郷平八郎サイクルラックで一枚。
 猫を飼い始めて以来、中々ゆっくりと模型を制作する環境にないが、こうして三笠を眺めているとふつふつと制作意欲が湧いてくる。我が家には大小2種のハセガワ製三笠のキットがディティールアップパーツ込みで待機してるので、何とか制作に取り掛かりたいところだ。まもなく迎える新しい年の抱負にしよう。少し休憩して息を整え、汗が引いたところで出発。事前のリサーチでは近所の「中井パン店」のポテチパンが美味しいらしいので立ち寄ってみたが、どういうわけか店舗にはシャッターが下りている。朝の早いパン屋がまさか開店前とは思えず慌ててググってみたところ、日曜日は休業だとか。自らの情弱ぶりに落胆しつつ、気を取り直して観音崎を目指す。やがて、南国らしいヤシの木が立ちならぶ馬堀海岸に。
 綺麗な青空にヤシの気がよく似合う。手漕ぎボート釣りやビシアジ釣りで馴染みのあるこの辺りから、徐々にアップダウンがキツくなってくる。まだ先は長いので登り坂では極力セーブしつつ、途中で道路を外れて観音崎ボードウォークへ。海岸の直ぐ側に柵のない散歩道が整備され、開放感あふれる散歩道となっている。
 釣り人なども見られる一帯をのんびりと走ると、観音崎灯台の麓に。すぐ向かい、海上交通の要所である浦賀水道は本日も巨大なタンカーや貨物船、さらに乗り合いの釣り船などで混み合っている。
 灯台のすぐそばまで登れるようだが、自転車は進入禁止らしいので今日のところは見送ってそのまま南下する。海岸線沿いに点在する小さな港は、いかにも日本の正しい漁港といった風情があって良い雰囲気だ。この界隈にしては大きめの船が並ぶ浦賀ドック付近でも少し休憩し、久里浜へ。多くの家族連れで賑わう砂浜を過ぎたコンビニでドリンク、ゼリー状飲料を購入。まるで春のような陽気にすでに全身汗まみれである。本日もレイヤリング的には真冬装備すぎて失敗だが、登山と同様この時期に寒さに震えるよりは暑すぎて汗を掻いている方がましと考え、つい厚着をしてしまう。
 ウインドサーファーたち大集合している野比海岸を経て、12時ちょうど三浦海岸に到着。ここは2016年に自身2回目のハーフマラソンチャレンジとして参加した「三浦国際市民マラソン」のスタート地点だ。当時はまだ心サルコイドーシスの発病前で、ネットタイムが1時間59分21と目標にしていた2時間をかろうじてクリアすることができたのは良い思い出である。大会後、参加者がみな参加賞の巨大な三浦大根をぶら下げて駅に向かっているのが何ともシュールな光景であった。本日も当地の冬の風物詩として、海岸には膨大な数の三浦大根が干されている。
  たかが大根でもこれだけ並べば壮観である。そろそろ昼食ということで、ミウイチのセオリーとしてはこの先の三崎港で名物の海鮮丼を堪能するべきだが、観光客で賑わう飲食店内に激しく汗まみれのサイクルジャージで入るのも気が引けるため、近くのコンビニでおにぎりなどを購入して適当に済ませる。海岸線からやや急な坂を登ると、あたりは三浦大根の畑が広がる長閑な風景に。トイレ休憩として巨大な風車が並ぶ宮川公園に立ち寄る。
 この辺りの風景は、ハーフマラソン時の記憶が少し残っている。この先、城ヶ島の折返し地点から早くも戻ってきたトップグループとすれ違い、そのスピードに愕然としたものである。その城ヶ島大橋を渡り、カーブを下って島内へ。それなりに見どころの多く賑やかな観光地だが、あまり時間もないので長津呂の磯のみ見学する。
 再び城ヶ島大橋を渡って三浦半島に戻る。観光客はバス移動が多いのか、橋の上は意外と乗用車が少なくて走りやすい。周囲の地形に対する高度感も中々のもので、開放感あふれる気持ちの良いサイクリングを楽しむことができる。
 橋を渡り終えて三崎港に降りると、城ヶ島以上に多くの観光客で混雑している。メーン施設の駐車場近辺で入庫を待つ車列や長い行列が並ぶ海鮮料理店などを横目にそのまま海岸沿いを進み、油壷を過ぎてからはしばらく内陸部を走ることになる。周囲は一気に自動車の交通量が増えるが、道幅は広いので走りやすい。自衛隊の駐屯地を超えたあたりで一旦ルートを外れ、関口牧場へ。名物のソフトクリームが目当てだが、人気が高いらしく15分ほど待つ羽目に。たかがスイーツごときで待たされるのは業腹だが「結構なボリュームなのである程度空腹な状態で食べるべき」という事前の情報に忠実に十分お腹を空かせてきたので、仕方なく列に並ぶ。ようやく手にしたソフトクリームは、確かに大き過ぎて圧倒される。
 見た感じではとても1人前の分量ではない。すぐ近くに腰を掛け、牛の鳴き声と若干の悪臭が漂う中、少しずつ胃袋に収めていく。普通のソフトクリームなら音を上げるところだが、濃厚すぎずにあっさりとした味わいなので意外とスムーズに食べることができる。味はまぁまぁ、これで400円とはコスパ的には言うことなし。ただ、サイクリングの補給食としては栄養分が偏りすぎて不適かもしれない。
 再び134号線に戻り、少し海沿いにルートを外れてカワハギ釣りで訪れたことのある佐島漁港などを見学し、長者ヶ崎でトイレ休憩の後にこちらもボート釣りで来たことのある森戸海岸を通過。葉山マリーナあたりは行楽帰りらしき自家用車で大渋滞していて閉口する。何とか前に進み、渚橋を渡って逗子海岸を過ぎるとすでに何度かサイクリングで訪れたことのある由比ヶ浜だ。そろそろ日没というのに多くのレジャー客で賑わうビーチを眺めつつ、再び渋滞する車列をすり抜け江ノ島に向かう。途中、片瀬海岸の波間に夕陽が映り込んだビーチを撮影。
 素晴らしい眺めに言葉を失う。16時ちょうど、江ノ島に到着。江ノ島大橋を渡りながら、ふと「今日も無事に返ってくることができた」と安堵している自分に気付く。この後、自宅まではまだ35kmほど走らなければならない。今年の夏は、ここ江ノ島に来るだけでも大冒険であったのだ。人の思考とはたかが4カ月程度でかくも変化するものなのか、距離に対する感覚が完全におかしくなっていることをあらためて実感する。さすがに疲労は蓄積しているものの、帰宅に関して問題はないだろう。島内を軽く散策し、防波堤から沈みゆく夕日を眺める。
 時間の経過とともに、一帯を染めるオレンジ色が濃くなっていく。すぐ近くの釜ノ口では、まだまだ多くの人々が磯遊びに興じていた。
 昼間の暖かさが嘘のように急速に気温が下がり、インナーウェアに染み込んだ汗で徐々に体が冷えてくる。このまま陽が沈むまで粘りたい気もするが、本日は娘が自身21回目の誕生日だというのに関西方面で韓流アイドルコンサートやUSJ観光などで遊び呆けており、一方の息子は夜遅くまで友人と飲みに行っているはずなので、そろそろワイフが一人寂しく待っているであろう我が家に帰らなければならない。先週も走ったばかりの暮れなずむ境川サイクリングロードを快調に北上し、しかし自宅まであと10kmというところで完全にエネルギーを使い果たしてしまった。考えてみれば、牧場のソフトクリーム以降、夢中でペダルを漕いできたので何も食べていない。慌ててコンビニでおにぎりを購入して貪り食うと、たった一つのおにぎりですっかり回復して18時30分無事に帰宅。寂しがっているはずのワイフは、誰にも邪魔されずに猫と二人でのんびりと過ごした最高の休日となったらしくご機嫌であった。本日のライドも先週に続いて170kmを越えた。この調子で身体を慣らしていけば、200kmのブルベなら完走できるのではないか。妙な目標を立てるとまた家族に呆れられそうだが、関連団体が公開する実際のルート図を眺めながらそんな妄想を止めることができない。