ロードバイクを購入して早くも2カ月半が経過した。この間は、手探りながらも色々なところに出かけ、53歳にして新しく経験する出来事に大いに心が踊った充実した日々であった。ランニングほどハードではないため、ウイークデーでも夕食後に尾根幹線などを周回する40km程度のライドを繰り返し、少しずつながらも着実に走力がアップしていると実感できるのも嬉しい。そんな健康的な生活が功を奏したのか、このところ心臓の調子が実に良好だ。少し前までは頻発する不整脈に大いに悩まされたものだが、ここ1カ月ほどはApple watchで心電図を測定しても概ね綺麗な波形となっている。急速に熱心に取り組みすぎて、あっという間に飽きてしまいそうな恐れもあるが、当面はできる範囲でロードバイクを活用した鍛錬を続けたい。

 そんなわけで、すっかり秋らしくなり良く晴れそうなこの土曜日は、久しぶりに100㎞を超えるロングライドに出かけるべく行き先を物色する。ウェブで色々とリサーチした結果、何となく奥多摩方面の都民の森が気になってきた。ヒルクライムのルートとして有名らしく軽い気持ちで腕試しをしたくなるが、問題は我が家から65㎞を超えるというロケーションだ。遠方からのアクセスとしては、JR武蔵五日市駅まで電車を利用して輪行するというパターンが多いようなので、少し前に自作した遠征用車載システムのデビューも兼ねて現地まで車で出かけることも検討する。

 しかし、往復140㎞弱というのは自身の現在の脚力からするとちょうど良い塩梅に挑戦しがいのある距離であり、自走で現地まで向かうのも面白そうだ。距離と獲得標高を考えると果たして可能なのかどうか自信は持てないが、最悪途中で引き返しても問題はないか、と考え思い切って実行することにした。

 今朝は6時に起床し、なぜか朝だけは甘える傾向にある猫の相手をしつつ準備を済ませ、7時に出発。スタート地点となる武蔵五日市駅までは38㎞ほど。ここで脚を消耗してはヒルクライムどころではないので、時間的に余裕のある本日はとにかく脚に負担をかけないよう、時速25㎞ぐらいのペースでのんびり走ることを心がける。昨日の天気予報では晴れるはずだったが、上空には曇り空が広がり肌寒いぐらいだ。町田街道から国道16号線に入ると結構なアップダウンがあって、帰路のことを考えると不安がよぎる。八王子市街を抜けてからは、ひたすら秋川街道を進む。交通量も減って走りやすいが、基本的にずっと1~2%の登り勾配が続くので徐々に疲労が蓄積されていく。9時過ぎ、ようやく武蔵五日市駅に到着。

 6月に友人たちとのグループ登山の下山地点として訪れて以来、4カ月ぶり2回目となる。ちなみにこの駅から我が家の最寄り駅まで、電車ではざっと1時間40分程度。ここまで自転車で2時間ほどと考えると、人間の脚力も捨てたものではない。輪行組らしきサイクリストたちが軽やかに駆け抜けていく中、すぐ近くのコンビニでおにぎりを食べながら作戦会議とする。ここから都民の森までは30kmほど。帰路も合わせるととまだ全体で100kmほどの行程が残っているが、時間的には余裕があるので無理をしなければなんとかなりそうだ。相変わらず曇り空で、標高が上がったことによりさらに涼しくなり、発汗もそれほどではない。ボトルのスポーツドリンクはまだ半分以上余っている。満を持して走り出し、ヒルクライムのタイム計測スタート地点となる橘橋に着いたのは9時40分。といっても、タイム云々をカウントする余裕はまったくないので、とにかくゆっくりと登って無事目的地に辿り着くことのみを意識する。無心でペダルを漕いでいると、いつの間には上空には青空が広がりはじめ気温も上がっていく。

 果たしてどれぐらいのペースが適当なのかわからないので、ちょうど良さそうなペースと思われる前方のサイクリストに少し距離を空けてついていく。たまに凄いスピードで登るガチなサイクリスト達に抜かされるが、まぁこれは宇宙人みたいなものと呆れるしかない。こうしたサイクリストに加え、ツーリングを楽しむ大排気量バイクやオープンスポーツカーなど、峠道を楽しむ人々で交通量はかなり多く、中にはロータス・ヨーロッパやフェラーリF355など珍しい車ともすれ違う。標高が上がるに連れ、頭上が開けて眺めが良くなってきた。

 気持ちの良い青空の下、身体はキツイが精神的には実に良い気分で走ることができる。こうした峠道は、それこそ遠征登山の際の登山口へのアプローチをはじめ自動車では散々各地を走ってきたが、やはり自らの足でペダルを漕ぎ登ってきて眺める景色はまったく印象が異なる。

 このルート、前半は比較的なだらかで走りやすいが、最後の数kmは斜度が一気に上がってペースが落ちてしまう。前回の裏ヤビツでの経験を踏まえ、今回はできれば足をつかずに登りたいので、10%を越えそうなところでは歩くのと大差ないぐらいのスローペースで進む。道中の写真はすべて走りながら撮影しているので、残念ながらゆっくりと構図を詰めることができない。

 最後の1kmなどは恐らく7分以上かかっていると思う。もう少し心肺に負担をかけてペダルを踏みたいところだが、帰路のことを考えると無理はできない。周囲の絶景を楽しみながら、それでも最後は相当疲労困憊の状態で11時過ぎ、ようやく都民の森に到着。

 ここまで1時間30分弱というのは、1時間を切れば脱初心者といわれる当地のヒルクライムのタイムとしては酷いものだが、心地よい達成感に包まれてあまり気にならない。駐車場周辺はバイカーやサイクリスト、登山者などで大賑わいだ。サイクルラックに自転車を停め、売店を物色する。お団子やカレーパンが名物らしいが、せっかくなので好物のそばをいただく。

 塩分のきいたそばつゆが、汗まみれの身体に染み渡っていく。予定通りの行程を消化できた満足感に包まれながら1時間近くゆっくりと休憩し、いよいよ下山開始。前回のヤビツ峠もそうだが、ヒルクライムなるものは達成感こそ大きいものの道中は大変つらい思いをすることになるが、ダウンヒルの方は実に爽快でシンプルに楽しい。死にそうな顔をして反対車線を登ってくるサイクリストたちを横目に、風を切りながら相当なスピードで下っていくのはある種の快感でもある。

 快調に走って無事に下山し、武蔵五日市駅近くのコンビニで少し休憩をする。ここから自宅までは40km弱戻ることになるが、自身の中で距離に対する感覚が明らかに変化しつつあることを認識する。冷静に考えると結構な距離だが、まぁ急がなければ問題ないだろうとそれほどプレッシャーを感じることはない。ロードバイクを始めるまではまったくありえなかった感覚だ。とはいえ、やはりそれなりに疲労が蓄積していく中、事故にだけ気をつけながら淡々とペダルを漕ぐ。多少なりとも余裕があるのは、過ごしやすくなった気温のおかげだろう。考えてみれば、ロードバイクを購入したのは8月初旬。以来、自転車に乗るのはまさに暑さとの戦いで、ひたすら汗をかいては水分を補給するという繰り返しであったので、本日ぐらいの気候では大幅に消耗の度合いが少ない。途中の登り坂ではさすがにペースが落ちるものの、順調に走って16時ちょうど帰宅。シャワーを浴びてから、stravaで本日のライドを振り返る。走行距離140km強、獲得標高は1680m。いずれも過去最高となるこの数字だけを見れば、富士山を一周するいわゆる「フジイチ」は何とかなりそうだ。また、神奈川県と山梨県を結ぶ「道志みち」を経て山中湖へ、というルートも現実味を帯びてくる。行動範囲が広がればその分、行きたい所も増えていくのは困ったものではあるが、パーツ購入などの野心を抑えさえすれば趣味としては相当安上がりではあるので、焦らず少しずつ精進しよう。