「内部告発者が受けた仕打ちを見て、私は自分の考えを変えた。違法な報復行為を刑事罰で抑止せざるを得 | 韓国の森3

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2014~2024~

 

職場で上げられるべき声が上げられないとき、だれもが押し黙ってしまったとき、私たちみんながその潜在的な被害者です。 

 

職場のハラスメントで被害を直接に受けるのは、市役所や県庁の職員であり、自衛隊員であり、働く多くの人たちです。しかし、彼らだけではありません。良い労働環境で気持ちよく働いてもらって、効率的な市役所、県庁であってほしい、精強な自衛隊であってほしい、「女性の敵」を取り締まる規律ある警察組織を培ってほしいと願う私たちみんなが被害者です。公私混同のない公正で清潔な運営が行われているものとして県の行政、県信用保証協会を信頼したい私たちみんなが被害者です。市民、県民、国民のみんなが被害者です 

 

おかしいことを「おかしい」と指摘するのは、残念ながら、多くの職場で、たいへんな危険を伴う行為です。人生を賭けるのも同然の危険を伴うことさえあります。

 

 兵庫県の斎藤知事の公務における様々な問題行為を告発文書にしたたためて、特定の10の先に送った兵庫県の幹部職員、退職の予定を取り消され、再就職先が決まっていたのにそれをあきらめさせられ、県職員の地位に留め置かれて、懲戒処分を受け、ことし7月に亡くなりました。

 

 この11月にあった兵庫県知事選挙に際して、その彼に浴びせられた罵声は常軌を逸したものでした。真偽の定かではない彼の個人的な内容が記述されたポスターが兵庫県じゅうの公営の選挙ポスター掲示場に張り出されました。それを見て、女性と不倫するような人が告発者だったのかと思わされ、その反射として、彼の告発の対象だった斎藤知事に1票を投じようという有権者が続出しました。

 

 内部告発の内容とは関係がないのに、プライバシーに属する真偽不明のことがらをあれこれ非難され、それを理由にここまで激しい人格攻撃を受けなければならなかったのはなぜでしょうか。権力ある者に対する内部告発をしたからです。

 

よしんば告発者が不倫したことがあったとしても――それが本当かどうか私は知りませんが――、それが何だというのでしょうか。内部告発の内容が間違っていたことになるとでもいうのでしょうか。そうはなりません。告発者の人格が抹殺されるほどに貶められて当然だということになるのでしょうか。そうはなりません。 

 

権力者の不正を暴く情報の伝え手について、異性との関係のあることないことを暴き立てられるのは、古今東西でよく見られる現象です。告発者を貶め、その信用を傷つけ、告発内容から目をそらさせ、論点をすり替え、さらに、他への見せしめとするのが狙いの卑劣な攻撃です。そろそろ、私たちは、不倫があろうがなかそうが、そのことと内部告発の内容は無関係であり、別問題だと知るべきです。「それがこの情報の中身と何の関係があるの?」「so what?」と言えるようになりたい、そう思います。

 

警察組織で60歳まで勤め上げ、警察組織に身を捧げ、鹿児島県警の最高幹部へとのぼりつめた根っからの警察官が、退職3日後に、内部告発の手紙をジャーナリストに送りました。彼曰く、「鹿児島県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝(のがわ・あきてる)本部長が隠蔽しようとしたことがあり、そのことが、いち警察官としてどうしても許せなかったからです」「不祥事を明らかにしてもらうことで、あとに残る後輩にとって、良い組織になってもらいたいという気持ちでした」。本人がのちに述べたところによれば、そうした理由で内部告発に踏み切ったそうです。 ところが、その後、まさに、その内部告発をその警察本部長によって犯罪だと決めつけられました。自宅を家宅捜索され、自殺を図って病院に搬送されるところにまで追い詰められました。いまは、秘密漏洩の嫌疑で刑事被告人とされ、公判が始まるのを待つ身です。

 

 こうした現状を見て、職場のおかしなことについて声を上げよう、公益通報しよう、内部告発しよう、と思う人はおそらくかなり少なくなったのではないかと私は心配です。あんな目にあうのだったら黙っておこう、自分の告発の内容とは全く関係のない自分のプライベートなことをあることないことばらまかれて非難され、中傷されるリスクがあるのだったら何もやらない方がマシだ。そう思う人がいるのは当然だろうと思います。 

 

情報の内容に反論するのではなく、情報の伝え手を攻撃する――。そんなことがまかり通れば、やがて情報の伝送路は目詰まりを起こし、この社会に必要な情報が流れづらくなる。それは私たちみんなの損失です。

 

それによって被害を受けるのは誰かというと、私たちみんなです。トラックから外れたタイヤにぶつかられて亡くなってしまったお母さんとか、あるいは、原子力発電所の原子炉のひび割れが隠蔽されたことで原子力安全への信頼が失われ、その結果、原発を動かせなくなってしまった電力会社、ひいては電力の消費者、みんながその被害を受けることになるだろう、私はそう心配しています。

 

パブリックの利益を守ろう、公益を守ろう、私たちの被害を防ごう、ということに内部告発者保護の目的はあります。

 

 これは、私たちの損得の問題です。納税者としての、主権者としての、お金の問題です。身の安全の問題であることもあります。命の問題であることもあります。内部告発者、公益通報者の命の問題ではなく、自動車の欠陥や原発事故、タバコの副流煙で被害を受け、命を奪われるかもしれない私たち自身の命の問題です。

 

刑罰による威嚇ではなく、やんわりと促されるようにして、公益通報者が自然と守られるようにしたかった。 

 

しかし、兵庫県の内部告発者が受けた仕打ちを見て、私は自分の考えをはっきりと変えました。最後の手段として刑事罰で違法な報復行為を抑止せざるを得ない、そう考え直しました。

 

兵庫県の対応で特にひどかったのは、公益通報者の探索をおこなわせ、その探索の過程で押収したパソコンから、公益通報者のプライベートな内容の文書を把握し、結果として、公益通報者を黙らせようとその情報が使われたとみられることです。

 

 現行法の下ですでに公益通報者保護法11条とそれに基づく内閣府告示の指針により、301人以上の従業員がいる事業者は、公益通報者の探索を防止する措置を義務づけられており、実質的に、公益通報者の探索は禁止されています。

 

 ところが、兵庫県は今年3月に知事の指示で公益通報者の探索を行いました。9月、斎藤知事は、県議会でそれを不適切と指摘され、全会一致で不信任と決議されて知事を失職しました。なのに、斎藤知事は選挙で再選され、いまだに非を認めていません。 

 

このままでは、「公益通報を行うことを検討している他の労働者を萎縮させるなどの悪影響があり、公益通報を躊躇させる要因に」なりかねません。公益通報者の探索の禁止について、国民に十分に理解されていない現状が見られます。このため、指針ではなく、法律の規定に探索の禁止をいわば格上げするべきだと私は思います。 

 

この点、消費者庁が、法律上、事業者に対し、正当な理由なく公益通報者の特定を目的とする行為を禁止する規定を設ける、との方向性を打ち出しているのは、兵庫県の事例を教訓としたものであるといえ、私としては前向きに受け止めています。

 

職場で上げられるべき声が上げられない場合、「面倒ごとに巻き込まれたくないから見て見ぬふりをする」ことが多いです。 内部通報制度の通報先が勤め先の中にある場合、幹部や上司が通報先となる場合があります。通報窓口となった職員は、相談者の気持ちに寄り添いながらも客観的な状況を把握して聴くスキルなどが重要になります。 

内部通報制度が機能するかどうかは、相談員の傾聴スキルにもかかっているからです。知識がないまま対応すると、勇気を出して告発した職員に対して、「(加害者)を知っているけど、そんなに悪い人ではないですよ」などと言ってしまったりするのです。内部通報制度は、設置するだけでなく、中身を伴うことが健全な職場環境づくりの前提となります。