「いいえ、私はもうだめです。それにこの十数年、菊葉の命を守るためとはいえ、この身を定継に捧げてきました。もう、丈之介には会えません」
大悟は桔梗の手を取り、震える声で言った。
「親父はそんな小さい男ではない。すべてを知った今でも、母上を愛しているのです。桐紗殿のことさえ、桔梗の娘なら自分の娘だと・・・」
「そういう人、あの人はいつも大きい。
お願い、丈之介に、この身は定継に凌辱されても心はあなただけのもの。
今でも丈之介だけを愛していると・・・」
その時砕けたはずの定継の体の破片が浮き上がり、砕けたままでどろどろとした化け物として蘇った。
「桔梗、よくもよくも、わが身をたばかってくれたな。この期に及んで、まだ丈之介のことを・・・あの男こそ、殺しておくべきであったか」
定継は振り向くと、玉座に向かって両手を上げた。
「龍王よ、我が魂、我が体、すべてを捧げよう。この国のすべてを地獄と変えてくれ」
定継の体に落雷が落ちた。定継は人の体ではなく、翼を持つ大きな龍の姿に変わった。
そして、菊之介たちを振り返ると、その左手の長い爪で兵衛を突き飛ばし、すぐさま右手で桔梗を掴んだ。
それと同時に定継の腹が縦に割れ、桔梗の体をその中に飲み込んだ。
「これで良い。これで桔梗は永遠に我のもの。丈之介には決して渡さん」
菊之介たちがあまりの出来事に声もでないでいると、今度はその右手がグーッと伸びて、後ろに立っていた桐紗を捉えた。
「我が娘でありながら、菊之介に心を惑わされた裏切り者め。
妖怪として生まれ変わらせた恩も、仇で返しおって。その姿、返してもらうぞ」
定継はそう言うと、躊躇いもなく長い爪を振り下ろした。
「義姉上!」
菊之介の声が広間に響いた。桐紗は無残に引き裂かれ、その場に倒れた。
菊之介は走り寄って桐紗を抱き起した。
「私の体は父からもらったもの。本当の体はとうに死んで失くなっています。
だから、父が私を見捨てれば、もうこの姿は保てない。嘘をついてごめんなさい。
こんな醜い妖怪に成り下がっても、菊之介のそばにいたかった。
あなたの役に立ちたかった。あなたに…愛されたかった・・・」
「義姉上は美しい。醜くなんかない。わたしは義姉上がなんであろうと、愛しています」
菊之介は、初めて自分の言葉で桐紗に本心を伝えた。
「嬉しい・・・。菊之介、お願い、最後に名前で・・・」
桐紗がそうつぶやいた時、桐紗の体が薄くなってきた。
続く
ありがとうございましたm(__)m
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そして、またどこかの時代で